この話はつづきです。はじめから読まれる方は「狂女」へ
「日帰りでどこかへ行こうか?」
友里恵さんに聞かれた。
「そうだなあ」
「あしたにでも京都へ」
「ええ?」
「冗談。でも、近い内にきっとよ」
「わかった」
デパートが閉まっているせいもあり、僕たちはもう帰る事にした。
冬休みの間にもう一度加奈さんに会おうと思って夕方に電話を掛けたが、出ない。
その時はたいして気に留めなかったものの、夜に再び電話をしても出なかった。
叔父さんは妹を取られるのが癪で、わざと僕を無視しているんじゃないかと疑って不愉快だった。
もう二十年近くもいい様にしているんだから妹をこっちによこせ、と言ってやりたい。
居間で両親と一緒に正月の馬鹿騒ぎ番組を見ていても面白くない。
こうしている間にもあの男は妹を抱いているかもしれないという思いが頭から離れず、我慢出来ずに自室へ行って籠った。
神宮で見た加奈さんの姿、特に黄色いスカートが今もはっきり記憶に残っており、叔父は加奈さんを着せ替え人形のようにして毎日下着や洋服などを自分の好みで取り替えているかと思うとたまらなくなるのだった。
去年の夏頃から叔母への思いが強くなっていくに連れ、歪んだ欲求も抑えがたくなっていった僕は凌辱小説や江戸川乱歩のDVDなどに密かに親しみ、見つからないよう部屋の隅に隠していた。
そんな陰湿な経験でいつしか、[女を飼育する]という事を知ったのだった。
不道徳で、知られたら色摩とか最低の人間などと罵られ、軽蔑されるに違いないが、その暗くじめじめした感じが何とも甘く思えるのだ。
全裸の加奈さんを一室に閉じ込め、食べさせたり排便させたり・・・犬の首輪を嵌めさせて這わせる・・・。
僕は様々な場面を夢想しながら何度自慰をしてきた事か。
この楽しみが無ければ今頃正常な精神を保ってはいないだろう。
なのに、一方で加奈さんを慕い、時にはその境遇に同情するのだ。
同性の友達たちと屈託無い笑顔でいた十代の加奈さんが無性に愛らしく思えるのだ。
そうした感情や欲望を勝叔父さん以外の人には気付かれないままずっと来たのだった。
浜田友里恵という同級の少女が僕にはオアシスのような存在だった。
正月以来加奈さんを抱けずに悶々としていた時、友里恵さんの部屋で初めて体の関係を持った。
友里恵さんは痛みに顔をひどく歪めながらも、僕に処女をあげられて良かった、と言ってくれた。
これで二人の女性と交わった事になる。
女は最初の男を忘れられない、なんてどこかで聞いた覚えがあるけれど、もしそうなら彼女はもう僕の言いなりかもしれない。
友里恵さんの体はやはり若々しくて弾力に富み、釣鐘型の乳房は柔らかいが、どんなに揉まれても崩れない。
性器はきついくらい締まりが良かった。
ただ、それでも僕の心は充分には満たされなかった。
他の女性では所詮無理なのだ。
時間はゆっくりと着実に過ぎて行った。
二月にはこの冬初めて雪が積もり、国道では交通渋滞が起こった。
車や人が通らない所では雪が純白で美しく、わざとそこを歩いて足跡を付けてやった。
綺麗な物をけがす快感だ。雪は翌日には溶けてしまい、自宅の庭の片隅で水仙が白と黄の清楚な花を咲かせていた。
しばらく経つと、近所の家の庭に白梅の花が咲いた。
もうすぐ桜が咲くんだなあ・・・と、近付く春を思った。
このように自然は毎年変わり無くそれぞれの様を見せるのに、僕と加奈さんの関係はあれから全く進まなかった。
電話を掛けても出ず、勝叔父たちの家に行こうか、と何度も思ったのだが、彼が取るだろう態度を予想すると決心が付かなかった。
このまま春になり、さらに夏を迎えた頃には加奈さんは僕の事なんか忘れてしまっているかもしれない・・・。
もうあの人の事は諦めた方がいい、と自分に言い聞かせもするが、学校の授業中にさえ加奈さんの面影が浮かび、ぼうっとしている事は二度、三度ではなかった。
梅も過ぎ、桜の花が七部咲きくらいになっていた日曜日に僕は友里恵さんと岡崎公園へ遊びに行った。
薄いピンク色が実に美しい。
「本当にきれいねえ」
「名所だからな」
ゆっくり歩きながら桜を楽しんだ。
僕たちの右側のはるか下には広い池があり、ガチョウが泳いでいる。
その池を見下ろし、何気無く、紅色の反り橋の方を見た時、はっとなった。
加奈さんと勝叔父が橋の欄干に掴まって池を眺めているのだ。
体が硬直したように二人を見ていた時、叔父が僕の視線に気付いてこちらに目をやった。
その途端、彼は不機嫌そうな顔になって加奈さんの手を欄干から離して共に歩き出そうとしたが、加奈さんが、「嫌!」と強く拒んだ為橋の上にい続けた。
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