この話はつづきです。はじめから読まれる方は「堕落・1」へ
佐和子の忠告を受け生まれ育った土地を離れ誰も衣川郁美の事を知らない街に身を寄せた、その街の大手不動産会社の系列店の臨時事務員として勤務し其処で知り合った山村俊弘58歳と結婚した、郁美は初婚で在ったが山村俊弘は再婚であり大学4年に成る娘香織が1人居た、郁美と香織が初対面の頃から気が合ったのか本当の親子の様に仲が良く俊弘も内心ホッとしていた、再婚し3年が過ぎたある日の日曜日、郁美家族は郊外に有るショッピングモールに買い物に出掛けた時の事であった、香織が郁美の腕を引いた
「何、香織?」
郁美は香織を見た
「お母さん、今度の転勤先の専務が居るの、挨拶した方が佳いのかなぁ?」
香織は郁美の事をお母さんと呼んでいた、郁美は優しく笑い
「それはご挨拶するべきよ、お母さんも一緒に行ってあげようか?」
郁美はそう笑うと、香織は笑った
「うん、お母さん一緒に来て!」
「本当に、仕方ない娘ね~」
郁美は笑い香織と共にその専務の所まで2人伴って行き、香織が声を掛けた
「大道専務」
香織が声を掛けるとその男は振り向いた
「んっ、嗚呼、君は山村君だね」
大道はにこやかに笑った、郁美は大道を見た瞬間背筋が凍り付いた
「専務、奥様とお買い物ですか?」
香織は屈託の無い笑顔で言うと大道はにこやかに笑い言った
「いやぁ、最近女房を放ったらかしだからね、偶に構って遣らないとね」
傍らに居た女性が振り向いた
「は、初めまして…家内の佐和子です」
佐和子が挨拶をした、郁美は平静を装いながら会釈をした
「初めまして、香織の母で御座います…何時も娘がお世話に成っております」
郁美は香織に悟られぬ様に作り笑顔で答えた
「初めまして、大道です」
大道が不気味に笑った、普通に笑ったのかも知れないが郁美にはそう見えたのであった
「山村君のお母さんは綺麗だね~」
大道は笑うと香織は手を口に充て
「専務、お世辞がお上手何ですね」
「いやいや、本当にだよ!なぁ、おまえもそう思うだろ!」
大道は佐和子の方を見た、佐和子は少しぎこちなく笑い
「えっ…本当に…お綺麗ですね…」
佐和子の膝がガクガクしていた、郁美は顔を少し牽き吊らせながら笑った、そして簡単な雑談の後、香織と郁美が大道から去った、この時、郁美は一抹の不安がよぎった、そしてその不安が一週間後に的中する事に成った
金曜日午後3時を伝える女性アナウンサーの声がラジオから流れた、郁美は小さな庭に花や野菜を植えその手入れをしていた、あのショッピングモールで大道裕史に会ってからと云うもの、今まで幸せな時間を過ごしていた郁美の心の中に小さなさざ波が立っていた、郁美は頭の中に過ぎる大道から受けた調教を何度も打ち消し忘れようと何度もしたが、そうすればするほどあの忌まわしい過去が大きく成って行った、そしてエプロンのポケットに入れた携帯の着信音が鳴り着信番号に見覚えの無い番号が表情されていた、郁美は少し躊躇いながら携帯の通話ボタンを押した
「はい、どちら様ですか?」
郁美は小さな声で携帯に出た
「俺だけど」
男の声は明らかに大道裕史であった、郁美は声を詰まらせた
「判らないか?、俺だよ、おまえのご主人様だよ!」
大道の声が不気味に笑っていた
「…ご主人様?…そんな方存じ上げませんが!」
郁美は声を震わせた
「つれない言葉だな!、ついこの間会ったばかりなのによ!」
「…すいませんが、間違い電話ではありませんか?…失礼致します」
郁美は通話を終えようとした
「待ちな!、郁美、俺にそんな事言っても佳いのかよ!」
大道がドスの利いた声を出した
「一体何の用ですか!、お願いですから私の事は忘れて下さい!」
「忘れる?、俺はいつでも忘れて遣れるぜ、でも郁美は忘れられるのかよ俺が植え付けた色んな事をよ!」
「止めて!…止めて下さい!…お願いこんな小母さんを相手にしなくても佳いでしょ!!…お願いだから放っといて下さい!」
郁美は叫んだ
「おまえが忘れられるなら、俺も忘れて遣れるぜ、でもよおまえが忘れたくても躯の疼きは止まらない筈だぜ」
大道の郁美を追い詰める言葉が続いた
「お前が俺の事を忘れてられても、お前の躯の疼きは抑えられないだろ!」
「…馬鹿にしないで!」
郁美が携帯を切ろうとした
「携帯を切っても佳いんだぜ、お前の云う通り若い女を調教するのも悪くは無い、じゃあ若い女は誰にしようか?」
大道の意味深な言葉に郁美は娘の香織の身を安じた
「待って、待って下さい!、まさか香織に手を出す気じゃないでしょうね!」
郁美は声を荒げた
「さあな、お前の娘以外なら誰でも佳いのか?」
「……」
「答えろよ!」
「何が望みなの…」
郁美の声が沈んだ、大道は笑い言った
「今から俺の指定するホテルに来い、但しコートの下は素っ裸で来るんだ」
大道の要求に郁美は逆らう事など出来なかった
つづき「堕落・10」へ
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