「はああっ、おうっ、おうっ、おうっ、はおおおおぅ~」
月明かりだけが頼りの薄暗い部屋の中、蠢く二つの裸体。まるで裏返しにされたヒトデが
元に戻ろうとくねらせるみたいに、ショ-トカットの金髪女のスレンダ-な体がよじり
波打つ。
一方の裸体は、蠢く軟体動物の股間に頭を沈めたまま殆ど微動だにしない。
ただ、欲しているのか逃れようとしているのか、自然と動いてしまう腰に合わせて、
その標的にどこまでもくっ付いて離れないだけ。二人がこの状態になってから、もう
長い時が経過している。永遠に続くのではないかと思われる責め苦に金髪の口から弱音が
吐かれる。
「もう・・・か、堪忍してェ。頭がバカになりそう。あっっっあ゙あ゙あ゙~」
許しを請いながら体をくねらせていた女の長い両手が、掴んでいたシ-ツから突然股間の
黒髪にのびた。そして鷲掴みにした黒髪を掻きむしるように乱した。最後の
クライマックスを告げるかのごとき。
「狂っっ・・・!」
奥歯をガタガタさせながら見る見るうちに紅潮していく顔は、この世の全ての快楽を
一身に受けたような至福の時が、彼女に流れていることを物語っていた。
「ほんまにこれでウチら終わりやの?」
最後の夜の長い長い濃密な時が終わり、そのまま二人はベッドで裸のまま
寄り添っていた。
「私だって辛いわ。でも仕方ないじゃない。朝が来れば私は東京に帰らなきゃいけない。
もう決めた事でしょ。これ以上私に言わせないで。辛くなるだけだから」
「そやかて・・・」
何も言えない金髪の女性は離れていく恋人の胸に顔を埋めた。くしゃくしゃになった顔を
見られたくなかったのだ。
「ア、アタシ、貴女に抱かれてからこんなにも弱なってしまった~。ほんまは~、
ほんまは、こんな情けない顔、見せとうなかったのに。わああああん」
自分の胸で泣きじゃくっている恋人の短い髪を撫でる女の顔は、どことなく
微笑んでいるかのように見えた。
坂口初音と一の瀬凛は東京の下着メ-カ-に勤めるOL。初音は営業部、凛は
商品開発部、部署は違うが入社5年目の仲の良い同期である。仲が良いと言うよりも
付き合って2年になるビアンカップルだった。女性下着メ-カ-ということもあり、
社員の7割は女性という特殊な環境の中、レズと噂される女性達も珍しくなかったが、
その殆どは単なる噂でしか過ぎなかった。初音と凛は正真正銘のカップルなのだが、
周りからは数ある噂の1つに過ぎないと思われていたので、割と気軽に社内恋愛を
楽しんでいた。この二人の出会いは仕事上での衝突からだった。営業部の初音が
商品開発部にブラジャ-の事で注文をつけたのだ。その時応対したのが凛だった。
始めから喧嘩腰の初音に対して凛も負けていなかった。営業の不甲斐なさを切々と訴え
一触即発の事態に周りが止めに入った程だった。二人の恋は最悪の関係から始まった。
「今でも不思議よねェ。最初あんなにいがみ合っていたのに、あん、今はこうして
初音ちゃんに愛されてるなんて。七不思議だわ。はあん、そのキス好き。
いっぱいしてェ~」
凛は昔を懐かしみながら、背中を這うキスの嵐に酔っていた。
「またその話?どうだっていいじゃない、そんな昔の事。そんな事考えながら私の愛撫を
受けようだなんて、えらく余裕じゃん。そんな失礼な子には徹底的に
啼いてもらうしかないね」
「イヤ~ン、エッチ。じゃあ、もう凛が他の事考えられなくなるくらい・・・啼かせて」
「何、それ?凛の方がよっぽどスケベじゃない。いいわよ、今夜は寝かせないから」
「キャ-」
凛が昔の事を思い出していたのには理由があった。今日で二人が付き合いだして丸2年が
経ったのである。初音は元々ビアンであったが、凛は初音と付き合うまでは女同士の
経験はなかった。経験どころか同性に恋心を抱くことすら初めての事だったのだ。
丸2年という記念日は二人にとって確かに通過点に過ぎないのだが、その分凛にとっては
感慨深いものであることは当然のことだった。2年前の今日、初めて同性の初音に
抱かれた時のことを今も鮮明に憶えている。抱き締められた時の胸のドキドキ。
女の子同士がノリでふざけ合ってするキスではなく、愛し合う女性のキスの柔らかさ。
そして、初音が与えてくれた女同士の快感。それはどんな言葉でも言い表せないくらい
素晴らしく自分を蕩けさせた。朝、太陽が本当に黄色く見える事をその時知った。
それら全て、今でも衝撃的に凛の脳裏には焼き付いている。
「凛、綺麗。ここも気持ちいい?」
初音は腰骨辺りに舌を這わせキスをしている。
「ああ~、うん、気持ちいい。初音ちゃんのキスなら何処だって感じちゃいそう。あん」
初音はたっぷり時間をかけて、大好物の凛の白い肌を探検する。可愛らしい顔立ちには
似付かない挑発的なボディはいつも欲情をそそられる。20代後半に入っても
垂れていない豊満なバスト、モデル並の細くくびれたウエスト、張り出したまん丸の
ヒップ。初音はいつも凛を抱く時思う。我が社の社員の中に、こんなにもうちの商品に
ピッタリのモデルがいるじゃない、と。男だったら間違いなくその透き通るような
白い肌にがっつきたくなるに違いない。だが初音はそんな風にがっついたりはしない。
楽器を調律するように、繊細にそして微妙なタッチで最高の音が出るよう、凛の体を
仕上げていく。
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