この話はつづきです。はじめから読まれる方は「姉の微笑み1」へ
二日目の夜、私と島崎はウイスキーを飲んだ。ひと口飲んであまりに強いのでコーラで割ることにした。甘くて口当たりがよかったが、これがいけなかった。つい飲み過ぎて島崎は何度もトイレで嘔吐して眠り込んでしまった。どたばた騒いでいるのだから映子が気づかないはずはない。
「まったく、ばかなことして」
私も足元がふらついたが、体質的なものなのか、しばらくすると却って頭が冴えてきてなかなか寝付けなかった。
何時頃だったろう。隣室のドアが開き、耳を澄ませているとドアが軽くノックされた。
「江藤君、起きてる?」
潜めた声だった。
そっと開けると映子が目を瞬かせてぎこちなく微笑んだ。
「ジュースあるけど、飲む?」
私は黙って頷くと、島崎の様子を窺った。ぐっすり寝込んでいる。
映子の後に続き、部屋の前で躊躇したのは昨日侵入した後ろめたさがあったからだ。
「いらっしゃい…」
映子の声は上ずっているように聞こえた。
「ふふ…」
小さなガラステーブルにはすでにジュースが注がれたグラスが二つ置かれてあった。
「座って」
「だめよ。高校生なのに」
「ごめんなさい…」
「あの子、お酒弱いのよ。それなのに無理しちゃって」
渇いた喉にジュースが沁み渡った。
「タバコも吸ってるでしょ。わかるわ。臭うもの。父や母も知ってるの。許可したわけじゃないのよ。黙認。江藤君も外ではだめよ」
映子がジュースを飲んだ。白く細い喉が艶めかしく動く。Tシャツの胸の膨らみから肌が匂うような気がしてくる。
間もなく言葉が途切れて空気が変わったように感じられた。どこか張りつめたような緊張感が生まれた。島崎の鼾が聞こえてきた。
「すごい鼾…」
ぽつんと言った映子がふいに顔を寄せてきた。
「江藤君も、変な本、見るの?」
目をあげると無理に笑おうとしている映子が視線を逸らせた。
「変な本…」
映子は黙ったまま硬い笑みを絶やさない。エロ本のことだと思った。
「時々は…」
しょちゅう、とは言えなかった。
「そう…。思春期だものね。…この間、武氏の見つけちゃったの」
映子の声のトーンは明らかに不安定であった。
「ああいうのって、見て楽しむってこと?私、心理学やってるから、どうなのかなって思って。武には訊けないしね。だから江藤君に気持ちを教えてもらおうと思って」
平静を装っているようだが、いつもの映子ではなかった。無理に年上ぶっている…。そんな気さえした。そう思うと恥ずかしさが薄れてきて、私は俯いたまま核心の道へ踏み込んだ。
「見て楽しむだけじゃないけど…」
その時映子がどんな表情をしていたのかわからない。だが、ごくりと喉が鳴ったのが聴こえた。
「それだけじゃないって、どういうこと?」
「恥ずかしくて…」
「恥ずかしいことじゃないわ。言ってみて」
映子が身を乗り出してきた。
「勃起して…」
「まあ、いやだ…」
映子は顎を引いて口に手を当てた。いきなりその言葉が出てくるとは思わなかったのだろう。だがすぐに、
「それで?」
「やっぱり、オナニーしちゃいます」
「そう…」
映子を見据えると彼女の視線と絡み合った。真顔である。どうやら映子も経験がない。そう思うとさらに余裕が生まれてきた。
「ああいう本を見るとなるのね」
「本じゃなくても…」
「想像するとか?」
「こういう話、してるだけでも…」
「え?もしかして、今も?」
私が頷くと同時に映子は伸び上がっていた。
「へえ、分らないけど…」
ジーパンの中でペニスは痛いほどに脈動していた。
「きつくて…」
なぜそんなことを言ったのか、今でもよくわからない。ただ、こんな機会は二度とないだろうと考えたことは憶えている。映子と二人きりで、しかも性の話をするなんて。……
「脱いでもいいわよ」
いとも簡単に言った割には私と目を合わさなかった。
「でも…」
「脱いだ方が楽よ。だってきついのはよくないもの」
「恥ずかしいから、お姉さんも脱いでくれたらいいんだけど…」
映子は明らかに動揺した。しかし、珍しく大きく口をあけて不自然な明るさを見せた。
「江藤君、恥ずかしいのか。仕方ないね。いいわ。一緒にね」
座ったまま足を伸ばしてジーパンを脱ぎ始めると、映子もパジャマをずらしはじめた。
「ふふ。暑いから、ちょうどいいかも…」
上目遣いに私を見る目元に色香を感じた。やがてガラステーブルを透して真っ白な太ももが現れた。映子はTシャツの裾を引き下げて立ち上がるとベッドに腰かけて、
「ここにどうぞ…」
誘われるまま映子の横に座った。その間、彼女の視線は私の股間を追っていた。ペニスはパンツを突き破るごとく怒張している。映子の顔は紅潮して口は半開きである。
私にも余裕はない。初めて目にする太ももの柔肌に自分の足が触れて限界がきた。強烈な刺激であった。
(もう、だめだ…)
思ったと同時に映子に抱きついた。
「あっ、江藤君」
初めてのキスが憧れのお姉さん…。口を押し付けたまま後ろに倒れ、貪るようにキスをした。乳房を握ったとたん、
「ああ…」と映子は喘ぎ、息を弾ませながらを押しとどめた。
「江藤君、待って。だめよ。セックスじゃないんだから。そういうことじゃないの」
素早く起き上った映子は逃げる様子はない。呼吸を静めるように自分の胸に手を当て、その目は私の下半身に注がれていた。
「だって、もう我慢ができなくて…」
それは本当だった。発射寸前であった。
「そういう心理、わかるわ。だけど、とにかく、見せて」
映子の火照った頬が引き締まった。
「私、分かるのよ。勉強してるんだから、心理学」
いま考えると滑稽な話であるが、その時は会話の内容などどうでもよかったのだ。私は初めて女体に触れた昂奮に押し流され、映子はペニスを見たかったのである。
呼吸がやや乱れている。
つづき「姉の微笑み3」へ
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