この話はつづきです。はじめから読まれる方は「春眠の花[1]」へ
もう何もする気にならなくなった私は、誰を見るでもない方向音痴な視線をあてもなくめぐらせていた。
おや、と思った。私を取り囲むスタッフのひとり、いや、彼女はインターンの大学生だろうか。その子と目が合った途端に、私の頭におかしな映像が割り込んでくるようなひらめきがあった。
理由はわからない。以前どこかで会ったことがある気はするが、マスクをされていては曖昧な記憶しか浮かんでこない。
唯一露出しているあの目がまた特徴的だ。思いやりがあって、知的で、嘘のない目。
育ちの良さがわかる姿勢をあたりまえに保って、あたりまえに私を観察しながらメモを取る。
「……くしゅっ」
彼女は可愛らしいくしゃみをした。そしてポケットからティシューを取り出すとマスクに指をかけ、ゆっくり外した。
あ、と言ってから私は思い出した。そこに居た彼女は、電車内で痴漢されているところを私が助けてあげた、女子高生の愛紗美ちゃんだった。
でもどうして彼女がこんなところに──。
看護師を目指しているとしても、高校生が出入りできるような現場ではないと思っていたし、それともこれが普通で、ただ私が知らないだけなのだろうか。
「愛紗美ちゃん」
「……」
私の呼びかけに彼女は無反応で、まるめたティシューをゴミ箱に捨てた。
「奈保子さん」
出海医師が私の名前を呼んだ。私は彼に顔を向ける。
「いかがでしたか、子宮を突かれた気分は?」
「え……っと、あの……それは……」
「これは問診なので、正直に言っていただきたいのです」
「はい……、とても……良かったです」
「陰核や膣へのストレスはどうでしょう?」
「あ……あの……、なんだか変になったというか、その、すごすぎて変になったという意味ですけど」
「自分でするよりも感じましたか?」
「いえ、私は自分でそういうことはしないので……、あんまり──」
「嘘はいけません。あなたの膣内検査で何が出たと思いますか?」
私は黙ってしらを切る。
「生理用品の繊維のほかに、シリコン片や植物の細胞なんかも残留していましたけど、心当たりはあるはずですよ」
「……そんな」
「あなたが大人の玩具や野菜などの異物に頼っていた証拠なのです」
私だけの秘密、女性として知られたくない秘密が彼の口から告げられた。確かにひとりエッチに依存していた時期もあったけれど、もう数年も前のことだ。
「私、ほんとうにしてません」
「そういうことにしておきましょうか」
そこに居合わせた男性という男性の目の色が変わったのがわかって、もうすぐにでもそこから逃げ出したい気持ちになった。
「今日のところはアプリは使わずに、実物の生殖器で治療をして終了とします」
彼の合図で男性スタッフの何人かが下半身を露出させ、それぞれにオリジナルの男性器を自慢げに勃起させていた。
痩せ型、メタボリック型、アスリート型、どれもこれも皮の剥けた先端からは透明な汁を垂らして、私の穴を犯そうと狙っている。
分娩台の高さを調節して、彼らの腰の位置と私の膣の位置を合わせていく。
「だめ……、いや……」
一人目の彼が私に被さってきた。照明の陰になった彼の顔が黒く迫ってきて、いいのか、いくぞ、とプレッシャーをかけてくる。
腰が重なる。亀頭は陰唇を貝割れさせながら、ミリ単位でゆっくりと私の中に入ってくる。
なめらかな鱗(うろこ)を持った爬虫類が巣穴に潜り込むように、ぬめった感触が膣のひだを通っていった。
「……っあ、……あふっ……ん」
たった一度の挿入で私の体はぴちぴちと活発に反応し、二度目には腰がくだけ、三度目にもなるとどこもかしこも気持ち良くて、この病院に来た本来の目的を見失ってよがり続けてしまった。
彼の腰の振り幅もだんだん大きくなってきて、ばくん、ばくん、と性器を打つ肉体が悲鳴をあげる。
泣き顔の私、射し込まれる男根、噴射する分泌液、彼の遠吠え。
「あんあっ、ゆっ、許してっ、いっんっ、あんだっ、めっ、あっ、だめっ、はんあっ」
それは私の意図しない受け身の姿勢だった。両脇をぎゅっと締めた腕をそのまま乳房に寄せて谷間をつくり、女の生理を錯乱させる一突き一突きに堪える。
けれど彼も私も限界が近かった。彼は、私の体が最高だと言い、私も絶頂をほのめかす言葉を漏らした。
そして彼は私の膣に射精し、私は受精した。液体の生き物が私の胎内に寄生していくようで、とてもいやらしい気分だった。
でもこれは終わりではなく、始まりだったのだ。
二人目の彼が私の両脚を高く抱き上げ、毛深い股間から突き出たペニスで私の下半身に穴をあけた。
「いやんっ、やっあっ、はっあっあん、あっいっ、いっくっ、いっくっ、うっ」
私はイった、思いきり。
溜まっていたストレスも解消されてる……はずだった。でも彼はまだ私をあきらめてくれない。
絶頂を終えた私の穴を休ませることなく、私のことをスケベな女だと言いながら挿入を速めていく。
私は彼のテクニックにまんまとはまり、ふたたび意識を絶頂までとばされてしまった。
たっぷりと注がれたザーメンがそこから漏れ出して、白いラインストーンのように床に滴る。
それでも私の体は休息のひまらない。代わる代わるセックスの相手をさせられ、射精の受け皿になり、何度でもイく。
おかげでクリトリスもラビアもヴァギナも、わるい癖がついてしまった。
さんざんいじくりまわされた神経が過剰反応を起こし、かるくタッチするだけで腰が引きつり、イってしまう。
「小村さんの体質も改善されてきたようですね。少しずつ安産型の体にしていきますから、明日からもよろしくお願いしますね」
椅子に腰かけて見物していた出海医師が立ち上がりざまに言い、そのまま私の性器にキスをしてきた。
「へぁっ……、あっ……ふ」
いきなりのクンニリングスに、私は膣をゆるめて愛液を吹いてしまった。
彼がその体液を飲み込むとまた新しい体液が分泌される。
私はずっとオーガズムを感じたまま、彼の舌づかいに愛情が秘められているのではないかと勘違いするのだった。
つづき「春眠の花[13]」へ
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