「夜の蟻」 その1_ハッピーライフ-官能小説(happylives-novel)

牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜 ——日野草城

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「夜の蟻」 その1

15-06-14 10:55

彼女とは、去年のクリスマスイブに初めて会った。

僕はせっかく現役合格した国立大学にどうしても行く気がおこらず、せっかく地元である九州の小さな島から横浜まで出てきたのに、気づけば1年半もだらだらと休学し続けていた。

アルバイトもせず、親の仕送りがあるので金には困らなかったけど、ただ毎日、ちいさな部屋の中で寝て起きて、ほんの少しだけ食べて、それだけを繰り返すことに疲れ、

もうそろそろ生きなくてもいいかなと思いはじめてもいた。

高校の時の友人がたまによこす電話で、女の子とのセックスがいかに気持ちよく素晴らしいかということを語っていたのを思い出し、

どうせ世の中とサヨナラするなら1度くらいそういうことを経験してからでもいいだろうと思いついたものの、当然僕にセックスをさせてくれる相手はいなかった。

ふと床を見下ろすと、開きっぱなしの雑誌のページの一番下、ケータイサイトの広告が目に付いた。

簡単なプロフィールを入力しておけば、女の子とメールのやり取りができるといったタイプのサイトで、最初の何回かは無料でできると書いてあった。

まあどうせサクラばかりだろうとは思ったものの、とりあえず登録を済ませ、何通か届いたメールの中から5人に電話番号を送った。

わけのわからないやりとりを続ける気力がなかったからだ。

直後、ケータイが鳴った。

もしもし、と僕が言い終わらないうちに相手が話し始めた。

「ねえ、いきなり電話番号いれるとかさ、あんまりよくないよー」

「ああ・・・うん」

相手はちょっと笑って続けた。

「今日のクリスマスイブを一緒に過ごす相手を探してる、とかそういうアレ?」

「まあ・・・そうかな」

さすがにセックスの相手を探しているとは言いにくかった。

「なるほど。ところでさ、クルマもってる?」

「いや、ないよ」

「あらら、じゃあいいや、あのねえ、いまから2時間以内に新宿の東口まで来れる?」

「え?たぶん・・・」

「よし、じゃあさ、ちょっと出ておいでよ。2時間だからね?それ以上は待たないから。近くまで来たら電話して」

相手は自分の電話番号を告げて、僕が何か言いかける前に電話を切った。


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