妄想具現(2)_ハッピーライフ-官能小説(happylives-novel)

牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜 ——日野草城

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妄想具現(2)

15-06-14 10:24

この話はつづきです。はじめから読まれる方は「妄想具現」へ

はっきりとしない口調で絵美さんがドアの隙間から俺に見えるようにしてパンパンに膨らんだ半透明のゴミ袋を差し出す。

「あの…今日は不燃物の日なので…大串さんのお出しになったこの袋は違反になってしまうんです…」
そう言って、別に自分が悪い訳でも無いのにおずおずと申し訳なさそうにする絵美さん。
そんな彼女に俺は当初の不安が取り越し苦労であった事に胸を撫で下ろすと共に迂闊であった過去の自分に舌打ちをする。
この辺りではゴミを出す際にはその種類を問わず自分のゴミ袋に名前を書かなければならない決まりがある。
高級な住宅地に見合うように不法投棄などが無いようこの地域でそれは自主的に行われており、かなりの力を入れている。
そんな状況の中で厄介者とされるこの高級住宅地にそぐわないボロアパートの住人が決まりを守らなかったというのは、このボロアパートを快く思っていない者たちにとって格好のネタであろう。
悪くすれば取り壊しなどという最悪のパターンに持ち込まれる可能性もあり得る。
「すみません、直ぐに引き取ります!ご迷惑をお掛けしました!!」
この場合、見つかったのが絵美さんであった幸運に感謝すべきである。彼女ならば概ねはこのボロアパートに悪い感情を抱いていないと思われるので大した問題には発展しないだろう。
俺は急いで半開きであったドアを開き、絵美さんの持つゴミ袋を引き取ろうとする。
「あの…このゴミの事で…お話をしたいのですが…」
ナニッ!?
絵美さんの思いもよらない発言に俺は差し出した手を止めて、彼女の顔を見返してしまう。
まさか、彼女はこの事を町内会で問題にするつもりなのだろうか。
そうなれば、町内会長のあの年増のクソッたれババアがこれ幸いと嬉々として大騒ぎするだろう。
「もし良かったら…中でお話をさせて頂けませんでしょうか?」
そう告げる絵美さんに俺は額と背中に冷や汗をかきながら肯定の意思を言葉で無く、動作で表すしか出来ない。
流されるように彼女を中に促して、お世辞にも綺麗とは言えない部屋に座って貰う。
そして、不慣れなながらお茶を出して小さなちゃぶ台を間に俺は絵美さんと対面する。
カッチコッチと部屋の時計の音がいやに耳について離れない。どちらが喋り出す訳でもなく時間だけが過ぎていく。
一体、絵美さんは何が目的なのか。俺は彼女の意図を探り兼ねていた。
そんな中で遂に絵美さんが口を開く。
「大串さん、体調はどうですか?」
「…えっ?」

つづき「妄想具現(3)」へ


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