眠気の取れない朝方。
脳髄に張られた意識の幕が蜘蛛の巣の様に絡み付き、脳の覚醒を阻害する。あくび1つでどうにかなる物では無い。
目尻に滲ませた涙の滴が零れ落ちそうで落ちない。そんな、気だるい体を動かしながらも、今日もまた雅信の1日が始まった。
上体を起こし、寝癖で乱れた頭を右手でワシワシと掻きながら雅信は冴えない思考で歯を磨こうと考える。
すると、その思考を読み取ったかの様なタイミングで雅信の部屋に妙齢の女が洗面器と歯磨き一式を携えてやって来た。
女は30代半ばだろうか。艶のある黒髪を櫛で結えて、紫色の着物を纏い雅信の方へと近付いていく。それから、『失礼します』と一言、断りを入れてベッドの上へと上がった。
着物の裾から肉付きの良い太ももが露になる。女がベッドの上で座り込み、その膝に雅信の頭を寝かせたからだ。
「お口を開けて下さいまし」
女が歯ブラシを手に持ち、雅信の顔を覗き込みながらそう言った。体を曲げて、雅信の顔を覗き込んだ女の上体が雅信の頭と密着する。女からは妙齢の女性特有の甘い匂いがした。
雅信が女の言う通りに口を開くと女は丁寧に雅信の歯を磨いていく。右と左と区間を分けているらしく、まずは右側だけを女が丹念にブラッシングしていく。
「はい、右側が終わりましたよ。お水でお口をくちゅくちゅいたしましょうね…」
そう言って女は己の膝から雅信の上体を起こし、コップに注いだ水を雅信の口に含ませ、洗面器を目の前に差し出した。既に青年と呼べる雅信に対し、女はまるで、幼児をあやす母親の様な言い草である。だが、女と雅信の関係は親子などでは無い。
「はい、おしまい。お口がきれいきれいになりましたよ」
同じ様に左側も磨き終えると女は雅信の頭を撫で上げる。それに対して雅信が女の着物の裾から見える太ももに強く顔を埋めた。先ほどまで幼児の様に扱われていた男のする事ではないが、女は何も言わず黙って雅信の頭を撫で続けた。
「もう、甘えん坊さんなんですから…」
女のこの言葉が合図となって雅信は女の両太ももを開かせ、顔を股ぐらへと進ませる。
そして、雅信に顔を股ぐらに埋められる女は固く怒張した雅信の股間部に手を伸ばし、手のひらで優しく包み込む。
女の股ぐらは湿り気があり、先ほど感じた甘い匂いより、一層強い匂いが立ち込める。
雅信の目の前には白い布地。少し薄く透けているのが分かった。なぜなら、白い布地の向こうに黒色の草原が見えたからだ。
つづき「完熟戸惑(2)」へ
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