この話はつづきです。はじめから読まれる方は「狂女」へ
二人の女性が加奈さんのもとから立ち去りがたい様子でいた時、勝叔父が近付いて来て彼女らに何やら話し掛けた。
「私たち、高校時代に加奈と友達だったんです」と一人が答えると叔父は二人を探るような目で見詰めた。
それから一言二言ぼそぼそ言って妹の腕を取り、橋を渡って僕とは反対側へそそくさと行ってしまった。
女性二人はしっくりしない顔で加奈さんたちの方を見ている。
僕はその二人の方へ行って、「すいません」と声を掛けた。
彼女たちはこちらへ振り向いた。
「加奈さんって、僕の叔母なんです」
「え?」
「あら」
「叔母さんの事で色々聞いてもいいですか?」
「いいけど・・・」
やがて僕たちは、友里恵さんとは池を挟んで向かい合った側のベンチに掛けた。
それを見ていた友里恵さんが、「何やってるのお!?」と怒ってこっちに近付いて来た。
「ごめん、ちょっと大事な話があるんだ」
「大事な話って何よ!」
「いいから」
僕は手で友里恵さんを制しようとしたが、彼女はそのまま怒って帰ってしまった。
「いいの?」聞かれ、「いいんです」とあえて答えた。
それから僕は気が落ち着いた後、二人に、「叔母の高校時代の友達に会えるなんて思ってもみませんでした」と言った。
「加奈はあれから治ってないのね・・・」
智子さんという、すぐ隣の人が暗い口調で呟いた。
「強姦されたそうですが・・・」
「そう」
しばらく三人共黙っていた。
「一緒にいた男の人は誰?」
智子さんの隣の芳美さんに尋ねられ、「あれは僕の叔父で、加奈さんの兄です」と答えた。
「そう・・・」
又言葉が途切れた。
園内の華やいだ雰囲気とはまるで違う、沈んだ気分が僕たちを包んでいた。
「叔父から聞いたんですけど、叔母は優秀だったそうですね?」
「うん。勉強が出来てね。学級委員をしていたんだよ」
「そうですか」
「スポーツも出来て、テニス部に入ってた」
「ほお」
「あんないい子が・・・」
芳美さんが憐れむように呟いた。
智子さんも辛そうな表情でいる。
「強姦事件の事はよく知ってるんですか?」
「あんまり」
彼女たちはそれ以上話さない。
僕は三人の高校時代についてもっと深く知りたかったが、そんな雰囲気ではなかった。
ただ、彼女たちによって加奈さんが多少でも強姦前の記憶が甦り、それによって精神が正常な兆しを見せるのではないかという淡い期待を抱いており、その為に、叔母のかつての親友、智子さんと芳美さんとはこの先も接触していきたいと思っていた。
その事を言うと彼女たちも同意し、加奈が昔のようになれるなら何でも協力する、と言ってくれた。
つづき「狂女25」へ
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