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第9話『コンフェッション - 暴かれる秘密』
姿勢良く立っていることが難しくなり両手を洗面台のカウンターにつき俯き気味になってしまった実可子を、玲は後ろから抱えあげるように起こした。
「ほら、見てごらん。鏡の中の実可子はどんな表情してる?」
上半身を起こされても恥ずかしいのか伏し目がちの実可子が意を決したかのように鏡の中の自分自身と視線を交えた。
「めちゃくちゃにされたいんだろ?まだ何もめちゃくちゃなことしてないのに、もう降参か?」
自らの意思を表すために大きく首を左右に振りながら、実可子は答えた。
「恥ずかしい。。。でも嬉しそうに見えます」
「嬉しそう?それなら、もっと恥ずかしい姿を見せてもらおうか?」
鏡の中の実可子と視線を交えながら花柄のワンピースのファスナーを降ろした。ローラシュレイかキャスキットソンだろうか?薄いクリーム色の生地に薄いピンクの花が散りばめられたワンピースは一気にバスルームのフロアに落ちた。
ワンピースに咲く花びらより更に薄いピンクのインナースリップの胸元はくっきりと谷間を見せワンピース姿よりも乳房を大きく見せていた。
「寒くないか?」
「大丈夫です。。。熱があるみたいに感じます」
「驚いたよ」
「えっ?何に驚かれたのでしょうか?」
「わりとゆとりのあるデザインのせいかな?花柄のニットだからか?こんなにグラマラスとは思わなかった」
「お褒めの言葉として受け止めてよろしいのでしょうか?」
首を少し傾げ嬉しそうに微笑む実可子をきつく抱き締めると体温を感じた。そして、実可子をハンカチで目隠ししようと思い右手をポケットに入れた瞬間に、ポケットに入れたままだったブラックベリーがメールの着信音を鳴らした。
「玲さんメールが」
家に着いたら知らせることになっていた由紀だろうと思ったが、ブラックベリーはそのままにハンカチを取り出し、大きく手を振るとハンカチを大きく開いた。
「きっと由紀ちゃんです。玲さん読んで返事してあげてください」
「わかった。ちょっと待ってて」
ディスプレーのメールのアイコンをクリックするとメールは由紀からのものだった。
『玲さま、おうちに着きました。ラジオのニュースで高速道路は閉鎖と言ってたのでスノボは中止にしました。電車も止まってるみたいですが実可子さん帰れたのかなぁ?おうちからメール来ましたか?おやすみなさいの電話していいですか?由紀」
声に出さずにメールを読むと実可子は気になったのだろうか、メールは由紀からのものか知りたい素振りを見せた。
「由紀ちゃんですか?」
「そう。電車が動いてないのをニュースで聴いて実可子は帰れたのか気にしてるよ。もしかして、メール行ってるんじゃないか?」
「確認してきていいですか?」
玲は無言で頷くとランジェリー姿の手を引き窓際のカウチに連れて行った。実可子はベッドの上に置いたトートバッグからスマートフォンを取り出すとメールを確認して言った。
「メール来てます、由紀ちゃんから。。。『実可子さん、由紀です。電車動いてないみたいですけど大丈夫ですか?もっと早く気付けば良かったのですが、今からでも迎えに行きましょうか?それとも、玲さまのホテルに押し掛けちゃうのもいいかも知れませんね』と言ってくれてます。由紀ちゃん優しくていい子ですね」
「もうホテルに居るって返信してやったら?」
「そんなぁ。。。わたしが玲さんと一緒にいるなんて、きっと知りたくないと思います」
気遣いを見せる実可子を少し虐めたくなった玲はなんの脈絡もない質問をぶつけてみた。
「実可子、みしかしてバイセクシャルの要素を持ってない?」
「えっ?なぜそう思われたのでしょうか?」
「否定しないところをみると。。。。美鈴とキスくらいしてるだろ?」
