この話はつづきです。はじめから読まれる方は「タチとネコの関係」へ
「只今戻りました」
初音が約1週間の大阪出張から帰ってきた。
「初音ちゃん、お疲れ様。疲れたでしょ。はいお茶」
凛が笑顔でお茶を差し出す。
「ありがとう。ちょっとゆっくりする前に、部長にまず報告してくる」
部長室に入っていく初音の後姿を眺めながら凛はホッとした。いつもと変わらず
初音と話すことが出来たし、何より普段の自分を取り戻せたようで嬉しかった。
コン、コン、
「どうぞ」
「部長、只今大阪から戻ってきました」
「ご苦労様。それでどうだった?神崎社長とは上手く話が進んだ?」
「はい、仕事の方は特に問題もなく順調に。詳細はこちらの資料にまとめて
おきましたので後で確認しておいてください。ただ・・・あの社長、結構
一癖も二癖もありますね。ずっと振り回されっぱなしで」
「そうね、少し我が強いところもあるけど、上手く付き合えば、仕事は出来る
人だから。うちにとっても充分力になってくれるはず。大変だろうけど、
これからもよろしく」
「は~い。それより部長に会いたがってましたよ。昔よく一緒に仕事してたん
ですよね。最初会った時、田所部長がいないのを知って、すごくがっかり
してましたから」
「そう」
田所は一言そう言っただけで、静かに椅子から立ち上がり、ティーポットを取って
お気に入りのカップに紅茶を注いだ。
「あ、もう下がっていいわよ。報告書は目を通しておくから。留守中の詳細は
水野主任に聞くように。ご苦労様でした」
凛は終業時刻と同時に急いで待ち合わせ場所に向かった。今から初音とのデートだ。
すぐにでも抱きしめてキスしてほしいぐらいだったが、当然そんな事出来る
わけもなく、しかも初音は少し遅れてやってきた。
「ごめん、ごめん。残務処理がなかなか終わらなくてさ」
「遅い。早くどっかご飯食べに行こ」
初音の手を引っ張ってよく行くレストランに向かった。こうして手を繋ぐだけでも
嬉しかった。食事を終え、少しお酒を飲んだ後、二人はホテルへ入った。ホテルに
入るなり凛は早くも濡れていた。初音とSEXしたのはほんの1週間程前なのだが、
すごく久しぶりのように思える。期待と不安の入り混じった興奮で、凛はまるで
さかりのついたネコのように待ちきれないとばかりに、初音を襲った。その
久しぶりのSEX、気が狂ってしまうのではないかというほど凛は感じた。
初音がその乱れように戸惑ったほどだ。
「うあ゙あ゙あ、あああ、いい、いい~、すごいいいいいっちゃう~」
「・・・今日の凛、なんだかすごくいやらしいね。そんなにここいいんだあ」
「いやあああ、だめえ~、そんなにしたら死んじゃううう~」
「すごい声出してたね。あんな凛見るの初めてかも。もしかして私の留守中
何かあった?」
幾度も達し、グッタリとベッドに横たわって体を休めている凛に、冷蔵庫から
烏龍茶を取り出した初音が、冗談っぽく意地悪そうに話しかけた。それまで
ボーっと夢うつつだった凛だが、初音のその言葉にドキリとし、一瞬で冷や汗が
出た。うつ伏せで顔を見られなかったのが本当に幸いだった。もし真正面から
同じ事を訊かれてたら、その顔では完全に悟られたに違いない。
「もう、意地悪。寂しくて寂しくて待ち遠しかったんだから。1週間以上も
会えなくてたまらなかったんだからあ。凛をこんな体にしたの、初音ちゃん
なんだからね」
顔を見られないように恥ずかしがりながら甘えるように初音に抱きついた。
「ふふふ、凛、だ~いすき。私も寂しかったよ。ずーとずーと凛のこと思ってた」
綱渡りの演技はより一層凛を罪悪感で苦しめた。胸が張り裂けそうだった。そう、
確かに自分の体はこれまで以上に敏感な体になっていた。だがそれは、初音の
愛撫によるものだけではないことを凛はわかっていた。たった2度の田所との情事が、
女としての悦びをより深いものに変えていたことに、凛は言い知れぬ不安と
畏怖を感じ、そして自分の愚かさを悔やんだ。
つづき「タチとネコの関係 10」へ
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