Once upon a summer time - ある夏の出来事5_ハッピーライフ-官能小説(happylives-novel)

牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜 ——日野草城

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Once upon a summer time - ある夏の出来事5

15-06-14 09:18

この話はつづきです。はじめから読まれる方は「Once upon a summer time - ある夏の出来事」へ

『第5楽章 - 白鳥の湖』

  
  どうしても片付けて置きたい仕事、いや実務ではなく社内イントラで受講する教育プログラムを進めるために土曜日だと言うのにオフィスに向かっていた。

  少し遅めの朝食を取るために、オフィスが入るビルの隣のビルの地階にあるカフェに立ち寄った。地階と言っても日差しが差し込むテラス席がある。

「いらっしゃいませ」

「クロワッサン・サンドウィッチとカプチーノをお願いします」

「お持ち帰りですか?」

「いや、外のテラス席で」

「かしこまりました。クロワッサン・サンドウィッチは出来上がり次第、お持ちいたします」

「どうもありがとう」

  その場で準備してくれたカプチーノを持ち、カウンターからテラス席に移動している時にメールの着信音が鳴った。予想した通り、聖子からのメールだった。

『おはようございます、変態さん。昨晩は遅くまでお付き合いしてくれてありがとうございました。今日は、大学時代のお友達と女子会なの。10時には帰宅できると思います。チャットでお話するのは11時で大丈夫かしら?聖子』

『おはよう、外資系役員秘書殿。こちらこそ楽しい時間を過ごせて感謝してるんだ。女子会はエロトーク全開?楽しんでおいで。こっちはオフィスに行く前の朝食@近くのカフェなんだ。じゃあ、夜に』

  リプライのメールを送信しようとした時に、クロワッサン・サンドウィッチが運ばれて来た。

「お待たせ致しました。ごゆっくりどうぞ」

「ありがとう」

  カウンターにいた店員とは別の店員だった。初めて見る顔だから、週末だけアルバイトをする女子大生だろう。少し小柄で短めの髪がかおりを思い起こさせた。10数年前のかおりは、きっとこんな雰囲気だったのだろう。

『土曜日だと言うのにお仕事なんてお気の毒です。頑張ってください。聖子』

  聖子のメールには、昨晩のウェブチャットと同じようにウィンクしベロを出した顔文字が付けられていた。

『その顔文字がお気に入り?外資系役員秘書殿のイメージとはギャップがあっていいかもね。仕事じゃなくて、社内の教育プログラムを受講しようと思ってね』

『あら、お仕事じゃないのね。前にハーバードのプログラムが難しすぎってコメントしてたわよね』

『そうそれの延長。今日予定しているのはネイティブのアメリカ人でも3時間のコースだから、プラス2時間は覚悟しているんだ』

『わかったわ。お邪魔しないようにメールはこれで終りにするわね。息抜きが必要になったら、いつでもメールしてね。外資系役員秘書殿のオフショットを見せてあげるから』

『わかった、ありがとう』

  カプチーノとクロワッサンのサンドウィッチの朝食を取りながら、聖子のプロフィールを開いて見た。昨夜、最後に見た時から更にコメントが増えていた。

『タイトスカートとハイヒールの組合せでのM字開脚最高です』

『オモチャは自分で買うんですか?それともネット通販ですか?都内住みなのでメールください、一緒に買いに行きましょう』

『今夜もリアルタイムの写真を撮るんですか?よろしければリクエストさせてください』

  リアルタイムで繰り広げられた熱狂的なコメントに比較すると、土曜日の朝であることもあるのか、どちらかと言えば冷静なコメントが多い印象だった。

  そのコメントに混じり聖子自身のコメントが投稿されていることに気付いた。

『昨晩はたくさんの感想をいただきありがとうございました。今日は大学時代のお友達と女子会です。このワンピースはいかがかしら?聖子』

  聖子のプロフィールのアルバムを開くと、さっきまでは存在していた「役員会議室のひとり遊びに使う小道具」に代わり、姿見の前に立つ「白と水色のストライプのワンピース姿」と「淡いクリーム色に薄いピンクの花びらが散りばめられたワンピース姿」の女の画像が貼り付けられていた。画像を拡大すると今日の日付の後にそれぞれ5分前、10分前の時間が刻まれていた。

