コンフェッション − 最終章_ハッピーライフ-官能小説(happylives-novel)

牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜 ——日野草城

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コンフェッション − 最終章

15-06-14 10:42

この話はつづきです。はじめから読まれる方は「コンフェッション 第1章」へ

最終章 - チェンジ・オブ・シーズンズ

眩しいほどの白い乳房に妖しく浮かび上がる、赤い蝋燭で描かれたアルファベットのMの文字が鮮やかなコントラストを見せている。

大きな鏡の前に立つかおりの背後に立ち、包み込むように両腕を伸ばして鏡の中のもうひとりのかおりを見詰める。

俯き加減で恥ずかしそうに鏡の中の『Mの刻印』を見詰め、やがて指先で文字をなぞる。見詰められている視線を感じたのか、顔を少し上げ鏡の中で視線を交わすと柔らかく微笑みを投げ掛ける。

会う前からの約束を思い出していた。『一日だけM女になる夢を叶えるために恥辱調教を行う。約束の一日が終わったらお互いの連絡先は削除する』

その約束が重くのし掛かるほど、かおりは可愛いM女になっていた。郊外の私鉄駅まで送り届けられ、車のドアを開いた瞬間に準備期間のメール調教
から始めた一ヶ月とこの日の事が、過去の思い出に変わってしまう。

そして、その15分後に保育園で子どもを迎える時には、少し厳しくも深い愛情を持った母の顔に変貌していることだろう。

鏡の中で微笑むかおりを見ながら時間が止まることを願っていた。シャワーを浴び、身支度を終えるのに30分、郊外の駅までの15分、更に保育園までの10分を、時計の針を逆に回すと、ふたりには5分しか残されていない。

「これからの5分間、おまえの望みを何でも叶えてやる。遠慮せずに何でも言ってくれ」

「グレッグ様に腕枕をされながら。。。頭を撫でてくださいませんか?」

「えっ、そんなことでいいのか?」

にこりと微笑むかおりを、いきなり抱き上げる。いわゆるお姫様抱っこというスタイルのままベッドに横たえる。

重なるように覆い被さり、激しく唇を貪り合う。残り4分。。。。ベッドに組み込まれたデジタル時計は4:56PMと表示されている。

腕を伸ばし、かおりの頭を乗せると左手で包み込むようにショートボブの髪の毛を撫でる。

4:57PMに表示が切り替わったころにスピーカーから特徴のあるイントロが流れ出した。

『To the left, to the left…….Everything you own in a box to the left…..And keep talking that mess that’s fine….』

「3月に初めてドイツに行った時に、ドイツ語がわからないから、ずっとMTVを観てたんだ。この曲のPVが頻繁に流れてたから元気付けられてたんだ。

PVにも映るけど、ビヨンセのガールズバンドに日本人女性がキーボードで参加しているしな。。。。」

「はい、辻利恵さん凄いと思います」

「そうだな、ピアノのことをわかるから凄さの感じ方も違うんだろうな」

『You must not know ’bout me…..You must not know ’bout me…..I could have another you in a minute…..』

かおりが好きなビヨンセの『イリプレイサブル』のサビのメロディで盛り上がる時には、デジタル時計は4:59PMに変わる。

「さあ、シャワーを浴びよう。。。」

身体の向きを変え、キスを求めてきたかおりを強く抱き締めると、時計は5:00PMに変わる瞬間だった。

ふたりでシャワーを浴び身支度を終える。かおりは、花柄プリントのワンピースという女らしさにGジャンにトートバッグというボーイッシュの要素とアウトドアのテイストを加え着崩している。小柄でショートボブのスタイルに似合うと考え薦めたコーディネーションで、かおり自身も気に入って、最近は頻繁にそのスタイリングを採り入れているらしい。そして勤務する幼稚園の若い先生たちも、かおりの変貌に驚いているようだ。

「駅まで運転しようか?」

「お願いしてよろしいでしょうか?そして私の好きな音楽を掛けさせてくださいませ」

コンサートホールの歓声や拍手が聞こえ、ライブ音源であることに気付く。

「駅までの道は、寂しくならないように賑やかな曲でよろしいでしょうか?」

オーディオのスイッチを操作するとデスティニーズ・チャイルドの『サバイバー』のイントロが流れ出した。

「私の大好きなビヨンセのツアーです。彼女の曲でパワーを貰っているんです」

ビヨンセの話題をしながらも、再度オーディオのスイッチを操作すると拍手と完成に続き『シングル・レイディーズ』が始まる、かおりはまるでライブ会場にいるかのように手拍子を打ちながら身体を揺らし、時にはビヨンセの振りを真似する。

初めて見たテンションだが、考えてみれば幼稚園の先生だから時には園児と踊ることもあるのだろう。

隣を並走する車の後部座席子どもが
不思議そうに助手席のかおりを眺めていた。それにしても、かおりのテンションはいったいどうしてしまったのだろうと思える程だった。明るく振る舞っていながらも目に涙を浮かべているのに気付いたのは、ビヨンセの曲が終わった時だった。

『I always give 100% to entertain you all…..』

大歓声に包まれ会場でコンサートの終わりに発した、ビヨンセの挨拶の言葉が耳に残る。100%の力を出し切るという言葉。

「ビヨンセが100%なら、今日のおまえは120%だったな、かおり」

「……」

無言で頷いたかおりの目からは一筋の涙が零れ落ちた。駅までは15分と言われていたが、実際には10分で到着した。。。。そんなにスピードは出していなかったのだが。

子どもを迎えに行く保育園までは10分と聞いていた。駅に5時45分に着けば十分すぎるほどの時間であると。

ダッシュボードのデジタル時計は17:41に変わったばかりだ。

「少し早く着いたな。かおり、おまえの好きな曲を聴かせてくれないか?」

「……」

無言で頷いたかおりの選曲は『ヘイロー』だった。ツアーの2曲目に演奏されたイントロのピアノの音色が美しいバラードだった。

『…..Standing in the light of your Halo…..I got my angel now…..You’re everything I need and more……』

「そろそろ時間だ。今日は可愛いM女になってくれて嬉しかったよ。本当に120%だった」

「……」

声を出すことも出来ずに何度も頷くかおりは、最後のキスを求めてきた。

車を降りるとハンカチで涙を拭うかおりの姿には、少し傾いた太陽の光が作る『ヘイロー(光の輪)』が重なって見えた気がした。

郊外の駅で電車の到着を待つ間にネットでこの曲の歌詞を調べてみた。ピアノだけではなく英語も得意なかおりは、直接のお礼を言う代わりに、この曲を選んでくれたのだと理解した。

そして季節の変わりを繰り返すと、一年が経ち同じ季節が到来した。それは、かおりとかおりが行った行為に興味を抱く女が運んで来た季節なのかもしれない。

「コンフェッション」完


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