デリシャス・フィア──4_ハッピーライフ-官能小説(happylives-novel)

牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜 ——日野草城

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デリシャス・フィア──4

15-06-14 10:49

この話はつづきです。はじめから読まれる方は「デリシャス・フィア──1」へ

_夜が更けても街の明かりはうるさいほどギラギラして、昼間に溜め込んだ欲望をここぞとばかりに放出している。
_そんな景色もカーテンを閉めてしまえば静かなものだ。
_部屋干しの下着類から柔軟剤の香りが漂ってくるその部屋では、くびれのある人影がうごめいていた。
_水たまりをいじくるような音と、熱にうなされて乱れた息づかいがベッドの上で跳ねている。
_かるい脱水症状が喉を渇かしても、行為はおさまるどころかますます激しくうねっていく。
_彼女は思った。

私の体、蜜臭い。
私は輪姦されて、調教されて、もてあそばれてみたい。
女の性欲の醜さも知っているから、密かに濡らして慰めることしかできない。
レイプされたあの子が羨ましい。

「ああ……ああ……」と喘ぎ声を高めて崩れ落ちたかと思えば、バイブレーターに膣をねじられてふたたび体が浮き上がる。
_粘膜の深いところにまで媚薬が効いていて、彼女は現実と妄想の境を見失っていた。
_湯上がりの長い髪が背中を撫でまわすたびに、女物のシャンプーの香りが匂ってくる。
_そういう何気ないところにも官能のエッセンスを紛れさせておくのが、彼女の好きなオーガズムの味わい方だ。

イク……、イク……、イったばかりなのにまた……。
あの子にしたみたいに、はやく私を捕まえて、レイプしてください。

_小田は、今回のレイプ事件になにか特別な要素が隠れているような気がしてならなかった。
_そうやってまた検索サイト「ディープ」の世話になろうとしていた矢先に、徳寺麻美を強姦した男が逮捕された。
_25歳でフリーターのその男は犯行を否認しているのだが、徳寺麻美の体内や現場周辺に付着していた体液から男のDNAが出たのだ。

「どうした?女にフラれたような顔してるぜ?」

_学食で揚げ油の匂いを吸いながら息をつく小田の対面で、黒城和哉が肘をついて小田の顔を覗きこんでいる。

「女にフラれるほうがまだマシだ。なんかさ、犯人が別にいるような気がするんだけどさ」

「共犯?」

「集団暴行だとしたらトイレは狭すぎるし、どこか別の場所で襲ったあとにトイレに連れ込んだとか」

「なんでわざわざ人目につきやすいトイレなんかに連れ込むかね。そりゃ考えすぎだ、否認してるみたいだけど証拠は出てるんだし、あとはおまえの個人的な趣味で推理ゲームでもすればいいさ」

「悪趣味だと思うか?」

「わかりやすくていいよ」

_二人は鼻だけで笑って、ようやく目の前のご馳走に箸をつけようとした。

「また二人でなにか企んでるの?」

_小田と黒城のいるテーブルに二人の女子が絡んできた。
_それに黒城が返す。

「優子、学園祭の準備のほうはどうだ?」

「それどころじゃないわよ、ラクロスの試合までのスケジュールだって詰まってるし、平家先生の例の研究会のこともあるのよね。いろいろ縛られすぎちゃって、これじゃあSM行為だわ」

「そうは言っても、あの教授のゼミに惚れたとか、教授に惚れたなんて話はよく聞くし、まあ俺は性格曲がってるから興味ないけどさ」

_そんな会話が飛び交いつつ四人ともがテーブルを囲んで座ろうとした時、「しっ」と花織が唇のまえに人差し指を立てて、みんなに目を配った。
_昼食を終えてこちらに歩いて来る教授連中のなかに、平家洋(へいけひろし)の姿もあった。
_いかにも神経質そうな青白い顔色に、毛筆的な口髭と顎髭をチョンチョンと生やした無精面、それでいて二枚目ときているから女子学生からのウケもいい。
_黒縁メガネの奥の鋭い目つきが花織を捉えると、やや大袈裟に紳士を気取った姿勢でこちらに近づいてくる。

「おや?きみらはいつも一緒にいるようだが、今やっておくべきことを忘れていないだろうね?岬くん」

「はい、次回の研究発表までには良い報告ができるようにしておきます」

_花織は座ったまま上目遣いで言った。

「行き詰まったときには遠慮なく僕に聞いてかまわないからね。それから霧嶋くんのチームは、あの線で進めていけば、海外チームとのディスカッションにも参加させてあげられる」

_平家洋は後ろ手を組み直し、優子の目をキリッと見つめる。

「あれは平家先生の助言のおかげですから、私はほとんど補佐役みたいなものです」

_優子は長い髪を何度も耳にかき上げながら、友好的な笑みをつくった。
_男子二人は平家には目も合わせようとはせず、花織と優子の内心を読むようにそのやりとりを見物していた。
_花織の方は平家に対して何かしらの思いを抱いているし、優子には平家の存在が煙たいふうにしか見えない。
_異性を見る目にはどうやら二通りの色があるようだ。

「残りの日数をただ浪費するだけなのか、それとも有意義に過ごすのか、歴史に名を残した偉人たちの生き様を見つめなおしてみるのも一つの『道』だと言っておこう」

_それじゃあ、と平家は関節の太い手を振り上げて、爽やかな香水の匂いを置き土産にして去って行った。

「せっかくのランチに、イヤミな匂いを盛られちゃったわ」

_そう言って優子が口を尖らせているそばで、花織は紅潮した頬をもてあましている。

「そういえば確か──」と小田の眉がピクリとつり上がった。

「行方不明になっている植原咲も、レイプされた徳寺麻美も、二人とも平家先生の研究チームに籍が入っていたよな?」

「そうなの?」

「ああ、夕べ調べたから間違いない」

「私も優子も他の班のことはあまりわからないから気付かなかった。それじゃあ平家先生と今回の事件がどこかで繋がってるかも知れないって言いたいの?」

「あの色男教授なら関係していても不思議はないぜ。ひょっとしたら植原咲の行方を知っていたりするかもな」

「だとしたら今頃はどこかに監禁されていて、バイブとかローターで好きなように遊ばれているのかしら」

「ちょっと優子、ほかの子に聞こえたらどうするの」

「だって、ミスキャンパスに選ばれるくらいの可愛い女子大生がいなくなったんだから、誰だってそう思うわよね?黒城くん」

「俺かよ。まあ何だ、花織や優子は対象外だとして、彼女がそういうことになっている可能性はあるだろうな」

「どうして私たちが圏外なのよ。頼まれたってエッチしてあげないんだから」

_黒城と優子が唾を飛ばし合っている横で、小田は花織の目を見つめたまま「例の『魔女狩り』ってのもあの教授と繋がってたりしたら、今度は花織たちが危なくなってくる」と瞬きもせずに言う。

「小田くんが思ってるよりも事態は単純かもよ?優子もずっとこの調子だろうし、現代女子は潜在的に肉食系なんだから」

「頼もしいことだ」

_話が尽きない四人のあいだで、カフェテリア式のランチプレートからは空腹を刺激する匂いがのぼってきて、それぞれの胃袋事情に合わせたペースで食欲を満たしていった。


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