果葬◇13―1_ハッピーライフ-官能小説(happylives-novel)

牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜 ——日野草城

ホームページ 戻る 

果葬◇13―1

15-06-14 10:03

この話はつづきです。はじめから読まれる方は「果葬◇1」へ

数日後、月島麗果の行方を探っていたはずの藤川透が、港近くの倉庫の中から変わり果てた姿で発見された。彼の居場所を知らせるGPS信号がそこで途絶えたので、不審に思った警察官らが駆けつけたのだ。

死因は毒物によるものと断定されたが、直前の彼の行動から推測すると、自殺の可能性は低いのではないかと警察は判断した。
組織の内部情報を他言した藤川透のことを、その異変に気づいた何者かが毒殺した。そう考えるのが自然だと誰もが口を揃えたが、他殺を仄めかす痕跡を見つけることは出来なかった。

死の間際、彼は無念でならなかっただろう。花井香純という女性に溺れたが故に招いた悲劇だとしても、真犯人が誰であるかを見届けたかったに違いないのだ。

警察署に郵便物が届いたのは、それから間もない二日後のことだった。差出人は『藤川透』である。
中身を確認したところ、怪しげなDVDが一枚入っていただけで、手紙が添えられているようなこともなかった。
デッキにDVDを挿入し、関係者らによる確認作業が開始された。

再生画面に映し出されたのは、タイトルのないアダルトソフトの映像のようだった。全裸姿の若い男女による激しい営みが、無修正のままこちらの目に飛び込んできた。

どうやらただの男優と女優のようだ──。

音声にわざとらしさが窺える──。

そんなふうに皆それぞれの感想を抱いたまま、男が女に挿入する映像だけが延々とつづく。
女は何度もオーガズムを訴えるが、なかなか絶頂する気配が訪れないでいる。
対する男はただ力任せに腰を振るだけで、相手を満足させようという気配りも感じられない。

藤川透が自らの命と引き換えに寄越した物、果たしてこの映像にそれだけの値打ちがあるのだろうか。
そんな白けた空気が漂い始めたときだった。
突然、映像が乱れ、音声がぷつぷつと途切れると、さっきまでとはまったく別の映像と入れ替わってしまった。生活感のないワンルームの中央に、髪の長い女性が独りきり、しきりに辺りを警戒しながら座っている。
残念ながら音声はないものの、鮮明な画質のおかげで彼女の身元はすぐに明らかになった。先日、早乙女町の公園で全裸のままで発見された、専業主婦の青峰由香里に間違いなかった。

大上次郎と藤川透の手によって雀荘から拉致されたあと、彼女を金で買った客がここに監禁し、何らかの理由で監視カメラに映像を収めた──誰もがそう思った。
画面の奥にドアが見える。そこが開いて、一人の男が入ってきた。目だし帽を被っているせいで人相がわからない。
男に気づいた青峰由香里は座ったままで後退りし、二人の距離が縮まると、男が彼女に薬瓶ほどの小さな容器を手渡した。
会話によって取引がされているようで、彼女は怖々と首を横に振る。
そんな態度が気に入らない男は、体を揺らして苛々しだし、出し渋るようにスタンガンを手にした。本気で使うつもりはないようだが、彼女の表情には恐怖が浮かんでいて、今にも泣き出しそうに見える。

スタンガンをちらつかせる男を前に、彼女はとうとう自らのスカートの中に手を入れ、白いショーツを脱ぎ取った。
そして小瓶から透明な液体を指ですくい、陰部に塗布していく。
男はスカートを乱暴に持ち上げ、彼女の様子を凝視しながら何事かを言っている。
ひとしきり人妻の淫らな様を観察すると、男は満足げな足取りでドアから出て行った。

ふたたび独りになった青峰由香里は、恐怖と羞恥に堪えながら大人しく座っている。
そんな彼女に異変が起きるまで、五分とかからなかっただろう。固唾を飲んで映像を見守る一同の目にも、その変化は明らかだった。

