この話はつづきです。はじめから読まれる方は「堕ちた天使 1」へ
誰からのどういった電話なのか?久美子は子機の置いてあったサイドボードの前に立ち、不安と期待が入り混じりながら耳を澄ませた。
『ああ、いたのか。なかなか出ないから留守かと思ったぞ』
「あなた・・・?」
電話の主は夫の達夫だった。
何の根拠もなく何故か娘の扶美からの電話と思い込んでいた久美子は、突然の伴侶の声にひどく動揺した。
それもそのはず、同性相手に心は拒んでいようとも、夫婦が寝るベッドで初めての不倫の真っ最中だったのだから。
気付けば、電話に出るべきか出ないでおくか迷ってしまった分、慌てて受話器を取ってしまって何も羽織らず全裸のままだった。
その上中断されたとはいえ恨めしいことに、先程までこのカワイイ不倫相手によって、垂れ流れるほどいつも以上にアソコを濡らしていたのだ。
子機から聞こえてくるいつもの誠実な夫の声は久美子を余計に罪悪感で覆った。
後ろめたさからか、電話口の向こうからこちらの様子が丸見えになっているような恥ずかしさが込み上げ、ろくに夫の話も頭に入らなかった。
動揺しまくる久美子は真由が後ろにいることも忘れ、すがるような気持ちで懇願した。
「お願い、今日は早く帰ってきて」
『だから今から九州出張なんだって。今迄何聞いてたんだよ』
「えっ?えっ、えっ、九州出張ってどういうこと?」
久美子は驚いて声が裏返った。
『もう、しっかりしてよ~。福岡の大事なユーザーでトラブったから大至急向かわなきゃいけないんだよ。
今から空港に向かうから、留守中よろしくたのむな。早くても明後日までは帰ってこれないと思う。
もう家に戻ってる時間もないし、着替えやら日用品は現地で調達するから。あっ、ヤベ。もう出なきゃ。
扶美に夏休みだからって遊んでばかりいないで勉強もしっかりするように言っとけよ』
達夫は一方的にしゃべって電話を切った。久美子はその場で呆然と立ち尽くすしかなかった。
別に具体的に期待していたわけではないのだが、この電話がきっと救いになると感じていただけに、どんどん状況が悪くなる事態に落胆ぶりは目に見て
わかった。
すると真由は携帯を手にし、誰かにかけ始めた。何やら楽しげな表情をしている。
「あっ、サチ?今いい?あのさ、ちょっと事情が変わったんだよね。サチさあ、今晩アンタん家に扶美ちゃん、泊めてあげなよ」
『×?※○!』
「えっ?どうやってって?そんなの自分で考えなよ。いい?これは命令だからね。失敗はありえないから。わかってる?」
真由はそれまでの女の子らしい態度とは違う口調で携帯電話口にしゃべった。
「ちょっと、どういうこと?扶美が何だって?誰に電話したの?」
久美子は食ってかかるように真由に詰め寄った。
「イエーッ、今夜はオールナイト決定!!」
真由は携帯を持った手を高々と上に伸ばしはしゃいだ。意外な展開にテンション最高潮といった感じだ。
「ん、今の?扶美ちゃんと今遊んでるサチ。扶美ちゃん今晩サチの家にお泊りだって。
そのうち電話かかってくるよ。お母~さん、扶美ちゃんのお願い許してあげてね!」
真由は両手を胸に当ておどけて首をかしげた。
「サチって今井幸子さん?扶美は友達のところに遊びにいくって言ってたけど、
泊まるなんて一言も言ってなかったわよ。嘘ついてもダメよ」
久美子は俄かに信じられないといった表情で真由の言う事を怪訝そうな顔で疑った。
「ううん、嘘なんかじゃないよ。サチは私のとても優秀な手駒だから。
私の命令ならどんな手を使ってでも守るわ。後でちゃんとご褒美を与えてあげればね」
真由の言葉には妙に説得力があった。そしてニヤリといやらしい笑みは、この子ならあり得ると思わせると同時に、一瞬にして久美子の背筋を凍らせた。
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