この話はつづきです。はじめから読まれる方は「Incomplete Beginnings - 未完の始まり」へ
第16話『A Diamond in the Sand 』
実可子と由紀にとっての初めての冒険は時間としてはごく短いものであったが、好奇心や羞恥心、緊張感が複雑に混じりあったものだったようだった。
「玲様ぁ、由紀、喉からからです」
そう訴える由紀の手を掴むと、玲は由紀の指先を自らの花びらに導いて言った。
「喉は渇いても、ここはびしょびしょじゃないか」
「もぉう、玲様の意地悪ぅ」
「溢れた蜜が太股を伝ってるのが見えるくらいだ」
「だってぇ、もうドキドキが止まらなかったんですもん」
玲と由紀の言葉のキャッチボールをにこやかに聞いていた実可子が声を掛けた。
「由紀ちゃん、わたしの飲み掛けで良かったらコーヒー飲む?」
「大丈夫です。飲み物持って来てるんです」
そう言いながら由紀はライティングデスクに置いたトートバッグからペットボトルを二本取り出した。
「まるで、ドラえもんのポケットだな。ローターが出てきたと思ったら」
「もぉう、玲様って本当にS様なんですね。そう思いません、実可子さん?」
由紀は、嬉しそうに口を尖らせ実可子に同意を求めた。
「そうね。でも由紀ちゃん、玲様がアメリカの方になんて言ったか覚えているでしょ?」
「一緒に飲もうって?」
「ううん、その後。You have just seen midnight fairies 妖精を見たって」
全裸でホテルの廊下を駆け抜けた実可子と由紀を見たアメリカ人に玲が言った言葉だった。
「あぁ、だから実可子さん気障だと言ったんですね、玲様に」
「でも、部屋を出てすぐは座敷童子みたいだったよふたりとも」
玲がからかうように言うと由紀が反論した。
「えぇ、座敷童子より妖精って言われた方がいいですよ。それより、玲様見たことあるんですかぁ? 座敷童子のこと?」
「ある訳ないだろ、小さな歩幅で小走りしてるイメージあるだろ?」
「玲様、座敷童子を見るとラッキーなことがあるって言うじゃないですか?だから、きっといいことありますよ」
実可子の冷静な回答に、すかさず由紀が反応した。
「実可子さん、ポジティブですね、それに大人ぁ」
「ラッキーなこと?そうだね、もうあったよ、座敷童子を見る前から。。。こうして、ふたりと過ごしているじゃないか」
「うわぁ、玲様、気障過ぎぃ」
由紀が、いつもの調子で玲をからかった。
「別に、気障じゃないだろ?素直な感想だよ。座敷童子を見たと言うより、砂の中のダイアモンドを見つけたと言う方がロマンティックか?」
「お世辞でも嬉しいお言葉です。素敵なお誕生日プレゼントを戴いたみたいです」
実可子と玲の大人の会話に少し嫉妬を感じたのか、由紀が玲に抱き付いて言った。
「玲様ぁ、由紀にもプレゼントください」
「喉が渇いてるんだろ?何か飲んだらプレゼントあげるよ」
由紀は、嬉しそうに頷くと二本のペットボトルを実可子の目の前に差し出した。
「あらっ、それって」
「そうです。さっき、美鈴ちゃんが実可子さんのお気に入りはアップルティー・ソーダだって聞いたから。お誕生日のプレゼントで、由紀の特製ブレンドで作ってあげますね」
「ありがとう由紀ちゃん、嬉しいわ。じゃあ、グラス洗って来るわね」
「ダメですよ、お誕生日なんだから座っててください」
そう言うと、由紀はコーヒーが入ったままのグラスを手にした。
「玲様は、アイスコーヒーでいいですか?」
「ありがとう、アイスコーヒーでいいよ」
玲が答えると、由紀はグラスを持ってバスルームに向かった。
そして、玲はライティングデスクの前の椅子に腰掛け、実可子をアームチェアに座らせた。
「由紀ちゃん、本当に気が利くいい子ですね。仕事も、あんな感じですか?」
「そうだね、女だてらって言ったら語弊があるかも知れないけど、大高さんのグループでは一番の有望株だと思う」
「大高さんのDNAですか?」
「大高さんの仕事を見てれば、そうなるのかな?」
洗い終えたグラス二個と自分用のシャンパングラスを持ってテーブルに戻って来ると、由紀は上司である大高の名前を聞いて驚いたようだった。
「大高がどうかしましたか?」
「由紀が大高さんのグループで一番仕事が出来るって話をしてたんだよ」
「もぉう玲様ったらぁ。からかわないでください」
由紀は言葉とは裏腹に嬉しそうな表情を見せた。
「本当よ由紀ちゃん。玲様は、大高さんのDNAを一番引き継いでるのは由紀ちゃんだって」
「それで大高の名前が出てたんですか?」
「そうだよ。実可子お姉さまが、由紀が気が利く子だって感心してたからね」
