『繁殖熟女』  プロローグ_ハッピーライフ-官能小説(happylives-novel)

牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜 ——日野草城

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『繁殖熟女』  プロローグ

15-06-14 10:32

プロローグ

その部屋を一言で表現するのなら、俗な言い方だが『金のかかった部屋』になるだろう。学校の教室ふたつ分の広さに年季の入った家具と調度品が絶妙な配置で存在している。
そんな高級家具に囲まれ、マホガニーの机でひとりの男が電話を掛けていた。今時珍しいことに携帯ではなく据え置きの有線電話で時々相槌を打つ男の顔は不敵な笑みと自身に彩られたものだった。

『それで次の納入はいつ頃かね?こちらとしても難儀しているのだ……』

電話口から漏れる声は年相応の深みを感じさせる男の声で、心底困った様子が窺える。それに応ずる声は明瞭でいて素っ気無いものだった。

「釈迦に説法になりますが、相応のレベルを求めますと時間のかかるものです。こちらとしても半端な仕事は信用に関わりますので……、やっつけではお受け出来かねます」
『……それを踏まえて相談している。競り落とすかどうかは顧客次第だが、肝心の商品が揃わなければ話しにならん』
「ごもっとも……、随分急かされているご様子で……」

電話の声に思うところがあるのか、机を指で静かに叩く。

『うむっ……、人間、金を手にすると大概横柄になるもので……、とにかく活きのよい商品を寄越せと煩くてな、正直参っている……』
「量産品と勘違いされてはこちらも困ります。いずれも一級品、お客さまのどのような願望も叶える最高品質でなければ……、ひとつでも返品されたらこの業界では致命傷になります」
『……もっともだ、私としてもオークションの開催をする以上、売れ残りが出ては……、それ以上に期間が空きすぎると太い客が他所に流れてしまう。ただ、君なら他所に卸しても高く評価されるだろうが……』

業界の先達が漏らす溜息に苦笑してしまう、よほど追い詰められているのだろう。

「前回から二年になりますか……、確かに少々、時間が空きましたね」
『うむっ、やたら不幸が重なったのか、業界の凄腕が悉く鬼籍に入ってしまった』
「死人では頼みようもありませんから……。ですが私どもの商品は高評価をいただきました。あれは私が手懸けた商品、決して先代に劣るものでは……」

自分の仕事に自身があるのか、その言葉に迷いはない。

『それは認めよう……、ただ君以外のところは継承したばかりで無茶も言えんのだ。ある程度の実績と信頼がなければ客の財布も……』
「新顔の手懸けた商品ばかりでは、顧客も渋りますか」
『ああっ……、だからこそ君の手助けが欲しい。各当主の中で君が一等抜け出ている。前回の実績もあれば目玉商品として客に告知出来る』

縋り付くような懇願に数秒の間を置いてから答える、業界の顔役に恩を売るのも悪くないかと……。

「何人揃えればよろしいでしょうか、なるだけご希望に副うように動きますから」
『おおっ、そう言ってくれると思ったよ。取り敢えず全部で十人ほど考えている。普段の半分だが背に腹は代えられない、君のところには出来れば三人、お願いしたい』
「つまり通常通りの員数ですね」
『そうなる、ルーキーには一人に専念してもらい質を保ちたい』

なるほどと感心する、確かに一人なら徹底的に躾られる。ここで実績を作れば自身に繋がり、次へと飛躍出来るし、名も売れるだろう。

「私だけで間に合いますか?」
『別口に三人依頼してある、君が呑んでくれれば後はなんとかなる』
「分かりました、それならお受けいたします。それでどのような商品を」

幾人かの顔見知りを思い浮かべながら久しぶりの大仕事に若干声が高くなる。そんな焦りを自覚し、口の端が緩んでしまう、自分もまだまだと……。

『取り立てて希望はないが他の新人が若いのを受け持つから可能なら熟女、人妻、未亡人あたりを担ってもらいたい。無論、やっかいなのは承知している、報酬については便宜を図るつもりだ』
「ありがとうございます。私としても前回は未亡人一人ですから、ここらで実績の嵩上げをしたいところ、喜んでお受けいたします」
『いやぁ、ありがたい、これで目途が立ちそうだ。期限は来春、半年後だが間に合うかね』
「厳しいですがなんとか……」
『頼むよ、もし手伝えることがあれば遠慮なく言ってくれ、力になるから』
「そう言ってもらえれば心強いですよ、では定期連絡には吉報を」
『ああっ、楽しみにしているよ、それじゃあ!』

受話器を置き瞑目していると人の気配がした、正確には電話で応対中気配を絶っていたのだが。

「旦那さま、ご依頼にございますか?」
「んっ、ああっ、さすがに痺れを切らしたようだ。調教の妙味というものを解していないな……」
「ははっ、彼の御仁は商売人であって調教師では……、品質と量が揃えば文句はないかと」

