妻の訴え_ハッピーライフ-官能小説(happylives-novel)

牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜 ——日野草城

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妻の訴え

15-06-14 10:45

…昨日もアイコに断られた。
ベッドの中で、背後からまわした手を容赦なく無言で押しのけられた。
強い拒否の意志がしっかりとあらわれた背中に、マサルはいつものようにおずおずと自分の枕へと頭を戻す。

…アイコのやつめ!
妻にセックスを拒まれるたびに、怒りや屈辱のような感情が湧き上がってきて、憎らしい気持ちでいっぱいになる。
だが、マサルは浮気をする度胸も金もなく、毎夜まるで試すように妻の身体に手を伸ばすのだ。
以前は何回か断られたあと、さすがのアイコもマサルに同情するのか、身体をあわせてくれる事もあった。
だが最近はまるで汚れたものにでも触られるように、その行為を嫌がった。

…なんだよ、アイコのやつ!
天気の良い初夏、午前中の営業回りを終えたマサルは、胸の中で舌打ちした。
昨夜のアイコを思い出し、イライラした気持ちのままマサルはファミレスのドアを押し、中に入った。
冷房が心地よく効いて、ざわついていた心が少し軽くなった気がした。
店内は数人で群がる主婦らしい女でにぎわっている。
…こいつらの旦那も今頃はショボイ弁当でも食ってるんだろうな…
喫煙席を選んだマサルは、疲れた身体を案内されたシートに滑り込ませた。
フェイクの植物に遮られた後ろの席にも、主婦らしいグループが座っていた。
注文をすませたマサルの耳に、その主婦たちの会話が聞こえてきた。
「…でね、指も口もなぁんにもなし!」
「うそ!!いきなりってこと?」
「そうよ!胸だけ見えたらそれでいいって感じで脱がしてもくれないんだから…っ!」
さすがに話の内容がきわどいことに気づいたのか、その声がちいさくなる。
…昼間からなんて話してんだよ!
内心あきれかえったマサルだったが、興味を覚えたのも確かだ。
女の、こんなリアルな会話は今まで聞いたことない。
「こっちのことなんて考えもしないで、突っ込んでくるんだから…!」
「それで早いとサイアクね」
「ほんとよ~」
相槌をうつ主婦の声に、笑いが含まれている。
「うちなんて会社の若い子と絶対浮気してるよー!くやしいっ…」
「まじで?!」
浮気話が出たところで、マサルの注文したランチが運ばれてきた。
もっと続きを聞きたいと思い、マサルは食事を口に運びながら意識を後ろの席にむけた。
しかし、一人の主婦が
「あ!おむかえの時間っ!」
そう言ったのを皮切りに、一緒に座っていた数名の主婦たちもみな、バタバタとあっという間にレジへと消えていった。

残業後、帰りの電車の中でマサルは昼間の主婦達の会話を思い出していた。
…指も口もなぁんいもなし!
正直マサルはドキっとしたのだ。
…脱がしてもくれないんだからっ!
まるで、自分のことを言われているような気がした。
アイコとのセックスを思い返しても、二人で最後に全裸になったのがいつだったか思い出せない。
いつもアイコの身体を組み敷いて、柔らかな胸が見える程度パジャマをまくりあげる。
そして下着ごと下半身を一気に脱がせて、すでに濡れているそこにモノを押し込んでいた。
…アイコだっておれのモノに触ろうともしないじゃないか…
お互い愛撫らしい愛撫もなしに、短い時間の出し入れのみのセックス。
それでもアイコのそこはいつだって濡れていたし、最中には声も上げる。
…アイコも感じてるはずだ…!
マサルはまるで昼間の会話の主婦たちに攻められていたかのような気分になり、思いつく限りの言い訳を頭の中で繰り返した。
しかし、どんなに考えても、昼間の会話が頭から離れることはなかった。

その後の数日間、マサルはアイコに手を伸ばすことはしなかった。
頭の中で繰り返し、自分はどうだったか?と反省にも似た気持ちで、これまでの自分を振り返っていた。
そしてある休日の前の晩、相変わらずこちらに背を向けて横たわるアイコの後姿をじっとみつめていた。
…首が弱いんだよな、アイコは…
パジャマから、ほっそりとした首が伸びて枕にその頭をあずけている。
昔、付き合い始めたころは、アイコの身体をむさぼるように毎晩マサルは求めた。
体中あらゆるところに舌を這わしては、アイコの敏感な部分を見つけ、攻め続けた。
しかし、足の指まで口に含んだのは結婚するまでのことのようだった気がする。
一緒に暮らし始めた頃からは、だんだんと愛撫することも減って、ただ自分のモノを受け止めてくれる身体というだけの存在の扱いだったのだ。
アイコを喜ばせようとなど、考えることもなくなっていた。
…マサルさん、ほしい…っ!
昔、そう熱い目で訴えたアイコが、急に懐かしく思い出された。
「アイコ、」
マサルは声をかけたが、返事はない。しかし起きていることはわかっていた。

つづき「妻の訴え 2」へ


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