この話はつづきです。はじめから読まれる方は「[1]」へ
ナオトはシャツを脱ぎ捨て、ベッドに腰掛け帯をとくサトコの姿を見つめていた。
はじめて強くサトコに手を止められたことに腹を立てたナオトだったが、少し冷静になってみると多少の罪悪感を覚えている自分に気がついた。そしてその理由もわかっていた。
ナオトは今日一日ずっと、大学生だった頃に付き合っていた一つ年下の女のことを思い出していたからだ。
その女は夏祭りに浴衣を着てきいた。
そのデートの帰りにはもちろんナオトは女をアパートに誘い、その夜は今思い出してもカラダが熱くなるほど二人激しく求め合った。
割れた浴衣の裾から伸びた白い足に、腿に、ナオトはむしゃぶりついた。
はだけた胸元からこぼれた胸に、ピンクの乳首が誘うようにのぞいていた…。
激しく求め合っているうちにいつの間にか浴衣は脱ぎ捨てられ、そのまま朝まで二人でセックスにのめりこんだのだ。
今ではもう、女の顔も名前も思い出せないが、あの夜の情事は今でもはっきりとナオトの頭にやきついている。
今朝、車に乗り込むときに見えたサトコの膝頭で、ナオトはその時のことをずっと思い返していたのだ。息子の入学式中も、隣にサトコがいる間も…。
サトコの着替えを待つ余裕もなく抱きついたのも、あの時のことを思い出してカラダが熱くなっていたからだ。
あの時のように二人ベッドに乱れたまま倒れこみ、激しく求め合うはずだと思い込んでいたのだ。それを止められた。サトコに。
そう、サトコはあの時のオンナではない。
少し考えている間にナオトの気持ちも落ち着いて冷静に考える余裕ができた。
それにさっきサトコの胸元に手を差し入れたとき、ナオトは正直その帯が締めつけているキツさに少し驚いていた。
…苦しくないのか?
思わずそう聞いてしまいそうなほど、サトコは胃の辺りを帯で締め付けていた。着物とはそういうものなのだろうか?
今、帯をとき、着物を脱いでいるサトコを見つめていても、帯のほかにも色々な紐が次から次へとほどかれている。脱ぐと言うよりまるで作業だ。
…これは…浴衣のときとは全く違うな。
自分の期待がかなりの勘違いだったようで、ナオトは苦笑した。
テレビやいやらしいDVDで見た、和装のセックスを勝手に再現できそうにない現実を理解したナオトは、あらためてサトコを見つめた。
襦袢を脱ぎ、その下につけていた上半身の白い肌着を脱いだサトコはブラをつけていなかった。
形のいい胸が鏡に映し出される。
腰にはまだ白い裾よけが巻かれていたが、ほぼ裸に近かった。白いタビを履いたままの足首が妙になまめかしい…。
「サトコ、」
ナオトが声をかけると、サトコはほっとしたように顔をあげた。
普段は優しいナオトが怒っているのではないかと、内心ビクビクし、着物は脱いだもののこれからなんと声をかければいいのか分からなかったのである。
「ナオトさん…。」
胸を片腕で隠しながら、サトコはナオトの隣に腰掛けた。
「…怒っているの?」
顔をのぞきこんで問いかけるサトコの目が、少し涙ぐんでいるようにも見える。
「…。」
内心は怒りなどとっくにおさまって、普段のサトコを心から愛する夫に戻っていたのだが、その時なぜかナオトは自分の中に意地の悪い気持ちがわきあがってくるのを抑えられなかった。
「…すこしね。」
思ってもないことを口にした。
「…本当に…ごめんなさいね…」
謝りながら、サトコはナオトの膝にそっと手をおいた。
「ごめんなさい…」
もう一度謝ったサトコを、さらにナオトは追い詰めたくなる。
…もういいよ、サトコ。
「悪いと思ってる?」
「思ってるわ、でも着物って慣れないからつい、…すぐに脱いでしまいたかったの。」
…苦しかったのか?
「サトコに嫌がれたのかと思ったけど?」
意地悪い口調のナオトに、驚いたようにサトコが言葉を続けた。
「そんな…っ!ナオトさんを嫌がるなんて、私そんなことないわ!」
サトコの目にみるみる涙がたまった。
さすがに言い過ぎたかと思ったナオトが、サトコをなだめようとした時。ナオトの目にやわらかそうな1本の紐が目にとまった。さっきサトコが着けていた帯の中の一つだ。
考えたこともなかった事が突然頭の中に浮かび上がった。
ナオトは身をかがめてそれを拾い上げると、サトコの耳元でこうささやいた。
「…悪い子は…こうしないとね…」
つづく「[3]」へ
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