この話はつづきです。はじめから読まれる方は「メタルスティック(1)」へ
真由子の初体験は兄のセックスを目の当たりにした2日後のことである。高ぶりが治まらず、自分から信じられない誘いの言葉を口にしていた。
「あたしを抱きたい?」
彼にどの程度経験があったのか、それはわからない。乳房を揉みあげられ、朦朧としている間に呆気なく貫かれた。震えるほど昂奮していた割には気持ちもよくなかったし、むしろ下腹部に鈍い痛みが一晩中続いて何だか損をした気分だった。
一度体を合わせればためらうものはない。二度、三度と重ねるうちに真由子の蕾は少しずつ開花していった。会えばセックスが目的の6年間であった。むろん愛を伴った肉体関係である。一年ほど前からは結婚の話もするようになった。彼はやさしくて喧嘩もしたことがない。真由子が無理を言ってもたいてい折れてくれる。順調な交際であった。だが……。ふとした時に心が揺れるような想いに陥ることがある。何か、どこかがしっくりしない。ぴったりと二人が密着しても溶け合っていない気がしてならなかった。そんな想いが重なり、いつからか満たされない感覚が心の中を漂うようになった。ときおり、無性に体が疼き、周りの男に目を向けている自分に気がついたりする。
(なんで?…)彼を愛している。なのにこの浮ついた気持ちは何なのか。誰だって素敵な人に仄かなときめきを覚えることはあるだろう。だが真由子のそれは異質に思えた。気持ち、というより、体の奥底で熱く膨らんだものが蠢いて、欲望が急激に広がっていくのである。相手に特定の傾向はない。街中でも電車の中でも、突然じわっときて、じっとしていられないほど割れ目がむずむずしてくるのである。すぐに下着まで濡れてくる。
(ああ…欲しい…)
彼と会って一心不乱に体をぶつけてもまだ足りない。家に帰って燻り続ける体をオナニーで鎮める。初めは指を使っていたが、何度昇ってもまだ余地が残っている気がして、挿入の実感がないからだと思うようになった。そこで太めのハムを買ってきて試したところ、快感が倍加した。これだと思った。ぬっと差し込み、深浅の変化をつけ、角度、速さ、様々に変えていく。
(うわ!うわ!)何度もイク!終わりがない!気がつくとハムを挟んだまま眠っていたこともある。
6年も彼とセックスをしてきて得た絶頂は実は小さな『山』でしかなかった。絡み合って甘美な世界をさまよって心地よさに酔いしれてはいたものの、真由子の体はもっと奥ふかく、そしてより高い官能の世界を求めるようになっていたのだ。それにはペニスに突かれること、これでもかと抜き差しされること、オナニーで知った感覚からそれが自分には必要なのだと思った。彼が押し入ってきて果てるまで、思えばさほどの時間ではない。もっと長く、強く入れ続けてほしい。そこに本当の満足が生まれるはずだった。
(こんど会ったら……)
真由子は貫かれる彼のペニスを思い描いて、また股間を濡らした。
ところがデートの当日、彼からドタキャンを食って真由子の心は平常心を失った。心というより体の性欲マグマが噴火寸前に燃え盛ったといった方がいいだろう。急な仕事だから仕方がないのはわかっているがむらむらと割れ目が疼いてどうしようもなかった。搔き毟られるような体をどうしよう。……頭に浮かんだのは、猪俣健吾である。この日、5時から訪問することになっている。
(抱きしめるだけでもいい…)
真由子は理性を失っている自分が見えなくなっていた。
つづき「メタルスティック(4)」へ
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