この話はつづきです。はじめから読まれる方は「裏・アイドル事情 1」へ
(あれ?・・・)
クリーニングに出すつもりで、麻美は夫の
ジャケットのポケットを探っていた。
どう見ても自分のものではない長い黒髪が
2~3本指に絡まってついてきたのである。
麻美はショートカットだったし
髪は茶色に染めていた。
もちろん夫のものでもない。
明らかに女性の髪である。
(どうしてこんな所から?)
急に彼女は心臓がドキドキしてきて
手の震えが止まらなくなった。
居ても立っても居られない気分で
不安に襲われる。
(女?・・・まさか彼が浮気?)
気のせいだと思いたい。
何かの間違いであってほしい。
問いただしたら上手い言い訳をして
安心させてほしい。
でももし彼が浮気を認めてしまったら・・・。
麻美の心は怒りよりも惨めさで
覆われていた。
それは夫に対して彼女が負い目を
感じていたからかもしれない。
夫との夜の生活で彼女は一度も
エクスタシーを感じたことが無かった。
もちろんそんなことを夫に言える性格でも
なかったので、多少の演技で誤魔化してはいる
ものの、薄々彼も感じ取っているようだった。
麻美はめっきり冷え切ってしまった
夜の生活が、自分のせいだと
思わずにはいられなかったのである。
彼女にとって、夫が浮気をした事実を
知ってしまうことは、それまで己を偽り続け
この結婚を選択した自分が、
敗者に成り下がることと同じだった。
彼女は延長戦を望んだ。
「あなた、このジャケット、
クリーニングに出しときますね」
「おお」
ソファに座って新聞を広げている夫に
問い詰めたい衝動をグッと堪え、
麻美は長い髪をゴミ箱に捨て
ジャケットを袋に詰め込んだ。
つづき「裏・アイドル事情 9」へ
コメント