果葬◇13―2_ハッピーライフ-官能小説(happylives-novel)

牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜 ——日野草城

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果葬◇13―2

15-06-14 10:03

この話はつづきです。はじめから読まれる方は「果葬◇1」へ

清楚な制服に身を包んだ女子高校生が、不安な面持ちで立ち尽くしている。
青峰由香里が監禁されていた部屋とおなじ造りの空間で、その少女はじっとドアの方角を見つめている。おそらく音声は意図的に消されているのだろう。

するとドアが開き、黒色の大型犬を連れた目だし帽の男があらわれた。
またあいつだ、と一同が感づいた。表情が読み取れない分、男の挙動に不気味さを感じる。
犬は最初から興奮気味に尻尾を振っていて、女子高校生に近寄ると、いきなりプリーツスカートの中に頭を突っ込んだ。
少女はそのまま壁際まで追いやられ、悲痛な表情で座り込んでしまう。

犬がその股間を激しく舐めている。
男が彼女に指示を出す。
彼女は怯えながら四つん這いになり、そこに犬が重なった。
人と動物による交配が成された瞬間だった。

あまりに酷すぎる、と目を背ける者もいた。しかし映像は流れつづけている。
まだ未成年であるにも関わらず、見ず知らずの男の欲求を満たすためだけに、一人の女子高校生が犠牲になっているのだ。

その生々しい光景にうんざりしていた時、またもや別の映像が割り込み、そこにもやはり女性が映っていた。
透過素材で出来た大きなバスタブの中に、全裸の若者が体を浸しているシーンだった。
白い肉体が水面を揺らし、水滴がきらきらと光っている。その水中を泳ぐ細長い影は、彼女の手足の隙間を縫いながらぐにゃぐにゃと回遊していた。
その動きに合わせて悶絶する女性が手にした物は、長さ十センチほどのビニールチューブだ。
放心寸前のおぼつかない手つきで、彼女はそれを自身の体内に挿入した。膣がだらしなく大口を開けている様子がいやらしい。そして人体の構造が露わになっている現実を思う。

彼女のそこが巣穴に見えたのか、蠢く影のうちの一匹が、胴体を波打たせながらビニールチューブをくぐった。尾ひれがぴちぴちともがき暴れている。
彼女の視線はどこに落ち着くわけでもなく、溶かされていく意識にまかせて、うっとりと水中を漂っているようだった。
もうどうなったって構わないと諦めている女の顔だ。

その黒い生物の習性に逆らうこともできずに、膣を開放しつづける淫乱な女体。彼女もまた、これまでに経験したことのない危ない絶頂へと連れて行かれるのだろう。

女性器に群がっているものの正体が鰻だとわかったところで、刑事の一人が吐き気を催し、退室するハプニングがあった。
そうは言ってもこれも仕事のうちだと、残りの者で映像の結末を見届けなければならない。胃液が込み上げてくるのをなんとか抑えながら、映像が切り替わるのを待った。その瞬間はすぐに来た。

そうして画面に収まった人物の顔を見るなり、今まで無関心を装っていた北条の眉間に、深い皺が刻まれた。
神楽町通り魔事件の重要参考人、月島麗果に間違いなかったからだ。

しっかり見ていろ──わかってます──という会話が、北条と五十嵐の視線だけで交わされた。
藤川透がほんとうに見せたかったものが、まさにここから始まるのだと、彼女が放つダークな雰囲気から予期できた。
そして何より、今までの映像と異なったところがある。
さっきまでの分が監視カメラの記録だとすれば、月島麗果の場合は、盗撮カメラで狙ったような意図が感じられる。
どこかの病院の診察室に彼女はいるようだ。スチール製の机やキャビネットに並ぶファイル類、業務用のパソコン、ベッドや椅子なども一通り揃っている。

仄白い照明でぼかした部屋。月島麗果はそわそわしながらそこで誰かを待っている。
そうして一分と経たないうちに白衣の男がやって来て、すれ違いざまに彼女の肩をぽんと叩き、空いた椅子に座った。
神経質な生き物だという印象だ。医師と患者の微妙な距離感というより、男のほうはいちいち彼女の顔を覗き込んでは、馴れ馴れしく体を触っている。

北条は、この男はいったい誰なのだろうかと、これまでに度々登場していた目だし帽の人物と重ね合わせてみた。はっきりしたことは言えないが、両者には似ている部分があるように思えた。

誰かが息を呑む音が聞こえた。カメラの向こうの月島麗果が内診台に乗ったからだ。自ら脚を開き、腹部を上下させて息をしている。
期待、不安、その両方が入り混じった表情を浮かべ、一線を越える瞬間を待ち焦がれているようだ。
男は鋏(はさみ)を手に構え、じりじりと彼女の下着に沿わせていく。虫も殺さないような顔の医師は、その刃先でショーツを挟み、サディスティックに切れ目を入れた。
あられもなく下着がはらりと剥がれ落ちる。晒された女性器は美しく貝割れしており、女らしい色素を分泌させて潤って見えた。
黒ずんだ一枚目の皮膚をめくり、充血した二枚目の皮膚を分けると、男はそこに顔を埋め、ぺろりと舐め上げた。
彼の舌を生身に受け、月島麗果の腰が素直な反応を見せた。

夫婦や恋人同士がする無難なプレイではなく、そこに変態要素が加わることで生まれた未体験の官能に、体中を熱くさせているのかも知れない。
彼女の上半身は未だに清楚なままでいる。しかし下半身は別人だった。

二人のあいだにはずっと前から信頼関係があったみたいに、彼女は医師にすべてを委ね、舌と、指と、男とを、自身の蜜壺に導いた。
よがり狂う若い娘と、冷徹な眼差しで淫らな行為をくり返す男。
一刻のうちに月島麗果の容態は変化し、弓形(ゆみなり)に仰け反らせた背筋を右に左によじって、救いを求めるように何度も手指を結んで開いた。
それを知って、白衣の男も畳みかける。
繋がったまま内診台を揺する二人。
院内セックスという有り得ないシチュエーションも手伝ってか、互いの肉体を融合させようと更に密着し、快感の上限に向かって上りつめていった。

月島麗果の動きが止まった。
男は腰の振り幅を加減しながら、ゆったりと射精を楽しみ、そして支配者の表情で性器を抜いた。
卵子が受精してしまう可能性をも恐れない、まったく最低な光景だった。

こんな人間を医師として認め、何ら疑うことなく世に送り出してしまった国の甘さに、刑事らも尻の穴が引き締まる思いがした。
藤川透は、この男が花井孝生を刺したとでも言いたかったのだろうか──。
ようやく事件の根源が見通せそうになったとき、そこで映像は終わった。後味の悪さだけが残る、なんとも骨の折れる作業だった。

「いちばん最後に映っていた白衣の男。彼に前科がないか、俺がデータベースで調べておきます」

五十嵐が険しい顔で言った。

「そうしてくれ」

それだけ言って、北条は部屋を出た。

つづき「果葬(かそう)◇14」へ


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