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第14話『Ordinary World 』
あっけらかんと自らの性に関する興味を告白した由紀を、実可子は羨ましく思っていた。性に興味が無い訳ではないが、性を他人に語るのはタブーとしていた。アメリカで育てられたものの、古風な両親から淑やかな女性になることを望まれていたからかも知れない、実可子はそんなことを考えていた。そして、玲に目隠しされたことにより研ぎ澄まされた感性は、手足を拘束されたことで更に倍増し身体中のセンサーが敏感に反応するようになったのだとも考えていた。
「玲様、由紀ちゃん、こんなにも感じてしまったのは初めてです」
「そうか?それは良かったじゃないか、身体の自由を奪われて、心の自由を手に入れたってことじゃないかな?」
玲が思ったことを口にすると、由紀が玲を茶化した。
「もう、玲様ったら気障なんだから」
「気障なんだからって。。。思った通りのことを言っただけだよ」
「だから気障なんですよ。意識せずに、そんなこと言うなんて。でも、なんか素敵です」
「仕事の時の由紀と、今の由紀と、どっちが本当の由紀なんだ?」
「どちらも本当の由紀です。玲様だって。。。あっ、仕事の時の玲様は、ちょっとS様って垣間見れる時がありますね」
「呆れたなぁ。仕事しながら、そんなことまで考えてたってこと?」
「だってぇ。。。ちょっと、気になるじゃないですかぁ」
「そんなことより、裸のままで寒くないのか由紀?」
玲は薄い桜色に染まっている由紀の白い肌を見て、寒くはないだろうと思ったが、風邪を引かせたらいけないと訊いてみた。
「全然、寒くはないです。それより、身体中火照って暑いくらいです。あっ、この曲素敵ぃ」
ホテルにチェックインした時につけたテレビはCNNのニュースを流していたが、ライティングデスクの上のリモコンは、由紀のトートバッグが接触したことによりチャンネルが変わってしまったのだった。番組はMTVのようだった、由紀が素敵と言ったのはアコースティックギターの音色が美しい旋律を奏でていた。
玲にとっても聞き覚えのある曲のイントロだったが画面を観ると『Duran Duran - Ordinary World』の表示が見えた。
「デュラン・デュランか、懐かしいな」
玲が呟くように言うと、実可子が反応した。
「ロンドンオリンピックの開会式でコンサートをしてましたね。YouTubeでコンサート観ました」
「そのコンサート、新聞記事で読んだの覚えてる」
「実可子さん、Ordinary Worldって普通の世界と言う意味ですよね?」
由紀もテロップから曲名を確認すると実可子に尋ねた。
「直訳するとそうなんだけど、ありきたりの世界とか、この曲の場合は彼女と別れたけど日常を取り戻すってニュアンスかな?」
バイリンガルの帰国子女らしく歌詞を聴きながら実可子は答えた。
「実可子さん、やっぱりカッコいいです。由紀が憧れる女性のイメージにぴったり」
「由紀ちゃんに、そう言われると嬉しいけど、由紀ちゃんにはわたしに無いものがたくさんあるし、由紀ちゃんらしくいればいいと思うわ」
「玲様ぁ、わたしにも魅力を感じてくれますか?」
「そうだね。気が利くし、甘え上手な可愛い小悪魔。それで仕事も出来るんだから、言うこと無いじゃないかな?十分魅力に溢れていると思うよ」
由紀と玲の会話に実可子が同意するように頷きながら微笑みを見せていた。つい数分前の、まるで祈りに似た激しい喘ぎ声を上げていた苦し気な表情とは別人のようだった。
「由紀ちゃん、わたしも玲様がおっしゃる通りだと思うわ」
「それにしても、全裸の女と下着姿の女とする会話じゃないな。ふたりとも、本当に寒くないのか?」
例は、特に氷の塊や自らソーダファウンテンのように吹いてしまったことで、びしょ濡れになった下着を身に付けたままの実可子が気になっていた。
「実可子は下着が濡れてしまったから冷たいだろ?大丈夫か?」
「そうですね、バスローブをお借りしていいですか?」
「バスタブにお湯を張って温まるか?」
「いえ、由紀ちゃんにお礼をしなきゃいけませんし。。。」
実可子の言葉を理解した由紀は、実可子に抱きつき一瞬唇を重ねると仔猫が甘えるような声を出した。
「嬉しい、由紀もいっぱい感じさせてくださいね」
玲がクローゼットにバスローブを取りに行くと、由紀はびしょ濡れになった実可子のランジェリーを脱がせ始めた。
「実可子さん、綺麗」
一糸纏わぬ実可子の生まれたままの姿を眺めながら由紀が呟いた。
「恥ずかしい。。。。まじまじと見られると」
左手で乳房を隠し、右手で白い肌に浮かび上がる、どちらかと言えば薄いヘアに隠されたデルタ地帯を隠した。
「玲様ぁ、由紀も実可子さんみたいに拘束していただきたいですぅ。。。玲様と実可子さんのお気に入りのマフラーで。。。」