「キスくらいは。。。。しました、でもなぜ?」
「さっきカフェで彼女が実可子をいとおしそうに見る瞬間を何度か感じたんだ。図星だろ?本当はキス以上のことも」
「レズということではないのですが、彼女は小学校から短大までずっと女の子の中だったので」
「実可子が誘ったのか?」
「いえ。。。彼女が初めてわたしの部屋に来たときにキスをせがまれました。最初のうちはキスをするだけだったのですが、段々エスカレートして、わたしの胸を愛撫するようになり、わたしがあの子の。。。」
「あの子の?」
「クリトリスを指やローターで。。。」
「由紀にも同じことをしてあげようか?」
「えっ由紀ちゃんにですか?」
「さっきのメールで電話していいかって言っているんだ」
玲は、実可子の返答は聞かずにブラックベリーのキーボードを操作し由紀からのメールに返信した。
「なんて返事されたのですか?」
「まだ起きているから電話しておいでって」
なんの反応も示さないのは緊張しているからか、実可子はカウチに腰掛けたまま身を固くしピンと背筋を伸ばした。乳房の隆起が一層強調されていた。
実可子にとっても、玲にとって懐かしさを感じるような電話の着信音が沈黙を破った。
「アメリカの電話のベルみたいですね?なんか懐かしい」
実可子の言葉が終わるまでコールが三回鳴ったところで玲は電話に出た。
「玲様、由紀です」
「雪の中の運転は大変だっただろ?無事に着いて安心したよ、由紀」
「由紀って呼んでくださって嬉しいです」
「仕事のときには見せない甘えん坊の由紀だな。どっちが本当の姿なんだ?」
「どっちも、わたしですよ。でも、玲様にはなぜか甘えたくなるんです。大高さんには甘えられないんですけどね。。。そう言えば、実可子さんおうち帰れたのかかなぁ」
「メールしてあげたんだろ?」
「はい、まだお返事は来てませんが。。。玲様には?」
「駅で別れて直ぐに、電車が止まってるって」
「えっ、それで玲様はお部屋に呼んであげなかったのですか?あぁあ、もしかして、今いらっしゃるんじゃないですか?」
「そうなんだ。今、目の前に」
「羨ましいな実可子さん。由紀も行きたかったなぁ」
「来れるなら来ればいい」
「本当ですか?本当に行っちゃいますよ」
「いいよ。実可子も頷いてるよ」
「あぁ玲様、実可子って呼び捨てにしてるんですね?」
「S様なんだろ、俺は?だから呼び捨てでいいだろ?」
「はい、いいです。三十分位で行けると思います」
「十五階のロビーフロアに着いたら電話して。。。迎えに行くから」
「はい、わかりました」
「気を付けて来るんだぞ、いいね?俺がSで、実可子がMと言ってたね由紀は。。。何があっても驚かない。。。その覚悟でおいで」
「はい、わかりました玲様」
玲はブラックベリーをスピーカーフォンの設定にして由紀と会話していた。実可子にこれから起こることを悟らせるためだった。
「美鈴は嫉妬深い子か?今夜、ここに居ることが知られたらどうなる?」
「大丈夫です、恋愛感情とは別のものなので。。。彼女はわたしがお部屋にお邪魔することを想像していたと思います。わたしが、マフラーを忘れたRKさんのことが気になっていたことを知ってましたし。今日の別れ際、『ファイト』ってジェスチャーをしてましたし」
「不思議な関係だな?男同士では有り得ない」
「もしかして、大高さんはそんな関係を望んでおられるかも知れませんよ」
実可子は、クスッと笑い舌を出した。さっきの緊張感はなんだったんだと玲が感じるほどの表情だった。
「こら。Sをからかうとは、いい度胸してるな。たっぷりと辱しめて欲しいということだな?」
オットマンに腰掛けていた玲は腰を上げ、カウチに姿勢良く座る実可子の唇を塞ぐと右手を伸ばしブラのホックを器用に外した。
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