この話はつづきです。はじめから読まれる方は「『繁殖熟女』 プロローグ」へ
「静謐と狂乱の狭間で」(絵美子)
2・晒される陰部
完全な暗闇と無音の世界は人間の精神を浸食する……。悪意ある誘拐によって囚われた菊川絵美子の精神は限界にきていた。すでに日数の概念も喪失し、自分が囚われた時間も分からなくなっていた。吊るされた状態で放置され続けた彼女の肢体は宙空に浮いているため筋力も低下している。寝たきりの老人のような扱いをされプライドがズタズタに斬り裂かれた。
肩で切り揃えられた黒髪は脂が浮き出て残念な状態になっている。身体こそ洗浄されているが気休めにもならない。再び訪れた男は無言のまま彼女を洗浄すると太股に注射をして去っていった。見えていないため痛みを感じる間もなく打たれてしまい愕然とした。
(まさか……、か、覚醒剤では……)
薬漬けにして女を嬲るつもりかと慄然としたが、いくら経っても身体に変調は感じられず拍子抜けしてしまった。いま思えばなにかしらの栄養剤を投与したのかと推断し吐息を漏らした……。
とにかく訳が分からない、何もされないことがこれほど恐ろしいとは思わなかった。水分の補給は定期的にされるが、そこに本人の意思は一切無い。洗浄もまるで動物園の獣を洗うような感じで人間に対する扱いには程遠かった。
げっそりとやつれ指すら動かすのが億劫に思えるようになったのは丁度監禁されてから十日が経過していた。もちろん彼女には日数の把握は不可能だったが……。その間、一切固形物を口にしていないため気力も萎えていた。理論上、水分さえ補給出来れば数カ月は生存可能と云われるが、そんなことは机上の空論に過ぎず彼女は逃亡はもとより抗議の意思すら消え去っていた。
「菊川絵美子さん、起きていますか?」
意識が朦朧としていたところに突然声をかけられびっくりして顔を向けた。部屋が明るいのも分かるし側に人がいるのも理解出来る。なにより人間の誰何があったのがたまらなく嬉しかった、絵美子は猿轡の存在も忘れ無我夢中で話しかける。
「ふみぃ、んふううっ、むぬふっう、ぬふうううぅ、ぬんっ、むぐくくくっ!」
「慌てないで下さい、私はあなたの味方ですから……、取りあえず猿轡を外しますね」
(ほ、本当に!助けてくれるの……、お願い早く外して)
誘拐犯相手に感謝するくらい追い詰められていた彼女は嬉しそうな呻き声を上げる。後ろに気配を感じると男は口の拘束を解いた。
「けほっ、はあっ、はあっ、はあっ、はあっ、はあっ、ふぅうぅぅうぅ……」
口から異物が出され自由に呼吸が出来る、新鮮な空気を吸い込み安心したのか項垂れてしまった。会話が可能になったら怒鳴ろうと考えていたがそんな気力は一片も無かった。それどころか相手の機嫌を損ねたらどんな方向に転がるか分からないだけに慎重に言葉を選んだ。
「はあっ、はあっ、あ、あなたは誰……、どうして私をこんな目にするの」
長時間の拘束に口が麻痺したのか呂律の怪しいまま問い掛ける。怒らせないよう注意を払ったが、どこが沸点か不明なだけに言葉も短くなる。
「誰と聞かれれば『調教師』とお答えいたします……、どうしてと聞かれれば『あなたが美しいから』と答えるべきかと……。怨みはありませんがあなたを調教させていただきます」
「……な、何を言っているの、あなた正気なの……、こんなこと犯罪じゃない、まだ若いのに人生踏み外してどうするの。口添えするから自首するのよ、いまならやり直せるわ」
男の声が若いためてっきり未成年の性犯罪かと早合点した絵美子は最前の配慮も忘れ詰問してしまう。高校生も暴走なら怯みもしただろうが生憎彼女を襲った災厄はもっと別のなにかだった。
「お元気なようで安心しました……、第一段階で心が壊れる女性も多いので。あなたは一級の奴隷になれそうだ、喜んで下さいあなたはセックスだけを生業とする素晴らしい人生が約束されているのですから」
「く、狂ってる……、子供のくせに……、親や警察にばれるわよ、それでもいいの!」
人間ひとり監禁する、これほど難しいこともない。親と同居していれば普通は気付かれる。食事や排泄の処理を考えれば近隣にも不審がられる可能性は長時間になるほど高くなる。妙な叫び声が響けば警察に通報くらいする者も出て来る。絵美子は拘束者が自宅に監禁していると推察し脅しをかけ優位にたとうと努力した。彼が怯めばそこからなんとか解放してもらうよう出来るのではないかと淡い期待を抱いて。そんな幻想は瞬間で断ち切られたが……。
「代々の調教師ですから……、お気づかいなく。当然、防音等の対策に抜かりはありません、あなたをここで切り刻んでも露見することは万に一つも……、ありえません」
「そんな……」
気負いの無い淡々と告げられる台詞に真実の凄味を感じ、絵美子はそれ以上言葉を繋げることが出来ない。はったりと決めつけるには落ち着いている。もしかして自分は勘違いをしていたのかと、この時、初めて気付いた。男の虚栄ではなくすべてが本当のことなら前程条件から違ってくる、洒落にならない事態に嵌ってしまったのかと怖気が走る。
「何か勘違いをなさっているようですが……、あなたは素材とし選別されたのですよ、絵美子さん」
「……素材?」