「由紀、知らないぞ、『Ordinary World』じゃあ物足りなくなっても」
「玲様ったら本当に気障なんですね。。。でも、なんか素敵」
感心したような実可子の言葉に、玲が反応した。
「そんなに気障か?」
「絶対に気障ですよ玲様は。。。あぁあん、由紀、上品な言葉責めされてみたいですぅ」
「知らないぞ、後から後悔しても」
そう言うと、玲は由紀の後ろに立つと背後から抱きしめた。寒くないと言うだけあって、熱を帯びたような体温が伝わって来た。
実可子は、玲が持ってきたバスローブを着ることもなく、生まれたままの姿で玲に抱きしめられた由紀を前から抱きしめ唇を重ねた。
玲は由紀を抱きしめた手を一旦離すと、右手を伸ばし実可子の髪の毛を撫で、左手で由紀の下腹部のヘアを押し分けてクレバスの頂点で自己主張するかのように固く突起したクリトリスを愛撫した。
熱い蜜により潤っているその突起物に触れた瞬間に、玲は由紀の全身がびくんと震え一瞬崩れ落ちそうになるのを感じた。
「んんん」
実可子に唇を塞がれ、舌を絡みつけられた由紀は、喘ぎ声を上げることすら出来ず、くぐもった声を出すのが精一杯だった。
「こんなに蜜を溢れさせて、由紀はいやらしい子だ」
玲は突起物に加えた中指の回転運動を終えると、クレバスに沿って中指を直線的に動かした。その指先は火傷しそうなほどの熱を感じながら、溢れる甘い蜜をかき集めた。
「んんんぅ」
由紀の全身が小刻みに震えるのを感じた実可子は、唇を由紀の唇から右耳に移動した。
「感じてるのね、小悪魔ちゃん」
囁くように言葉を発しながらも実可子は由紀の耳に息を吹き掛け、そして耳たぶを優しく噛んだ。
「あぁあん、もう立ってられません」
由紀の喘ぎに混じった訴えは、実可子の伸ばされた右手により敢えなく退けられた。右手の指先は、由紀のクレバスを行き交う玲の指先と絡められた。まるで、フレンチキスで舌を絡みつけ合うかのようだった。
実可子の白い指先は、しなやかな動きで由紀の突起物に触れたかと思うと、溢れる蜜で抵抗を無くしたクレバスの内部にすら侵入した。
「あぁあん、あああぁん、すごぉい」
「由紀ちゃん、もっと感じていいのよ」
たっぷりの蜜を絡め、由紀の左の乳首に移動した玲の指先は、滑らかな乳輪と固く突起した乳首にその蜜を塗りたくった。
その玲の行動を敏感に察知した実可子は、自らの指先がすくった蜜を右の乳首に塗り始めた、口から少し突き出した舌先を由紀の左の乳首に絡めながら。
「だめぇ、由紀、もう立ってられません。。。。あああぁん、あぁあん」
玲は由紀から離れるとアームチェアにバスタオルを敷き、さっきまで実可子を目隠ししていたハンカチを取り上げた。
「由紀、『Ordinary World』より素敵な世界に連れて行こう」
「あん、玲様ぁ」
ハンカチを帯状に伸ばすと、玲は由紀に目隠しをした。
「何も見えない世界はどうだ?」
「ドキドキします。でも、感覚が研ぎ澄まされる気がします」
「こういうことだろ?」
そう言うと、玲は由紀の正面に立つと手を引き、ゆっくりと歩き出した。普段の由紀はハイヒールの音を軽やかに響かせて歩く印象だったが、今の由紀は一人立ちしたばかりの赤ん坊のようなよちよち歩きだ。
「玲様どこに?」
「直ぐに解るよ」
玲の言葉の次に、聴覚が研ぎ澄まされた由紀が聞いたのは『カチャ』と言う音だった。
「あっ玲様ぁ」
暖房が効いている室内では感じなかった少しひんやりとした冷気を感じた由紀は、部屋のドアが開いたことを悟った。
「玲様、お外ですか?」
「怖い?」
「ちょっと怖いです。でも、玲様が一緒にいてくだされば」
その由紀の言葉には反応せずに、玲は由紀の体の変化を指先で確かめた。
「怖いと言っても、ここは違う反応を示しているぞ由紀」
「あああぁん、玲様、恥ずかしい」
由紀は声を潜めて言った。それは、ふたりの会話により隣室のドアが突然開いてしまうことを警戒してのことだった。
「由紀、氷を取りに行くけど、一緒に行くか?」
「誰かに見られませんか?」
「それは、わからないけど、もうこんな時間だから、確率はほとんどゼロじゃないかな?」
由紀は、心の中で葛藤しているのか声を発することもなく考えているようだった。
「無理する必要はないから、怖いなら部屋で待ってればいい」
玲に繋がれた手に、より一層の力が入ったことで、玲は由紀の決意を感じ取ることが出来た。
「玲様と一緒なら。。。」
振り絞るような由紀の小声の返事が終わる前に、玲は最初の一歩を踏み出した。よちよち歩きの由紀にとっては、大きな一歩だった。まるで、『Ordinary World』では味わうことの出来ない冒険に踏み出す一歩のようだった。
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