……きみ、何歳?
……二十四です。
……彼氏はいるの?
……少し前に別れました。
……こういうことは初めて?
……どうかな。
……いつなら会える?
……日にちが決まったら連絡します。
インターネットの出会い系サイトでのやり取りである。
あれから一週間が過ぎたが、彼女からの連絡はまだない。
今回もサクラだったのかと諦めかけていたシンジの元に、一通のメールが届く。
『ミサです。金曜日の夜なら大丈夫です』
この場面でもシンジはまだ半信半疑だった。
しかし欲求が溜まっていた彼は何度かメールを交わした後、約束通りに彼女と会うことにしたのだった。
ファミリーレストランにて、
「はじめまして」
ミサと名乗る若い女性が自己紹介をすると、
「こ、こちらこそ、よろしく」
気後れしながらシンジも彼女にならう。
「シンジさんて、思ってたよりも優しそうな人で、よかったです」
「いいえ俺のほうこそ、ミサさんみたいな可愛い子と会えるなんて、嘘みたいです」
まわりの雰囲気に溶け込んでいない二人は、食事をするのも忘れてお互いの人柄を探り合った。
「そろそろ行きましょうか」
シンジがきっかけをつくり、店を出て、駐車場に停めてあった車に乗り込む。
「ちょっと言いにくいんですけど……」
助手席の彼女がもじもじしながらそう言う。
「どうかしました?」
「じつはあたし、その、強いみたいなんです……」
「何が強いんですか?」
「だから、ええと、あっちのほうが……」
うつむくミサの横顔をのぞき込んでみて、シンジはなんとなく解答を得る。
「もしかして、性欲のこと?」
彼女は返事をする代わりに右手を浮かせて、そのままシンジの左腕に触れた。
ホテルに行く前に寄って欲しいところがあるのだとミサは言った。
ごくりと生唾を飲むシンジ。
行き先は、歓楽街の路地裏にあるアダルトショップだった。
「やっぱりまずいですよ」
店の入り口付近で立ち止まるシンジ。
その背中に隠れるようにしてミサが立ちすくんでいる。
「あたしのこと、ちゃんと守ってくださいね」
「どうしても中に入りたいんですか?」
うん、とうなずく彼女。
そうして二人は寄り添ったままドアを開け、蜘蛛の巣を払うようにしてカーテンの奥へと進入した。
シンジの危惧した通り、薄暗い店内は餌に飢えた狼たちでいっぱいだった。
誰も彼もが血走った目をしており、興奮した視線をミサに注いでいる。
それに加えて店内のこの品揃えである。
それこそ成人向け雑誌にはじまり、大小さまざまなアダルトグッズに卑猥なコスチューム、ローションや避妊具まで網羅しているのだ。
「外に出ましょうか?」
シンジが彼女にたずねると、どこからか悩ましい声が聞こえてきた。
どうやらアダルトビデオのサンプル映像のようだ。
大人の男女が裸で絡み合っている。
それをまじまじと見つめるミサの顔は、危ういほどのピンク色に火照っていた。
シンジはさらに視線を下ろしていく。
痩せ型に見えても、胸にはそれなりのボリュームがある。
くびれは標準といったところだろうか。
そして、脚の七割ほどを露出させたショートパンツ姿。
いつ輪姦されてもおかしくないこの状況で、彼女は何を思っているのだろう。
「あのう……」
虚ろな目をしたミサがシンジのことを見る。
彼は耳をかたむけた。
「あれって防犯カメラですよね?」
そう言って見上げる彼女に合わせて、シンジも首を後ろにひねる。
「そうみたいですね」
「あたし、みんなに見られてる……」
ははあ、なるほど、とシンジは納得する。
彼女は怯えているのではなく、このシチュエーションに陶酔しているのだ。
男性客らのいやらしい視線と防犯カメラの冷たい視線、それらを浴びることによって逆撫でされる性欲に身をまかせて、完全に性犯罪の被害者になったつもりでいる。
「あたし、普段はこうじゃないんです。信じてください」
「わかるよ。ミサは普通の女の子だけど、時々こんなふうに刺激が欲しくなるんだよね?」
シンジは表情を変え、言葉遣いを変え、彼女を口説くようにして熱い息を吹きかける。
至近距離で嗅ぐ彼女の匂いに気が遠くなりそうだった。
つづき「出会いの街角(二話)」へ
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