彼女はまず自分の額に手をあて、それから気怠そうに肩を上下に揺らし、太ももを摺り合わせる仕草をした。
体に熱を感じるのか、シャツの胸元を摘まんで扇ぐと、今度は靴下を脱ぎ捨てる。頬が紅潮しているのは化粧のせいではなさそうだ。
今はとにかく肌を露出させたい気分なのだろう。シャツのボタンを外したあと、その美しすぎる被写体は、ブラジャーにスカートという何とも破廉恥な姿に変貌したのだ。

カップから零れるほど肥大した乳房や、女らしい体のラインを保った所々は、およそ産後の母体とは誰も想像がつかない。
肩を抱いたり、太もものあいだにスカートを挟んだりと、その場しのぎの行動がつづく。
見えないものに翻弄されながら、次に彼女は四つん這いの姿勢をとった。
催眠状態にあるような朦朧とした表情。その唇が何かを囁いた時、魔が差したように彼女の右手が自身の局部へと伸びた。
カメラは青峰由香里の顔を捉えている。口元がゆるむたびに、下唇を噛んで自慰行為に耽る。
右手はおなじ動きをくり返し、支える左手は床に爪を立てる。
それでも物足りないのか、右手を股間にあてたまま体を返し、彼女はこちらに向かって脚を開いた。

それはもう刑事の職務を忘れてしまうほど生々しい光景だった。日常の中にあって、しかし誰の目にも触れることのない秘め事が、こうやって隠す術もなく繰り広げられているのだ。もはや性の対象として見ずにはいられない。
清い指が、清い膣をこねくり回し、清い愛液を吹き出させている。彼女はそこを覗き込み、汚らしいものを見る目で嫌悪を露わにした。
手首に筋を浮き上がらせ、リミッターを振り切るように自らを追い込んでいく。

ばしゃばしゃと潮が飛び散った。一気に上りつめて、溌剌(はつらつ)とした肢体に痙攣が襲いかかる。
悔しそうな表情を見せているのは、絶頂したときの彼女の特徴なのだろう。

けれども燃え尽きたわけではなかった。膣から引き抜いた指に絡まる被膜を舐め取ると、部屋中を物色し、リビングボードの適当な引き出しを開けてみる。
中身をひっくり返し、床に散らかった数ある物の中から、彼女はピンクローターを手にした。コードをたぐって本体を拾い、すぐさまスイッチを入れる。
指先で振動を確かめると、ブラジャーのカップの中にそれを差し入れた。効果は絶大のようだ。
それを無理に我慢しようとするから、鎖骨のアーチが綺麗に浮き出るのだ。
玩具に取り囲まれた彼女は、貪欲な手つきでバイブレーターを握った。その太い胴体を愛おしく眺めたあと、目を閉じて一度は投げ捨てるが、また拾っては視線を注ぐ。

いじらしくて仕方がない──誰かがそう思ったからか、その気持ちを裏切るように、若妻のヴァギナは男性型の玩具を頭から丸呑みした。
ひいひいと快感に歪む目元、口元。
ぐちゃぐちゃに形が崩れた陰唇。
ふっと表情が和らいだあとに起こる全身の痙攣。
そうやってオーガズムに魅入られた青峰由香里の姿を、一言も発さずに見届けるしかない警察関係者たち。

この映像の中にこそ、これまでの一連の事件の謎を解く鍵が潜んでいるのなら、それも仕方のないことかも知れない。
すると再生画面の中の彼女が突然、ドアのほうを振り返る。
直後にドアが開き、先ほどの目だし帽の男が入ってくると、青峰由香里に首輪とリードを施した。

待つこと数秒──。

六人の男らが部屋に入ってきた。彼らは、目だし帽の男が連れているペットに興味を示し、服を脱ぎ捨て、目的を果たす行動に出た。
ほんの数時間前まで普通に暮らしていたはずの主婦が、今こうして複数の男らによって犯されているのだ。
わずか一グラム程度の媚薬のせいで、人格までもが操作され、女性の誰もが男に狂ってしまうのだろうか。疑問は残るが、映像の中の彼女からは、輪姦を助長させる艶めかしい雰囲気が漂っていた。

青峰由香里が何度目かの挿入を受け入れたとき、ふたたび映像が不自然に切り替わった。

つづき「果葬(かそう)◇13-2」へ


コメント
お名前:
気持ち:

コード:

お知らせ

なし

小説を検索