  ネットサーファーが多いのだろうか、新しいワンピース姿に反応したコメントが書き込みされ始めた。

『清楚な奥様のリゾート姿みたいな姿が素敵です』

『普段のタイトスカート姿とのギャップがそそられます』

  反応の速さに聖子自身も驚いたのだろう、やんわりと釘を刺すようなコメントを残していた。

『女子会の前にお買い物に行って来ます。皆さまのメールは嬉しいのですが、お友達からのメールが埋もれてしまうといけないので転送機能は停止させていただきます。聖子』

  聖子自身のコメントを読むと、相当数のメールが送られていることが想像出来た。今、メールを送っても気付かれないだろうと考えたことと、少しからかいたいと言う悪戯心が芽生えた。

『外資系役員秘書殿、そのワンピースの下は生まれたままの姿ですか?今夜は、ワンピースの裾を捲り上げてください。それにしても、お似合いです』

  驚いたことに聖子から直ぐにメールが送られて来た。

『どこのお馬鹿さんかと思ったら、あなただったのね。早く朝食を済ませて、お勉強の時間でしょ?でも、そのアイディアいただくわ』

  聖子のメールは、ウィンクしベロを出す顔文字で終わっていた。それ以上に驚いたのは、悪戯心から残したコメントに対してのコメントが何通か書き込まれてしまったことだった。

『えっ?ワンピースの下はNBNPなんですか?今夜の写真楽しみにしてます』

『すみません、NBNPってなんのことですか?ご存知の方、教えてください』

  最後のコメントを目にした瞬間、聖子からもメールが送信されて来た。思わず笑ってしまう内容だった。

『NBNPって何かご存知?』

『ノーブラ・ノーパンの略語だよ。直接的に表現するより、文学的に生まれたままの姿って表現したんだけどね』

『ありがとう、考え過ぎたみたい。まだ食べているの?』

『トレイをカウンターに戻そうとしたところ。これからオフィスに向かう』

『頑張って勉強してね。夜、楽しみにしてるわね』

『女子会楽しんで』

  今朝の聖子のメールで、言葉遣いに柔らかさを感じていた。役員秘書として外資系企業で勤務するのには、それなりのプレッシャーを感じているのだろう。昨夜は、オンからオフに切り替わって間もない時間だったからだろうか?それとも、大人のキャリアウーマンを演じることを止めたのだろうか?あるいは、聖子自身がチャーミングな女性に感じると言った「かおり」のことを意識したのかも知れなかった。

  カフェを出てオフィスに向かうとパソコンを立ち上げた。イントラネットにアクセスすると個人のデータベースを開きオンライン・トレーニングを始めた。

  オンライン・トレーニングは自分のペースで進められるメリットがある一方で、一旦集中力を切らすとリカバリーに苦労する。英語をネイティブとするアメリカ人にとっても3時間を要するコースだった。一心不乱に2時間を費やし、ようやくコースの50%に到達していた。このペースで行けば4時間程度で修了するかも知れない、それでも後半のテストセクションは80%以上の正解をしなければクリア出来ない。それに、脳ミソがオーバーヒートし始めていた。気分転換も兼ねて聖子にメールをした。