年の頃は五十代だろうか着痩せしているが長身の執事が笑いながら机の上に紅茶のカップを差し出す。湯気の立つカップを手に取りながら愚痴めいた台詞が零れてくる。

「う~んっ、しかも熟女がご希望だ、若い娘と違うからな……」
「なるほど……、いささか難儀ですな」

言葉ほど困惑していないが実際のところ難しい依頼だった。

「旦那さまに心当たりは」
「ない、まったくない!十代なら楽だし……、そもそもローティーンのほうが人気があるんじゃないか」
「最近は当局も厳しいですから……、仮に性交の最中に踏み込まれても幼女と熟女では言い訳の仕方が異なります」
「幼女相手に腰を振っていては当座の誤魔化しも出来んか……、確かに問答無用でブタ箱行きだな」

児童ポルノは世界的に取り締まりが厳しく、そっちの趣味の人間にはやっかいなご時世だった。それが分かるだけに熟女の需要があるのだろう、同衾しているところを押さえられても成人ならどうとでも言い逃れが出来るし時間稼ぎも容易だろうから。

「世知辛い世の中だ……、処女の調教のほうが繊細だが深みはある商品になるのだが……」
「熟女のほうは相応の基礎がありますから……、一度壊す必要がありますな」

しみじみと語る様は年季の入った職人のようにしか見えない。旦那さまと敬称されているが実際はかなり若い。むしろ年少と言ってもいいくらいの年齢だった。名前は佐伯和久、高校二年生の少年であり、佐伯家の当主でもある。

「黒木、ネタは仕込んでいたと思うが……」
「こちらに……、厳選した上物にございます」

執事が差し出すファイルを開き目を走らせる。考えてみれば黒木と呼んでいるがそれが本名なのかは確認したことがない。和久の祖父の代から仕えている忠実な執事であり補佐役であることしか認識していない。年齢に似合わない大胆な行動をする和久も彼にかかればケツの青い小僧でしかなかった。人間、おむつを替えてもらった相手には終生頭が上がらないようだ。

「ほうっ、さすがだ……、抜けの無い見事な仕事」
「ありがとうございます」

少年が手にするファイルには目星を付けた女性の履歴、出自、身体的データ等々、本人ですら知らないような情報がびっしりと記載されている。業界において揶揄を持って『釣り書き』と呼ばれる生贄候補の個人情報だった。彼の家は代々、『調教師』として女を生き地獄に叩き落とす賤業で糧を得てきた。遡れば江戸時代にまで系譜が連なる生粋の調教師になる。無論、調教相手は犬や馬ではなく、そのものずばり『女』であった。

「デジカメの普及で写真と文章の構成も楽になったとは云え、使用方法は罰当たりなものだ」
「生みだされた技術は大概、碌でもない用途に使われるものかと……」

ファイルの中に綴られている書面には笑顔を見せる女性たちの素の姿が何枚も写し取られていた。写真と履歴だけで和久の期待も高まってくる。

「候補は三人に絞り込んであります。まずは最初の女性をご覧下さいませ」
「ふむっ……、のっけから未亡人か、悪くないな」
「それも四十九日を過ぎたばかりの出来たてほやほやで……」

隠し撮りに写っているのは和服を纏いしっとりとした色香を醸し出す妙齢の女性だった。普段から和服なのだろう着馴れた感じで、漆黒の髪を肩のところで切り揃えているため市松人形のように見える。このタイプは着痩せする、直感で悟り確認のためスリーサイズを見ると溜息の出るような数値が記載されている。

「次の女性も人妻で……、最初のかたとは趣の異なるタイプはどうかと……」
「なるほど……、こっちは西洋人形みたいだな」

二番目の女性は掘りの深い顔立ちをした気の強そうなタイプだった。どこかのパーティーだろうか胸元の開いた大胆なドレス姿で笑っている写真が掲載されている。体型はスレンダーだが身長はかなり大きい、数値では和久を若干上回る。

「見た目は派手な感じですが、意外に家庭的な女性でして。夫とは高校以来の付き合いとか……」
「つまり夫しか男は知らない可能性が高いと」
「はい……」

このタイプは貞操観念が強い場合が高く、それだけに難しいが調教師冥利につきる案件でもある。

「最後はそれ以外のタイプを眼目に選抜いたしましたので、場合によっては差し替えもありかと」
「黒木の見立てだ、間違いはないだろう」

信頼の言葉をかけながら目は記載事項を追う、なるほど確かに毛色が異なる。

「シングルマザーは確かに始めてのケースかもしれん」
「仰る通り、先代も手掛けたことはなかったかと」

掲載されている写真には複数の子供に囲まれた女性の姿が捉えられていた。廻りの風景から幼稚園か保育園と推察出来る。事実、履歴には幼稚園勤務と記載されていた。

「子供がいるのか……」
「七歳になる娘がおります」

別の写真にはランドセルを背負った少女と写る笑顔の女性があった。やや垂れ気味の目が優しさと母性を増幅させている。年齢を確認すると三人の中で一番年下だが経産婦のせいか肉付きや雰囲気が年長に感じられる。

「構わないだろう、下品な感じはしないし、マザコンの客には受けがよさそうだ」
「ではこの三人で進めますが……」

手の翻しで指示を出された忠実な執事は若き主に恭しく礼をすると音もたてずに退室していく。閉まる扉に目を向けながら新たな仕事に彼は思いを馳せて再び瞑目するのだった。

つづき「『繁殖熟女』  1・吊るされた淑女」へ


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