ヴァギナビーンズ症候群「14」_ハッピーライフ-官能小説(happylives-novel)

牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜 ——日野草城

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ヴァギナビーンズ症候群「14」

15-06-14 10:31

この話はつづきです。はじめから読まれる方は「ヴァギナビーンズ症候群「1」」へ

次の日の千佳の誕生日も、けっきょく二人して口裏を合わせ、琴美の想像のおよばないところで密会を果たした。
千佳は会うたびにヴァージンだった。いちばん性犯罪に巻き込まれやすい体質なのではないか、そう疑いたくなるぐらいに、初(うぶ)で人見知りな肌の持ち主なのである。

ほどよく発育した乳房の弾力も、その南半球の垂れないかたちも、乳頭の紅いしこりまでもが処女を装っている。
そこから山あり谷ありの急勾配がつづいて、細いくびれだけで繋がっている下半身から先は、誰にも挿入を許すまいと警戒する仕草で脚を組み替えたりする。
そこを何とか攻め崩したあとの膣への挿入感にしても、その緩みのない肉の質は明徳を容易に悩殺するのだった。
両手両足はきゃぴきゃぴと暴れているくせに、顔のあちこちに皺を寄せて快感に堪えようとする。
ヴァギナは熱くただれて、だくだくと愛液を吐き出す。
千佳が痛そうな表情をすれば彼が訊き、痛くないのだと彼女は首を横に振る。また千佳の痛恨の喘ぎを聞けば彼がたずね、気持ちいいのだと彼女は恥ずかしそうに頷く。
そうして二人は絶頂の飛沫を体中に浴びせ合い、思いつくかぎりの愛の告白をならべ、確約のない契りを交わした。

「三上さんといるときの自分がいちばん好きなの。だけど独占欲があるわけじゃなくて、それはたぶん、お姉ちゃんには適わないってわかってるから」

「きみにはきみの良さがある。だから僕はきみとこうしているだけで、日常から隔離されているみたいな錯覚を味わえるんだ」

「私の良さって、もしかして、あそこ?」

悪戯っぽく千佳の下半身が絡まってくると、明徳は飼い犬を手懐けるように彼女の髪を撫で、肉の根でもってクリトリス経由のヴァギナを掘り下げていった。

「ハッピーバースデー、千佳ちゃん」

混み合う時間帯を避けたつもりだったのに、ドラッグストアの店内にはそれなりに買い物客がいた。若い主婦や大学生などの女性客ばかりだ。
あまり顔を見られないように視線をそらせつつ、彼女は勇気を出して『それ』をカゴに入れた。
さらに菓子パンやジュースなどを買い足して、あまり有効とは思えないカモフラージュをしてみた。
レジを通るまでは何度も息が詰まりそうになったが、ようやく支払が済んで気が楽になるというものでもなかった。
生理が遅れている原因を明らかにしておく必要がある。

エコバッグから『それ』だけを取り出して残りを車に乗せると、彼女は近くの公衆トイレに駆け込んだ。
どちらが出ても私は大丈夫。責任は自分にもあるのだから、先延ばしにすればするほど決意が鈍るだけだ。
彼女は下着を下ろし、便座に座った。そして妊娠検査薬の任意の場所に尿をかけると、はあ、とため息をついた。
これまでのことを思い返すには、ちょっぴり臭い場所だと思った。

もしもできていたとしたら、どの日のどの行為が決定的だったのだろうか。
性行為の回数も異常だったけれど、まさかあんなものまで使ってしまうなんて、私はどうしようもなく淫乱な女になった気がする。
白黒はっきりさせたら、彼との関係はこの後どうなるのだろう。

彼女が我に返ると、果たしてそこに答えは出ていた。

「大事な話があるときには、きみは決まってこの店に僕を呼ぶんだね。いつだったか、僕がプロポーズしようとしたときにも、確かこの店を予約するようにきみからねだられたっけ」

テレビ画面の中の男は、テーブルを挟んだ対面の女を見つめて、臭い台詞を言う。
そういえば、三上明徳にはじめて唇を奪われたあの夜も、ちょうどこのドラマのキスシーンが流れていたことを、橘千佳は思い出す。

「別れましょう、私たち」

地上デジタルで映し出された人気女優の表情には、意外な新展開を期待させるものがあった。

「理由にもよるね」

「ほかに好きな人ができたの」

「きみの片思いなんだろう?」

「その人にレイプされたんだよ、私」

「おもしろい冗談だ。強姦された相手の男を好きになったって言うのかい?」

「あなたには無いものを、彼が持っていただけ」

微妙な沈黙がおとずれた。千佳も生唾を飲み込み、沈黙が明けるのを待った。

「もう決めたことなのか?」

運ばれてきた料理には手もつけずに、俳優の男は台詞を口にする。

「じつは……、妊娠してるの。もう四週目になる」

「父親は僕ではないと、そう言いたいのだろう?」

「自覚しているなら話が早いわね。彼の仕事の関係で、海外で生活することになりそうだから。だからもう、私のことは忘れて」

「それにはおよばない。僕にも好きな彼女ができた」

「知ってる。相手が誰なのかもね」

「そうか……」

永遠の愛なんてどこにもない、男はそう悟って苦笑いをした。
女は左手の薬指からマリッジリングを外すと、赤ワインが注がれたままのグラスの中にいじらしく落とす。
そうして恋人役の彼女が涙目を腫らした瞬間、千佳はもらい泣きして鼻をすすった。
波乱に満ちた愛憎劇の行方は、ここで次回へ持ち越しになったのである。

自分が望んだとおりに事が進んでいるのは、素直に嬉しい。だが、三上明徳との関係を姉が知ってしまったら、たぶんすべてが狂ってしまうだろう。
似たような血が通っている二人姉妹なのだから、おそらくどこかで通ずるものがあるはずなのだ。だからいつまで隠し通せるのかも、もはや時間の問題と言える。
千佳は立ち上がり、ハードケースからヴァイオリンを取り出すと、おもむろに弦を鳴らしはじめた。
旋律は彼女の長い髪を震わせ、上半身を波打たせて反復するたびに美しく響いてくれる。
その涼しい音色は、三上明徳と橘琴美の結婚披露宴の席でも、二人の門出を祝うために奏でられるはずなのである。

つづき「ヴァギナビーンズ症候群「15」」へ


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