ソリティア-第1章
「ソリティア」とは宝石の世界では、センターストーン一粒を真ん中に配したリングのことを言うらしい。
そしてトランプでは、フランス語の「ひとりで」という言葉を語源とする「ひとり遊び」がある。
この短編小説のタイトルとして「ソリティア」が思い浮かんだのは、都内の映画館で起きた出来事、いや起こした出来事が、その女性が宝石のセンターストーンのように映画館の中心にいたこと、そしてソリティアと呼べるようなリングを左手の薬指にはめていたこと。
そして何より、その女性のご主人が奥様のソリティア。。。。ひとり遊びを見ることを望んだからだ。
そのご夫妻とお目に掛かったのはご主人からメールがきっかけだった。
「掲示板の書き込みに興味を持ちました。本当に書き込みのようなことが出来るのでしょうか?可能なら私の願いを叶えていただきたいと思います」
最初に届いたメールでは差出人が男性なのか女性なのかの判断も出来なかった。
ただアドレスは明らかに男性のものと判断できる。
一瞬、ホモセクシャルではないかとの思いもよぎったが、丁寧な言葉遣いと書き込みに興味を持ったというコメントからから返信することにした。
「メールありがとうございます。書き込みに興味を持っていただいたとは嬉しいですね。ほんの少しの打ち合わせと、ほんの少しの勇気と好奇心があれば大抵のことは可能と思います。具体的な希望をおっしゃってください」
差出人が男性であっても女性であっても差し支えない内容でメールを返信した。
「叶えて欲しい願い」はおおよその想像がついた。
掲示板の書き込みはカップルと単独の女性に宛てたものであった。
カップルに宛てたメッセージは「都内の映画館で見ず知らずの男に身体中を触られて淫らになるパートナーの姿を見たくないか?」と問い掛けであり、単独女性には「痴漢に遇うように触られて感じたくないか?
あるいは自らの自慰行為を見られたくないか?」という内容だったからである。
成人映画館ではなく、この映画館を選んだのは上映作品が成人指定であっても銀座の一般的な映画館であることで、新橋や上野、池袋の成人映画館に入るよりはカップルも単独女性もハードルが低いと考えたからだ。
返信から1時間も経たない間に次のメールが送られてきた。
「返信ありがとうございます。私には寝とられ願望があるんですが、きっかけもないし、まだ自分自身の願望が本物かどうかもわからないんです。
妻が痴漢される姿を見たいと思う反面、激しく嫉妬すると思います。でも、その嫉妬も味わってみたい。中途半端で申し訳ありません、何かアイディアはありますか?」
なるほど、書き込みの「普段以上に淫らに変貌するパートナーの姿を見ながら嫉妬に狂いながらも自慰行為したい方は希望を叶える」というくだりに反応したことを直ぐに理解した。
「わかりました。少しアイディアをまとめる時間をください。1時間以内にメールを差し上げます。決して期待を裏切らない内容を提案します」
スマホのキーボード上をリズミカルに踊る指先が送信のエンターキーを叩く頃にはおおよそのイメージが出来上がっていた。
つづき「ソリティア − 第2章」へ
コメント