麻莉子[7]_ハッピーライフ-官能小説(happylives-novel)

牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜 ——日野草城

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麻莉子[7]

15-06-14 10:19

この話はつづきです。はじめから読まれる方は「麻莉子[1]」へ

「ハーブに使われる植物の断面を顕微鏡なんかで調べると、ちょうど蜂の巣状のハニカム構造になっているらしい。そこに『キラービー』と呼ばれる名前の由来がある」

雑学を披露したことにより、彼の表情は少しだけ気取って見えた。

「ついでに言うと、似たようなハーブに『クイーンビー』というのもある。『キラービー』が男性向けの煙草型なのに対して、『クイーンビー』は女性用の錠剤型だ。それがこれさ」

男は手のひらを出してきた。そこにサプリメントのような黄緑色の錠剤が二つ乗っている。
どうやらこれを私に飲ませるつもりらしい。

「……こわい」

見つめながら私は呟いた。

「安心しろ、人体には無害だ。ただちょっとだけ気分が良くなるだけさ。覚醒すると言ったほうがイメージしやすいかもしれないな」

「……ほんとうに毒じゃない?」

「僕は人の死に興味はない。君がいなくなったら、たくさんの人が悲しむだろう?僕だって悲しくなるよ。これでも女性には優しくしてきたつもりさ」

こんな状況を自らつくっておいて、よく言えたものだ。
脱法ハーブに手を出した人間が社会からどのような制裁を受けるのか、私には想像もできない。
でもいまは彼に従うほかに道はなさそうだ。
私がハーブの錠剤を受け取ると、男は冷蔵庫を物色しに行き、飲料水のペットボトルを持って戻ってきた。

「それを飲んだら、朝まで一緒に楽しもうぜ」

私はもう一度だけ、どうしようか考えてみた。そこから導き出された答えは、やはり悪魔の囁きでしかなかった。
ぐっと目を閉じ、錠剤を口にふくんだ。味はしない。
そしてペットボトルの水をぐい飲みすると、後悔の念がじわじわと胸に立ち込めてきた。

私はもう終わりだ──。

「ちゃんと飲んだのだろうな?」

彼の問いに私はこくんと顎を引いた。

「ほんとうかどうか確かめてやるから、口を開け」

そこまでやらせるかと思いつつ、私は四つん這いのまま口を開いて舌を見せた。
それはあっという間の出来事だった。
男が私の下顎をぐいと掴み、
「お利口さんだ」
と微笑すると、彼のジーンズのファスナーを下ろす気配と同時に私の口内に何かが押し込まれた。

「……かはう……んんっ?」

男のいきなりの行動に私は驚いた。
すぐ目の前にベルトのバックルがあり、その下の開いた窓からは陰毛がはみ出している。
彼の肉体の一部が私の口の中にあった。
逃れようとする私の首を強引に元へ戻し、男はさらに腰を突き出してきた。

「ちゃんとくわえてないと、このナイフが血に染まるよ?」

舐めるような口調で彼は言った。
そうして半ば諦めかけた私を襲ってきたのは、胃液が逆流しそうな感覚だった。

「……はぐっ……おええうう……あぐんんん」

少し涙目になりながらも、胃袋を刺激する不快感に私はなんとか堪えていた。

「噛むんじゃないぞ。わかってるな?」

見下した言い方をされて、私は男の目を見返した。

「僕のことが憎たらしいだろう?愛情のかけらもない男のものをしゃぶれるなんて、貴重な経験じゃないか。そうだろう?」

口元からよだれを垂らしながら私は渋い顔をした。この生臭い液体を一滴たりとも体内に入れるわけにはいかないからだ。
ぶよぶよしていて、皮が厚くて、生温かい。
そんな彼の汚物は私の口の中で大きく成長し、ついには手に負えないほどにまで勃起していった。
もっと舌を使え、先を舐めろ、音をたてて吸うんだ、などと注文をつけてくるところは、わがままな不良少年のようにも見える。
家庭環境や人間関係に不満があり、その捌け口として私を利用しているだけなのだろうか。
それともただ恋愛が苦手なだけで、自分一人では処理しきれない性欲を満たすために、思い通りにできそうな女性を手当たりしだいに乱暴しているのか。

