妻のユキが最近求めてこないな…と夫ケンジはふと思った。
付き合った頃から夜の生活を最初に求めてくるのはユキのほうだった。
最中には頼まなくてもかならずフェラチオをしてくれ、その後体位をいろいろ試したがるのもユキだ。
どちらかというと淡白なケンジにはだんだん夜のセックスが義務のような気がして、
そのうちに誘いを断ることのほうが増えてきた。
結婚して5年後には二人目の子供がうまれ、ユキの身体のラインもややふっくらとしケンジの好みとは少し変わってきたのもあって
その頃にはほとんどの誘いを断っていた。
それでもまったくセックスがなかったわけでもなく、年に1、2回のセックスのたにびケンジは前にも増して敏感に反応するユキに
ヤル気を失っていくのだった。
ユキは当然腹をたてていた。
夜ごと夫に断られる、あの怒り、失望感。
その度に浮気してやろうと何度も心に誓ったが、根は素直で純粋なユキにはその一線は越えられなかった。
そして夫の気が向いたときだけ迎えられる喜びをささえになんとか今までやってきていたが、ある時ユキは決心した。
…もう絶対私からは誘わない!
ユキの精一杯の反乱だったが、ケンジがそれに気づくのに半年もかかったのだった。
ある休日、ケンジはクローゼットに隠していたDVDの場所が微妙にかわっていることに気がついたのだ。
当然いやらしい内容のものなのだが、数枚しか持っていなかったのですぐわかった。
…ユキが掃除でもしたのかな?
普段どおり家事をこなすユキを見ながらはじめはそう考えていたケンジだったが、たまたま読んでいた雑誌のすみに
‘知られざる昼間の妻の実態!不倫!オナニー!’
そんな記事が目に飛び込んできた。
…もしかして、ユキも?!
一瞬、頭の中に他の男と一緒にいるユキの姿が浮かんだが、
…いや、それはないだろう。
と根拠のない自信だったが、ケンジは確信した。
…ユキがおれのDVDを見てるかもしれない。そしてオナニーしているかもしれない。
その時はじめて、ケンジは最近ユキからの誘いがなくなっていることに気がついたのだった。
その夜、子供たちが眠ったあとでケンジは風呂上りにパソコンをしているユキをベッドからじっくりながめていた。
ショートカットだった髪がいつの間にか肩の下にまで伸びロングになっている。
普段は後ろにひとつにまとめているので気づかなかった。
パジャマを着ているが、ブラはつけていないのがわかる。ユキは昔からおっぱいが大きいほうで窮屈だと言い結婚した時から寝るときにブラをつけない。
ユキは昼間は変わらない母親としてのユキだったが、最近は夜になると会話が減っておやすみのあいさつがないこともあった。
「なあ。」
ユキの横顔にケンジが声をかけた。
「なあに?」
顔を画面にむけたまま、ユキが返事をした。
「そろそろ寝ようか。」
「そうね…」
ユキは返事はしたものの、しばらくキーボードを打ち続けた。
でも指がうまく動かないほど実はドキドキしていた。
いつものケンジなら明かりがついていようとテレビがついていようと、ユキが気がつけばいつもケンジはすでに眠っているのである。
ケンジが寝るときに声をかけてくるなんてはじめてのことだったのだ!
…今日は…あるのかも…
すでに期待してしまってる自分に気がついて、ユキはそんな自分に腹を立てる。
…何度期待して裏切られたのよ!
ユキは自分に言い聞かせるように思い、パソコンの電源を落としてベッドに入った。
つづく「ある夫婦の生活 2」へ
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