この話はつづきです。はじめから読まれる方は「出会いの街角(一話)」へ
「よし、いい子だ」
シンジは彼女の髪を撫で、一仕事を終えた自身の指をミサのヴァギナから引き抜いた。
粘つく分泌液のすじが糸を引いて床を這う。
その汚れた有り様を彼女に見せつけるシンジ。
当然ミサは顔を背ける。
しかしすぐそばに見知らぬ男性客がいることに気づき、彼女は小さな悲鳴をあげてシンジにしがみついた。
「大丈夫、彼らにだってプライドはあるから」
シンジの言った通り、男性客らはミサには手を出さなかった。
いいもんを見させてもらったよ、と言って、彼女の胸元に紙幣を差し込む客がいた。
「こんなの受け取れません」
おなじくミサにもプライドがあるのだろう。
しかしシンジは言った。
「こういう場合は受け取っておくのが礼儀なんだよ」
これで納得してくれたのかどうかはわからないが、彼女の顔には微妙な笑みが浮かんでおり、先ほどの指責めを引きずっているようにも見えた。
無数のアダルトグッズに取り囲まれた二十四歳の女子行員、ミサ。
普通に可愛いとシンジは思う。
「ちょっとだけ質問、いいかな?」
彼女の腰を抱きながらシンジは訊いた。
「何ですか?」
「女の人ってさ、みんなオナニーをするのかな?」
それには答えず、ミサは黙り込んでしまう。
「ミサはしてるんだろう?」
シンジはバイブレーターの箱を手に取り、それを彼女と一緒に品定めする。
「そんなこと、訊かないでください……」
「指でしてる?それとも道具を使う?」
「ええと、どうかな……」
なかなか認めないミサの表情にも、どこか男に飢えたような色が灯りはじめる。
二人はディルドーの陳列棚を眺めた。
「すごおい……」
彼女は憧れの眼差しで商品を見た。
となりにはSMグッズも並んでいる。
トイレを我慢するような仕草をするミサは、どうやら値段を気にしているようだった。
おもちゃは試してみたいが手が出ない、そんな感じである。
「ぜんぶ買おう」
シンジは男前な台詞で彼女を驚かせた。
「ぜんぶ?」
「俺にまかせといて」
そうして店を出てふたたび車に乗り込む二人。
トランクルームには大きな買い物袋が二つ、そしてシンジの手には小さな紙袋がある。
中身を開けるとリモコン式のローターがあらわれた。
それを彼女に手渡すと、二人は息を揃えてうなずいた。
コンビニのトイレを借りるからと言ってミサは車を降りた。
数分後、彼女が小走りで帰ってくる。
ついでに飲み物を買ってきたらしい。
「はい、どうぞ」
「サンキュー」
シンジは冷たい缶コーヒーを受け取ると、プルタブを開けて口をつけた。
「それで、どうだった?」
彼は興奮気味に確認した。
「どうって?」
とぼけるミサ。
「ちゃんと中に入ってる?」
「それは……」
ゆっくり間をとりながら、ばっちりです、と彼女はピースサインをして微笑んだ。
こんなに可愛い笑顔が毎日見られるとしたら、ほんとうに悔いの残らない人生が遅れるだろうとシンジは思う。
そんな彼女のことを自分の勝手で辱めようとしているのだ。
しかし彼女もそれを望んでいる。
「何か考え事ですか?」
ミサのその声で我に返るシンジ。
「ごめんごめん、これからミサのことをどんなふうに調教しようかって考えてたんだよ」
「調教って、あたしはサーカスの動物じゃないんですけど」
「まあ、そのうちにわかるよ」
シンジはローターのリモコンを手に取った。
「ちゃんと作動するかどうか、とりあえずテストしてみようよ」
そう言ってシンジはいよいよスイッチに指を添える。
途端にミサの体が強張って、膝の上の手がグーを握る。
「いくよ?」
「うん……」
「心の準備は?」
「できてないですけど……」
「押していい?」
「どうぞ……」
「それじゃあ」
「はやくしてください……」
「やっぱりやめた」
「そんな、どうして……」
そうやってミサが油断したところを狙って、シンジはローターを始動させる。
「あ……ん……んん」
くぐもった振動音を合図に、彼女はびっくりしたように肩を震わせ、それから上品に声をひそめた。
「いじわる……うう」
涙目になってもなお上品に振る舞うミサの下腹部に、シンジが耳を近づける。
「聴こえる、ミサの中からローターの音が漏れてる」
「これって何か、妊娠した奥さんに寄り添う旦那さんみたい」
「確かに」
二人のあいだに含み笑いが生まれる。
つづき「出会いの街角(四話)」へ
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