この話はつづきです。はじめから読まれる方は「春眠の花[1]」へ
ある者は小型カメラで撮影し、ある者はデジタルカメラに画像をおさめる。
「嘘……、嘘よ……」
のぼせた顔でそう呟くと、いよいよレイプの匂いがしてきた。温感ゼリーでの愛撫が太ももに迫ってきていたのだ。
何を挿入されても大丈夫なように、膣はすでにできあがっている。
ぞくぞくして、はらはらして、まるで推理小説の最終章が近づいているみたいだ。
分娩の体勢にされたOLがスーツをはだけさせ、乳房への愛撫を受け入れ、ついには局部を汚されてしまう結末。
「あああっ」
指がクリトリスにヒットした。いちど開いた口はなかなか塞がらず、愛撫のたびに胃から込み上げるような嬌声が鼻の穴をふくらませる。
「ひっ」
下から上、上から下にいじくられるクリトリス。
「あっ」
陰唇の皮膚を外側に剥いて、膣口を何度もすくい上げる。
「はっあぁ、いやぁ」
どこまでもねちっこく、女性器を知り尽くした10本の指が私を快楽に連れて行こうとしていた。
上半身を担当する愛撫も乳房と乳首への手を休めることはない。
「小村さんの体、とても綺麗ですよ」
佐倉麻衣さんの声だ。その方向に顔を向けると、マスクを外した佐倉さんは切ない表情で微笑した。
肌は白く透き通り、顔も小柄で、目、鼻、口のバランスも文句のつけようがないほど整って見える。
彼女が私の顔を覗き込む。そして次の瞬間には何が起きたのかも理解できず、彼女の顔が衝突しそうな距離にまで接近していた。いや、すでに衝突していた。
ふたつの唇が重なり合う感触。彼女は私にキスをしたのだった。
感情がこもった、それこそ恋人同士がするキスの肌触り。
拒否しなければと頭ではわかっていても、彼女の持った雰囲気がそれをさせてくれない。
密着する唇と唇、互いの息を交換する女と女、愛し合う二人。
彼女が私を求め、私が彼女を求める。発情した動物から出る体臭をむさぼるように、本能に逆らわずに行為をつづけた。
「……!?」
それはあまりにも突然すぎた。男性スタッフが私の乳房に食いつき、じっとこちらを見ながら乳頭を舌でころがしはじめたのだ。
とっさに背筋にちからが入って、私は大きく仰け反った。
佐倉さんとのキスの接点が押し潰され、歯と歯がぶつかる。それでも口づけが止む気配はない。
左右の乳房はさんざん舐められているおかげで唾液にまみれ、乳首に関しては説明がいらないほど気持ち良くて、ぷっくりとした存在感をアピールしている。
「……!」
次は股間が大変なことになった。クンニリングスのヴァージンを奪われてしまった。
こんなに気持ちいいのは反則だ。私だって一応30年も女をやっているというのに、そんなふうに女性器を舐められたらもうその相手が誰であろうが理想の男性に見えてしまう。
舌先が中に入ってくる、だめ、そんな内側まで、いや、もっと下手だと思っていたのに、ほら、その舌づかい、やだもうイっちゃうってば。
キスの合間に漏れる音、乳房をしゃぶられる音、クンニリングスで愛液を吸い取られる音、私の体中からくちゅくちゅくちゅといやらしい音が出ている。
感情が高ぶって、目に涙が浮かんできた。絶頂の前はいつもこうだ。
そうして私は佐倉さんの唇に喘ぎ声を吹きかけたまま、愛おしい快感を膣いっぱいに受けて、分娩台の上でくたびれた。
痙攣する腹筋が子宮をたたく。膣と直腸が波打っているみたいに切ない。
「貴重なサンプルだ、慎重に採取するように」
出海医師の偉そうな指示が飛んだ。
私はまだ快感の余韻が冷めないでいる。すするような呼吸でまわりを窺うと、彼らの手にはスポイトと試験管が備わっていた。
ひとつは私の涙を、ひとつは私の唾液を、ひとつは私の汗を、そして膣から分泌された大量の体液を、そして──。