そう言うと、玲は由紀を引き寄せ、頭を優しく撫でた。
「嬉しいですぅ。憧れの実可子さんに、そんな風に言っていただけて」
由紀は本当に嬉しそうに言いながら、アームチェアに腰掛けた実可子に抱き付いて頬にキスをした。
玲は、その様子を見て由紀が本当に甘え上手であり、同性にも興味があると言ったことを納得した。
「さあ、アップルティー・ソーダをブレンドしますね。実可子さんは炭酸強めがいいですか?」
テーブルに置いた三個のグラスに氷の塊を入れると由紀が尋ねた。さっき生まれたまま姿で実可子と取って来た氷だ。
「そうね。少し炭酸の刺激が欲しいから強めで」
「はい、由紀ちゃん特製ブレンドどうぞ。玲様もコーヒーより、これ飲んでみませんか?」
「せっかくだから、由紀ちゃん特製ブレンドで炭酸強めでもらおうかな」
由紀は、楽しそうにアップルティーと炭酸を玲の大きめのタンブラーに注ぐと、同じ動作を自らのシャンパングラスに行った。
「はい、玲様どうぞ」
「ありがとう。じゃあ、乾杯」
玲がタンブラーを受け取り、そのまま目の前に掲げると、由紀が微笑みながら言った。
「何に乾杯ですか?ふたりの座敷童子?」
「そこは、遠慮せずにふたりの妖精でいいんじゃないか?」
「玲様、由紀ちゃん、わたしは砂の中のダイアモンドがいいです」
「To fairies and a diamond in the sand!! 乾杯!」
三人のグラスから発せられるクリスタルの響きに続いたのは、実可子の『おいしい』と由紀の拍手の音だった。
「玲様ぁ、質問していいですか?」
由紀の唐突な質問は実可子も玲も内容が想像できるトーンだった。
「おれがSかどうか?それとも誰かを調教したことがあるか?そんなことだろ、質問の内容は?」
「由紀ちゃん、それわたしも興味あるわ。それが質問だったの?」
「玲様にお聞きしたことは、もし実可子さんや由紀を調教するなら、どんなことをお考えなのかなって」
由紀にしては、深刻な表情を見せていることから現実的な興味を抱いていると玲には想像出来た。
「そうだね、実可子は拘束されることで、随分感情を昂らせていたようだからな。縄化粧をしてやりたいな」
「縄ですか。。。」
実可子が縄と言う言葉に反応したことで、玲は更に具体的なイメージを植え付けるために言葉を続けた。
「さっきは手足だけだったけど、乳房を縄で締め上げた姿も似合いそうだろ?」
「あぁあん、実可子さんきっとお似合いです。肌が白いから赤が映えそう」
実可子は自らの縄化粧を思い浮かべているのだろうか、言葉を発することもなく、言葉に反応することもなく少し虚ろな表情を見せた。
「実可子どうした?まるで、縄酔いしてみたいな表情だぞ」
「はい、想像しただけで。。。また身体中熱くなってしまって」
「それは、そうされたいってことか?」
よほど恥ずかしかったのか実可子は玲の目を見て返事することが出来なかった。
由紀は、おもむろに実可子に近付くと身体の中でも一番熱いであろう場所に指先を伸ばした。
「あぁあん、実可子さん熱いです。指先が火傷しちゃいそう」
一瞬、身体をびくりとさせると、実可子は言葉にならない言葉を発した。
「由紀ちゃん、だめ。今度は由紀ちゃんの番よ」
「玲様ぁ、由紀にはどんな調教を?」
甘え上手で、持って生まれた小悪魔性があるのだろうか、由紀は甘えた声を出しながら椅子に座る玲の膝に上半身を預けてきた。
「由紀には、見られる喜びを教えてやるのがいいかな」
「見られる喜びですかぁ?露出ですかぁ?」
「露出と言えば露出だけど、見られて恥ずかしい姿を見せる。。。例えば、見られて恥ずかしい姿ってあるだろ?」
「ええぇ、自分でしてるところとかですかぁ?」
「それも悪くないけど、例えば、おしっこを見られている中でしたり、M男くんに跨がって口に直接してやるとか」
由紀も実可子と同じようにそんな姿を想像したのだろ、声を出すこともできずに俯いてしまった実可子とは対照的に顔を真っ赤にしながら叫び始めた。
「きゃぁ、恥ずかしい。。。絶対無理だと思いますぅ」
由紀を抱えるように立たせると、玲は実可子に向かって声を掛けた。
「ほら、さっきの仕返し。言葉が本当か指先で調べてごらん」
実可子は従順に頷くと指先を由紀自身に伸ばした。
指先を迎え入れるために少し脚を開いた由紀は、実可子の指先に言葉の真偽を確認される前に、自らの太股の内側を伝う筋状の液体の流れで気持ちとは裏腹の答を表してしまった。
つづき「Incomplete Beginnings - 未完の始まり17」へ
コメント