出会いの街角(一話)_ハッピーライフ-官能小説(happylives-novel)

牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜 ——日野草城

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出会いの街角(一話)

15-06-14 09:15

……きみ、何歳?

……二十四です。

……彼氏はいるの?

……少し前に別れました。

……こういうことは初めて?

……どうかな。

……いつなら会える?

……日にちが決まったら連絡します。

インターネットの出会い系サイトでのやり取りである。

あれから一週間が過ぎたが、彼女からの連絡はまだない。

今回もサクラだったのかと諦めかけていたシンジの元に、一通のメールが届く。

『ミサです。金曜日の夜なら大丈夫です』

この場面でもシンジはまだ半信半疑だった。

しかし欲求が溜まっていた彼は何度かメールを交わした後、約束通りに彼女と会うことにしたのだった。

ファミリーレストランにて、

「はじめまして」

ミサと名乗る若い女性が自己紹介をすると、

「こ、こちらこそ、よろしく」

気後れしながらシンジも彼女にならう。

「シンジさんて、思ってたよりも優しそうな人で、よかったです」

「いいえ俺のほうこそ、ミサさんみたいな可愛い子と会えるなんて、嘘みたいです」

まわりの雰囲気に溶け込んでいない二人は、食事をするのも忘れてお互いの人柄を探り合った。

「そろそろ行きましょうか」

シンジがきっかけをつくり、店を出て、駐車場に停めてあった車に乗り込む。

「ちょっと言いにくいんですけど……」

助手席の彼女がもじもじしながらそう言う。

「どうかしました?」

「じつはあたし、その、強いみたいなんです……」

「何が強いんですか?」

「だから、ええと、あっちのほうが……」

うつむくミサの横顔をのぞき込んでみて、シンジはなんとなく解答を得る。

「もしかして、性欲のこと?」

彼女は返事をする代わりに右手を浮かせて、そのままシンジの左腕に触れた。

ホテルに行く前に寄って欲しいところがあるのだとミサは言った。

ごくりと生唾を飲むシンジ。

行き先は、歓楽街の路地裏にあるアダルトショップだった。

「やっぱりまずいですよ」

店の入り口付近で立ち止まるシンジ。

その背中に隠れるようにしてミサが立ちすくんでいる。

「あたしのこと、ちゃんと守ってくださいね」

「どうしても中に入りたいんですか?」

うん、とうなずく彼女。

そうして二人は寄り添ったままドアを開け、蜘蛛の巣を払うようにしてカーテンの奥へと進入した。

シンジの危惧した通り、薄暗い店内は餌に飢えた狼たちでいっぱいだった。

誰も彼もが血走った目をしており、興奮した視線をミサに注いでいる。

それに加えて店内のこの品揃えである。

それこそ成人向け雑誌にはじまり、大小さまざまなアダルトグッズに卑猥なコスチューム、ローションや避妊具まで網羅しているのだ。

「外に出ましょうか?」

シンジが彼女にたずねると、どこからか悩ましい声が聞こえてきた。

どうやらアダルトビデオのサンプル映像のようだ。

大人の男女が裸で絡み合っている。

それをまじまじと見つめるミサの顔は、危ういほどのピンク色に火照っていた。

シンジはさらに視線を下ろしていく。

痩せ型に見えても、胸にはそれなりのボリュームがある。

くびれは標準といったところだろうか。

そして、脚の七割ほどを露出させたショートパンツ姿。

いつ輪姦されてもおかしくないこの状況で、彼女は何を思っているのだろう。

「あのう……」

虚ろな目をしたミサがシンジのことを見る。

彼は耳をかたむけた。

「あれって防犯カメラですよね?」

そう言って見上げる彼女に合わせて、シンジも首を後ろにひねる。

「そうみたいですね」

「あたし、みんなに見られてる……」

ははあ、なるほど、とシンジは納得する。

彼女は怯えているのではなく、このシチュエーションに陶酔しているのだ。

男性客らのいやらしい視線と防犯カメラの冷たい視線、それらを浴びることによって逆撫でされる性欲に身をまかせて、完全に性犯罪の被害者になったつもりでいる。

「あたし、普段はこうじゃないんです。信じてください」

「わかるよ。ミサは普通の女の子だけど、時々こんなふうに刺激が欲しくなるんだよね?」

シンジは表情を変え、言葉遣いを変え、彼女を口説くようにして熱い息を吹きかける。

至近距離で嗅ぐ彼女の匂いに気が遠くなりそうだった。

つづき「出会いの街角(二話)」へ


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