この話はつづきです。はじめから読まれる方は「狂女」へ
「本当はもっと早く加奈をあんたから離すべきだったな」
「自分じゃ何もやらんかったくせに」
「あんたが加奈の面倒を看たいって聞かなかったじゃないの。十年以上も」
叔父さんは黙っている。
「まさかと思うけど・・・」
「何だよ」
「おまえ、加奈に手を出したりしなかっただろうね?」
「馬鹿な事言うなよ。兄妹じゃないか」
それから沈黙があった。
「本当は知っとるんだよ。お前が色魔だって事を」
母さんの口調は相手を威圧するような凄みがある。
「お前は昔から加奈が好きだった。あの子が中学の時からパンティを盗んだり、風呂場を覗いたりしてたし、しょっちゅうあの子ばかりを褒めてた」
「・・・」
「それで、犯されて気がおかしくなってからは物にしようと狙ってたんだろう?」
「違うよ、違う・・・」
「この変態野郎!」
「待ってくれよ」
「おまえみたいな恥さらしなんかどっかへ行っちまえ!」
その時座卓を叩く大きな音がし、「馬鹿野郎!」という叔父さんの怒鳴り声が聞こえた。
居間はしばらく静かだった。
「ああ、俺は好きだよ。加奈が大好きだよ。それで悪いか」
気まずい静けさ。
「美人なんだからしょうがねえだろ」
「気持ち悪い」
「姉さんは加奈に焼きもち焼いとるんだろ?」
「何言っとるの」
「ふん」
二人の激しい言い合いで身が強張っていた僕はその場から離れる事も忘れていた。
「あれで加奈は幸せなんだ」
その時突然戸が開き、僕は、出ようとしていた叔父さんと向かい合ってしまった。
叔父さんも驚き、「聞かれちまったよ」と苦笑いをして姉に言った。
母さんは狼狽している。
「ずっと前から知っとったんだ」
叔父さんはやはり苦笑しながら小声で僕に言い、左手で肩をぽんぽんと叩いて部屋から出て行った。
僕は気まずくなって戸を閉め、二階に上がって行った。
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