春眠の花[19]_ハッピーライフ-官能小説(happylives-novel)

牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜 ——日野草城

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春眠の花[19]

15-06-14 10:38

この話はつづきです。はじめから読まれる方は「春眠の花[1]」へ

さっきまでの様子とは違い、部屋の中は、しんと静まり返っていた。
昼間の明るさが窓から射し込んで、レースのカーテンの向こうに青空が見える。

私はひとり、病室のベッドから身を起こして、まずは両手を、そしてパジャマの胸元や内股のあたりをぼんやりと確かめた。
どこにもおかしいところはない。それどころか、気分はとてもおだやかに晴れている。
ハーブガーデンを眺めながらアールグレイを楽しんでいるような、贅沢な時間の中に私はいた。
欠伸(あくび)が込み上げてくることもないほどに、確かな目覚めだった。
さっきまでのアレは全部夢だったのだろうか。それとも私は、レム睡眠とノンレム睡眠を規則正しく繰り返していただけだったのか。ところで今日は何月何日の何曜日で、私の不妊治療はどのあたりまで進捗しているのだろう。
はっきりさせたい事がいくつも頭に浮かんで、そのどれもがまだ曖昧だと思っていたときだった。

コンコン……、と病室のドアがノックされた。私は返事もできずにそちらに視線だけを向ける。ドアが開き、白衣を着た男性が入ってきた。

「小村奈保子さん、おはようございます。気分はいかがですか?」

出海森仁医師だった。

「目が覚めたら体調がとても良くて、それで、素敵な夢を見ていたような気がします」

「うんうん、催眠アプリを選択したのが正しかったようだ。とても良い顔をしています」

彼はベッドの私に寄り付き、骨董品でも扱うような手つきで私の顔の輪郭を撫でた。
医師はさらにこう言った。

「あなたは二つの夢を見ていましたね?夢のような夢と、現実のような夢」

「はい」

「どんな夢だったのかは私にはわかりません。ただ、その夢のおかげで小村さんの女性ホルモンに変化があらわれたのは確かです」

「それはもしかして……、不妊治療のことですか?」

私の問いに対して彼は、肯定でも否定でもない微妙な笑みを口元に浮かべ、愛おしい者を見る眼差しで迫ってくる。
不思議だった。ただの医師と患者の関係なのに、彼に髪を撫でられ手を握られても、嫌な気はしなかった。

「まだ夢の残像が消えませんか?」

「いいえ、大丈夫です。なんだか気持ちの整理がつかなくて……。ここは本当に現実の景色なんだ、ってようやく気づいたばかりで、もう少し時間が──」

「急がなくてもいいですよ。私がじっくりと現実を見せてあげますから」

そうして出海森仁医師は病室のドアに向かい、内側から鍵をかけた。
密室に二人きり──。

「いつ退院できますか?」

私が訊くと彼はふたたび私に半身を寄せて、「不妊が改善されたかどうか、私が確かめてさしあげましょう」と言って白衣を脱ぎ捨てた。
その視線は私の全身を隈無くたどり、それからゆっくりと私の肩を、背中を、そしてお腹を手でやさしく撫でてきた。

「奇跡は待っていても起きない。自ら起こすものなのです」

「先生、私の卵子に奇跡をください」

「奈保子さん──」

彼は私の着衣を大人しく脱がして、欲求の溜まった目をしたままブラジャーとショーツに指を忍ばせる。
唇を奪われそうなほど体を密着させているのに、それはしない。けれども出海森仁氏の指は確実に治療とは無関係な動きで、入院患者である私のマイナス部分を取り払い、プラスの愛撫を体中に加えてくる。いや、むしろ掛け算の愛撫かもしれない。
わざとらしいといえばわざとらしいが、女性の扱いに迷いがない。