「性奴隷の素材です、私の仕事はあなたのような見目麗しい女性を最下層の奴隷に作り変えることです。この仕事は最初の素材選びに失敗すると取り返しがつかないもので……、素材さえ確かなら後はどうとでも……」
「は、犯罪じゃないの、あなたに何の資格があるのよ。そんなこと許されるわけないじゃないの」
「賤業なのは事実です、否定はいたしません……、ですがあなたの生殺与奪は私次第なのも事実です。いささか言葉には気を付けられたほうがよろしいかと……」
「…………」
男の言葉に冷たさが籠り、絵美子の舌は凍結する。視覚が制限されている所以か言葉の機微が明確に理解出来る。思いつきやはったりで行った犯罪行為ではないようだ。
「ね、ねえっ、もしかして遺産が目当てなの?お金ならなんとかするから……、お願い解放して……。もちろんあなたのことは誰にも言わない……、本当よ、約束するから」
「ククッ……」
苦笑とも冷笑とも取れる小さな笑い声が聞こえる、男の反応に疑念を抱く。
「失礼……、どういうわけか囚われた女性の半数は、今のあなたが言った台詞と同じようなことを訴えますから……、少々、可笑しくて」
「お金じゃ……ないの……?」
「お金はあなたを売り払った代金を戴きますから問題ありません」
人のことを家畜かなにかと勘違いしているような言い様に不満が募る。
「それなら私がその代金を払います、あなたもそっちのほうが楽でしょう?」
「そうもいきません、期日までに商品を仕上げないと信用に関わりますから……。この業界、書面での遣り取りは安全保障のため行いません。それだけに口約束は絶対の重みを持つのですよ。他の調教師たちが揃えてきたのに私だけ質と量が劣っていたら……、ご先祖さまにも申し訳がたちません」
若いながら立派な口上だと、自分の身に降り掛かる災難でなければ感嘆の声を漏らしただろう。妥協無き職人の宣言に取りつく島もない。
「そもそも絵美子さんに払えますか……、この業界もバブルの頃と比べれば落札額も下がってはいますが」
「いくらなの……、億でもなんとか出来るから」
亡夫の遺産額を勘案すれば一億や二億問題無く耳を揃えて用意出来る。このまま売り飛ばされるくらいなら惜しんでもしょうがない。
「……基準評価額は一億くらいですが、今のあなたでは無理な話しかと」
「そんなことないわ、それくらいなら必ず用意するから……、お願いだからお家に帰して!」
「ですがあなた無一文じゃないですか、それでどうしようと……」
「えっ!」
男の同情混じりの呟きに耳を疑う、自分は確かに遺産を相続したはずなのに……。
「あなたの資産はすでに私の名義に書き換えられていますよ、今のあなたは宿無しの無一文です」
「う、うそ……どういうことなの」
「どうもこうも……鈍い人ですね。相続手続きをした弁護士が私の配下だったわけです。いくつかのダミー会社と第三者の名義を経由してすべて私のものになっています。無論、報酬等が引かれた上での話しですが」
「そ、そんな馬鹿な……嘘でしょう!そんなこと不可能よ、絶対ばれるわ」
頼みの綱である遺産がすべて巻き上げられていたことを宣告され取り乱してしまった。
「弁護士の彼もそうですが……、資産がある美貌の未亡人は最高の物件でして……、上玉が出ると数年ががりで嵌めるんですよ。弁護士、税理士、保険屋、証券マン、銀行員……、専門知識を有する協力者たちがあなたのような女性から身包み剥がす手伝いをしてくれるのです……、理解しましたか?」
「あ、ああっ……ま、まさか……」
そこまで手の込んだことをされては素人の女が太刀打ち出来るはずがない。知ることの無かった社会の裏側に恐れおののいた。
「つまらない話しはこのくらいで……、取り敢えず綺麗にしないと」
「な、なにを……、ひゃあっ、つ、冷たいっ、なにをするの」
「ここをそろそろ綺麗にしないと……、生えているほうが好きだと云われるかたもいますが」
ジョリッ、ジョリッ、ジョリッ、剥き出しの腋に冷却された除毛剤を吹き付けるとそのまま安全カミソリで剃り始めた。お手入れを放置していた脇毛は視認出来るくらい生えており、彼女自身もその触感に恥じ入り沈黙してしまう。
「結構、剛毛ですね、カミソリの歯がすぐに駄目になりそうだ」
「い、いわないで……そんなみっともないこと……」
念入りに両腋を処理すると外気に晒されひんやりとする。仕上がりに満足したのか男は次の作業へと駒を進める。
「こちらもかなりですね……さっぱりしましょうか」
「ひゃいっ、そ、そこは……、嘘でしょう……お願い許して……」
吐息がかかり絵美子は身を捩った、己の股間に視線を感じ嫌な予感が脳裏を過ぎる。
「動かないで下さい、血だらけになりますから」
「くひぃっ、つ、冷たいっ、イヤっ、ダメっ、そんなこと変態のすることよ」
除毛剤を陰毛に吹き付けて馴染ませると腋と同じように剃毛する。やや硬めの毛だが範囲は狭いためあっさりと無毛地帯になる。念入りに除毛剤を再度塗布し温かいタオルで清拭した。
「ほらっ、綺麗になりましたよ、割れ目がぱっくりと開いてすてきですね」
少女のように無毛となった陰部に暗闇の中、嗚咽を堪えて歯を食いし
つづき「『繁殖熟女』 3・初めての浣腸」へ
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