この話はつづきです。はじめから読まれる方は「哀れ妻・陽子」へ
陽子は薄ベージュ色したワンピースを着て法廷に居た、右側には夫佐伯利勝が刑務官に挟まれ座って居た、久し振りに見る夫は少し窶れていたが元気そうに見えた、陽子は時折額や唇にハンカチを充て汗をとる仕草をしていた、裁判官が中央に座り左側には検察官が座って居た
「奥さん、ご主人が拘留されて生活の方はどうですか?」
法廷の中央に立って要る陽子の側に弁護士が歩きながら陽子に質問した
「…はいッ…大変…ぅぅぅ…生活は…ハアハア…苦しいです」
「そうですか、生活が苦しい中で今回、被告人であるご主人の証人の方と連絡を取り合うのは大変だったのでは有りませんか?」
「はいッ…ぁぁぁ…たッ…大変…でした」
陽子は口許を抑え時折躰を震わせ辿々しく答えた、弁護士は正面に居る裁判官に向き言った
「其れでは、弁護側からの証人を提出をしたいと思います」
弁護士は証人である村山昇を証人席へと呼び昇は証人席で宣誓をした
昇が宣誓をしている間、夫佐伯利勝は昇を縋る目で見ていた
「其れでは村山さんお聴きしますが、当日、被告人と何時頃まで飲食していましたか?」
グレーのスーツに身を包んだ昇が落ち着いた声で答えた
「多分午前1時は過ぎていたと思います」
「村山さんもかなりお酒は飲まれたんですか?」
「そうだと思います、よく覚えていませんが」昇の目は少し笑った様に見えた
「被告人が車に乗る姿は見ていますか?」
「帰ると言って店先で別れましたので、車に乗る姿は見ていません」
「車に乗る姿は見ていないんですね?」
「はい、見ていません」
弁護士と昇とのやり取りが暫く続た
「これで弁護側からの証人への質問は終わりますか」続いて検察側から証人尋問が始まった、後ろの傍聴席で陽子は膝を震わせ拳を固く握り締めていた
つづき「哀れ妻・陽子(9)」へ
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