この話はつづきです。はじめから読まれる方は「誤算」へ
保奈美の話術は奈々子をつまらない主婦の日常から解放してくれた。
劣等感さえ感じてしまいそうなそのハイセンスで近寄りがたい容貌とは違い、
どんどん彼女の話に引き込まれてしまう。
気さくで、でもどこか年下とは思えぬ言葉一つ一つに重みを感じ、
ついうんうんと相槌を打ってしまう。
ディナーの後、彼女の運転する車で港へ向かった。
そこでは何十台もの車がほぼ等間隔に並んで恋人達がいちゃついている。
奈々子もその車中で初めて同性と唇を重ねた。
「やっぱり恥ずかしいわ」
「・・・ふーん・・・」
キスの後そう言ったきり、保奈美はずっと奈々子の顔を見つめている。
夫の反応しか知らない奈々子は彼女のこの間に戸惑いを隠せない。
「意外と堅そうなのね」
「えっ?」
「ううん。安奈は実際に女性とこういうことするのは
初めてなんでしょ?
じゃあ、キスの仕方から教えてあげる」
正にそれは蕩けるようなキスだった。
柔らかい唇と舌で羞恥心も罪悪感も日常も全て吸い取られる。
口だけのはずなのに、全身を嬲られているような錯覚に陥る。
奈々子はいつの間にか夢中になってその感触に没頭していた。
(凄いキスだわ。こんなの夫じゃ絶対無理。
ああ、気持ちいい。もっと、もっとずっとこうしていたい)
全身がくたーっと力が抜けたようになり、倒された助手席のシートと共に
保奈美が覆い被さる。
だらしなく開いた足の間を保奈美の膝が擦りつける。
そのリズムに腰がムズムズと動き始めると、
急に保奈美の唇が糸を引いて離れていった。
(も、もっと・・・?)
「続きはホテルでする?」
奈々子は未知の誘惑に導かれるように
朦朧とした目で静かに頷いた。
つづき「誤算 3」へ
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