「僕のことを詮索するのは勝手だが、そんなことより、この状況から逃れる手段を考えたほうがいいんじゃないのか?まあ、できればの話だけどさ」

行為の最中だろうがとにかくよく喋る男だ。
そんな印象を抱きながら私は何度か咽(む)せた。
硬くなった男性器の先端が喉の奥を突いているし、そろそろ顎が疲れてきた。
しかし悪夢はまだ始まったばかりだ。

「これはフェラチオなんかじゃないぞ。イラマチオっていうんだ。後で君の子宮を嫌というほど突いてやるから、僕の存在を舌の上に記憶しておくんだな」

おら、おら、と腰を振る男の揺れに合わせて、私の唇は淫らに濡れて音を鳴らす。
頬の内側や上顎から歯の隙間にまで、わけのわからない体液が粘着して膜を張っていた。

「……ふぐう……んぐんぐん……ちゅむちゅむ……むふっ」

呼吸もままならない私。

「いいぞ、その調子だ。可愛い顔して、案外いい仕事するじゃないか」

男の語尾が熱くなってきた。
そして私の髪を撫で、頭を抱擁し、奇妙な腰使いをしながら吐息を漏らしはじめた。

「……たっぷり出してやるからな。……はあはあ……よく味わって、……舌で転がして、……ぜんぶ飲み込め。……うっ……一滴残らずだ」

男はここに出すつもりだと私は理解した。
視界の外では凶器が鋭い光を放っている。
どうすることも出来ないま、私は汚らわしい男性器を口でしごきつづけた。
魚肉を練り固めたような舌触りに、私の我慢も限界を超えていた。

どうして男はいつも……。
どうして女はいつも……。
もう嫌だ──。

「……おおっ、……おおお出すぞ、出すぞおお、うらあ、うらあ、うっ……」

吠えて、呻いて、彼はとうとう下半身の動きを弱め、また大きく一振りすると、そのまま目を閉じた。
私の口の中で射精を果たした瞬間だった。唾液が重たくなった感覚がある。
吐き出す素振りを見せれば、彼は私を許さないだろう。

「こうしておいてやる」
と男はゆっくり腰を引き、ようやく私の口を解放してくれた。
目と鼻の先で、浅黒い肉棒は上を向いたままぬらぬらと光り、その先端部と私の唇とを繋いでいるのは、精液滴る白い糸だった。
彼は顎をしゃくり、「飲め」というサインで私を促す。
嘔吐する覚悟で私はそれを喉に通していった。
どろっとした液体は喉にしつこく、生臭く、体に悪そうな味がした。そうして胃に溜まっていくのだろう。
二度、三度と歯を食いしばり、私はそれを飲み干した。

「……けほけほっ、……うっうん、……んんっ」

このまま寝込んでしまえたほうが楽なのかもしれないけれど、その権利も奪われている上に、彼の性欲はまだまだ衰えてはいないようだった。

「君みたいな大人しい美人が、僕の精液を飲んだ。こんなに興奮することはないよ」
と男。
そうして汚れたままのそれをジーンズにしまった。

「それじゃあ次はどうしてやろうか」

「あの……」

「なんだ?」

「ええと……その……」

「入れて欲しいのか?」

言うか言うまいか私は迷っていた。切り出すきっかけもなかったし、それをストレートに告白したとしても、彼はかならず何らかの条件を提示してくるだろう。
いろいろ考えた挙げ句、
「ちょっと……お手洗い……」
と私は小さな声で言ってみた。そして相手の反応を窺う。

「それは僕の気配りが足りなかった。すまない」

明らかに紳士を演じている風に男は詫びてきた。きっと腹の中は『黒』に違いない。
そんな彼を横目に私がトイレに向かうと、予想通りの行動を彼はとった。

「一人じゃ心細いだろう」
と私の背後で男がにやける。
何も言い返せない空気が漂っていた。
私はトイレの扉を開け放ち、便器のそばに立った。

つづき「麻莉子[8]」へ


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