『外資系役員秘書殿、お洒落な土曜日の午後をお過ごしでしょうね?2時間掛けてコースの半分まで辿り着いた。ちょっと気分転換をするからメール大丈夫だよ』

  メールをしながらオフィスを出るとエレベーターに乗り込んだ。同じビルにテナントとして入る珈琲専門店で濃いコーヒーを買うためだ。

「いらっしゃいませ」

  蝶ネクタイとヴェストがベテランのバリスタと言った雰囲気を漂わす店員がカウンターから会釈を送る。

「持ち帰りでエスプレッソ、ダブルをお願いします」

「かしこまりました」

  代金を支払いお釣りを受け取るタイミングでメールの着信音が聞こえた。

『お疲れ様、聖子です。買い物の途中でお茶してました。アールグレイのアイスティーよ。後半戦頑張ってください』

  聖子のメールには画像が添付されていた。白いレースなのは間違いないが、ビニールのショッピングバッグの中を撮った写真では、それが何かまでは理解出来なかった。

  メールを読み、添付画像を見て、顔を上げるとバリスタがカップを紙袋に入れようとしていた。

「あっ、カップのままでいいです」 

「ありがとうございます。お熱いのでお気をつけください」

「どうも」  

  バリスタの声を遮るように手を伸ばし、カップを受け取るとエレベーターホールに向かった。カップをベンチに置くと、聖子のメールに返信した。
 
『買い物途中にアールグレイなんて優雅な時間を過ごしているじゃないか?悲惨な時間を過ごしているおれと正反対だ。気分転換と眠気覚ましにエスプレッソをテイクアウトした。「白鳥の湖」を思わせる写真は何?』

  送信ボタンを押すと、カップを手にエレベーターに向かった。土曜日のオフィスビルにはほとんど人がいないせいか、エレベーターは直ぐに扉を開き、目的のフロアまでノンストップで向かった。

『白鳥の湖?これを着てもバレリーナには見えないわ。ネグリジェなの、今夜お見せするわねNBNPで。じゃあ、お勉強の続く頑張ってね。聖子』

  聖子のメールは、ウィンクしベロを出す顔文字で終わっていた。

   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆

  想像したとおり、ハーバードのビジネスコースは後半になると難問のテストに手こずった。前半でゲインした時間を後半で吐き出しトータルで5時間を費やしてしまった。

  時計を見ると、あと15分で5時になるところだった。恵比寿での5時半の待ち合わせには丁度よいタイミングだった。元同僚で今は、個人で輸出入業務の経営を始めた悪友からの誘いだった。

  パソコンの電源を落としているとメールの着信音がした。

『聖子です。お疲れさま、お勉強は終わった頃かしら?わたしは、女子会に出掛けるところです。じゃあ、おうちに着いたらメールします』

  添付されている画像を開くとシアサッカーのワンピースに紺色のカーディガンを羽織っている姿だった。そして、もうひとつの画像はひとり遊びの道具だった。

『予想以上に時間が掛かったけど、ひとつコースを修了出来た。これから、元同僚たちと恵比寿で軽く飲みに行く。

それにしても、外資系役員秘書殿のひとり遊びはエスカレートしてるんじゃないか?乳首にクリップで着けるバイブだろ?もしかしたら、今日買ったのか?』

  聖子からの返信が間髪入れずに帰って来た。

『ばれちゃった?わたし胸が小さいのが、ずっとコンプレックスなの。だから少しでもセクシーに見せたくて。可愛い女心でしょ?』

  昨晩、いや今日の未明に見せてくれた乳房は大きいとは言えないがBカップ位はあるように見えていた。集めて寄せていたのだろうか、手のひらにすっぽりと収まるサイズだろう。

『今夜のお披露目が楽しみだ。伝言板も賑わうだろうね。じゃあまた』

  エレベーターで地階まで降りると駅への長いエスカレーターに乗った。立ち止まり、聖子のプロフィールの伝言板を見ると、何人かの書き込みが残されていた。

『昨日は見逃した自画撮り楽しみにしてます。よかったらメールで話しませんか?』

『ハイヒールとタイトスカートの組み合わせでキャリアウーマンのオーラが凄いですね。今度、顔面騎乗して欲しいです』

『今夜のNBNP姿が楽しみです』

  伝言板ではさほど下品な書き込みはないものの、この書き込みの何倍ものメールが送られているのだろう。転送機能を止めているから読まれることもなくお蔵入りになるのだろう。聖子によると、下半身の画像が添付されていたり、染み付きの下着の購入を希望したり、愛人契約の申し入れをしたり、ネットの裏社会の縮図のようだ。

  エスカレーターを乗り継ぎ改札を抜け、更にエスカレーターでホームに降りると計ったようなタイミングで目的地に方面への電車がホームに入って来た。


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