「はっ、はふっ、ふっ」

私の息はもう熱い。ブラジャーの上から乳房を揉み揉みされ、脚の付け根からショーツの中に潜り込む指はクリトリスにいたずらを仕掛けてくる。
じゅわっと果肉がほぐれて、くちゅくちゅと果汁を出す。
すごく濡れていると、彼は言った。
そんなはずはないと、私は否定した。
賢くて美しい女性だと、彼はさらに言った。
女は産む性であり、男は産ませる性である。だから自分は悩める女性に手を差しのべるのだと、出海医師は熱く語った。
私はおそらく彼に洗脳されているのだと思う。なぜなら私にはその自覚症状があるからだ。
体の関係を求められても拒めないように、例のアプリケーションで洗脳したに違いない。その証拠ならもう私の体の反応に出ている。
女が女であることを自覚する瞬間は、男に抱かれて愛をささやかれている時に他ならない。私はいま、女以上に女になっていた。
カップをずらされたそこに乳房も乳首も目立ち、ショーツのデリケートな生地を指ごと膣に押し込まれる。

「あんだっ……だめ、はあ……」

指はさらに奥へ通され、不潔な快感が下腹でくすぶっていた。

「奈保子さん……、とても素敵だ……。あなたのような女性はほかにはいない……」

出海医師がささやく。その口が私の乳頭をかじり、舌は粘着して転がる。
彼は私のことを全裸に脱がせて、肌の上から下までを丁寧に舐める。全身をクンニリングスされているような、鳥肌の立つ行為だった。

「そんなに可愛らしい声で喘がれると……、はあ……はあ……、意地悪してあげたくなりますよ……」

そう言って彼もとうとう全裸になると、信じられないものがそこに存在していた。
彼は40歳を越えているはずだった。いや、50歳にも達しそうな面構えだ。
それなのに、服の上からではわからなかった若々しい肉体と、その年齢に比例しないペニスが彼をより凛々しく見せていた。
二人してベッドから下りると、これを口にくわえろと言わんばかりに彼は腰を突き出し、私はその前にひざまづいた。
そして──、口に運んだ。
フェラチオからつたわってくるのは、彼の体温と異臭と体液の味。よだれが顎から首すじをくびれながら伝う。
陰嚢まで茂った恥毛を見つめ、男を満足させる行為をつづける私。

「素人とは思えない良い仕事ができるじゃないですか。うっ……、うっ……。あなたはこれを使いなさい。」

性欲の衰えを感じさせない医師は、私に道具を手渡してきた。それは長くて太いバイブレーターだった。

「アプリでの遠隔操作が可能なタイプです。さあ、遠慮はいらない」

彼に促されるまま私は軽く頷いて、とっくにできあがっていた女性器に目掛け、あてがった。

「あん……、ああ……うん……」

バイブレーターの先端を感じるのと同時に、甘い刺激が脳内で分泌された。さらさらした愛液のあとから、ぬるぬるした愛液が溢れ、私はその異物を膣に挿入していった。
がくん、と腰が落ちて、直後には体を裂かれるような悦楽に犯された。

「奈保子さんはそうやって、いつもひとりでしているんですね?」

「いいえっ、あっあっ……、ちっがいます」

「セックスも好きだけど、オナニーも好きなわけだ?」

「知りっません……、うっふっ……」

「私の理想に適った女性が自らの意思でオナニーをしてくれている。私は産婦人科の医師をやっていて本当に良かった」

そこまで言ってから彼は、脱ぎ捨てた白衣のポケットからスマートフォンのような端末を取り出し、ひらめいた顔で画面を操作した。
私の中でなにかが起こった。じゅわっと唾液が染み出し、脇の下に熱い汗を感じ、涙腺から感情が滲む。
そして子宮から膣に向かう生理現象の流れは、オーガズム以外の何ものでもないのだと実感した。
バイブレーター本体の振動や回転だけではない、それ以外の何かが作用しているのかも知れない。

私の体は絶頂した。力なくへたり込む私の中で、バイブレーターは尚も乱暴な能力を見せている。

「一度イったぐらいで満足する体ではないでしょう?」

「はい……、先生……」

出海森仁は両腕で包容しながら私を立ち上がらせると、膣からバイブレーターが抜け落ちないように手で支え、そのまま窓際まで連れて行かれた。

「この病院からの眺めは最高ですよ」

彼の肉声が私の耳元で聞こえ、次にはカーテンが全開にされていた。

つづき「春眠の花[20]」へ


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