「小村さん、母乳が出てますよ、ほら」
佐倉さんの言うとおりの部分を確かめてみると、そこには乳白色の液体が滲み出していたのだった。これもまた例のアプリケーションの産物なのだろうか。
「僕がチェックしてみましょう」
そう言って出海医師は私に寄り添ってマスクをずらし、私の母乳を吸った。
この人、こんな顔をしていたんだ。こんなところで出会っていなければ、もっと別なタイミングでこの人と出会っていたら私は──。
曲がった性癖の持ち主だと思っていた彼の素顔に対して、私は好感を抱いていた。しかもこんな距離で体を抱かれ、母乳を舐められ、紳士的な手つきは私の股間をまさぐっている。
「少し中を調べますよ」
彼の太い指が私の体内に進んでくる。
「あっ、あうぅふぅん、ううっ……」
関節が曲がって、指先がとどいて、粘膜をやさしく触診していく。
「中の状態は正常ですね。感度もいいし、愛液の分泌量もじゅうぶんありますよ」
丁寧な口調と、丁寧な愛撫。それだけで気が遠くなりそうになった。
「出産の時はほんとうに大変ですから、今のうちから性器をほぐしておきましょうか」
そして彼の指が2本になり、3本になり、私の膣の中と外を行ったり来たりする。
「あいぃ……、きもち……いいです……せんせい……」
「もっと欲しいですか?」
「ああ……、もっと……して……ください……」
「入れますよ」
「あっ、あそこ……に……入れてください……いっ……」
私の変化に気づいた彼は穴の大きさを目視で確認し、そこへ向かって4本目の指を挿入させてきた。
「あっ!」
はちきれんばかりに広がる膣。彼の親指以外のひとつひとつが別の動きで私を翻弄し、手首をぐるりと返せば手刀は水平に、逆に戻せば垂直に、女性器のかたちを簡単に変えてしまう。
これももちろん治療としての行為なのだから、私は喜んで受け入れた。
彼はいちど私の膣から手刀を引き抜いて、「自分でご覧になってみて、いかがですか?」とそれを私の顔に近づけた。
彼の手はどろどろだった。たっぷりのローションに手を浸したのかと思うほど、糸を引いた指のあいだも手のひらも、私のせいで紅くふやけていた。
「恥ずかしい……です」
私は口を半開きにさせてそう言った。
「じゃあ、もう少し拡張を進めましょう」
またしても彼の指は私の貞操をもごもごと破って、「いきますよ」と5本目の指を割り込ませてきた。
「いんん……、んっ……ふぃん……」
それはもう指ではなく手が突っ込まれた状況と言える、なんとも汚らしくて感動的な光景だった。
尿道から勢いよくおしっこが漏れ、膀胱が空っぽになると膣の奥からも粘液と酸っぱい汁が飛び散って匂いを出す。
さすがに全部の指は無理だろう、子どもを産める体だからといっても限界はあるはずだと、私は彼を受け入れながらそう思った。
それなのに……、それなのに……。
「小村奈保子さん、すごいことになってますよ、ほら、あなたのここ、僕の手が半分くらい入ってしまいました。わかりますか?」
はい、わかります、と私は下唇を噛んで眉間を寄せた。
妊婦でもないというのに下半身がどんどん窮屈になっていく感じが、私の子宮に近づいてくるのがわかった。
頭の中が真っ白というよりも、真っ赤になっているという感覚。体が熱くてたまらない。
そして彼の太い腕の筋肉がむくむくと盛り上がった瞬間、味わったことのない性的なストレスが下腹に襲いかかってきた。
「んぐぃ……い……、いっくっ……ふっ……」
成人男性の握り拳がいま、私の膣に詰め込まれた。
つづき「春眠の花[11]」へ
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