Jr.s(4)_ハッピーライフ-官能小説(happylives-novel)

牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜 ——日野草城

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Jr.s(4)

15-06-14 11:00

この話は続きです。はじめから読まれる方は「Jr.s」へ

奇妙な物で転げた先で直ぐさま顔を起こして咄嗟に目が合ってしまうのは、その転げた原因である人物の瞳。驚いた顔と青ざめた顔。その両方一遍を出してしまっているユリカちゃんの表情を俺は心臓の鼓動を倍速化させて見詰めてしまう。

無言の領域とでも言うのだろうか。手を着いた地面から先のすぐ目の前には体がすくんで動けない。まるで、誰かに支えられているかの様に前には絶対に微動だにしないのだ。そして、それとは逆に手を着いた地面から後方へ、体をちょっと動かせばピンボールの玉の様に軽く弾かれて下がってしまえるだろう感覚があった。
一にも二にもここから立ち去る事が正解だと体からしても理解しているのだ。

「ぁっ…ぁっ…ちが…っ…ふぅぅっ…うぅぅ」

ただし、まるで迷宮さながらの巨大なショッピングモールにて迷子になってしまった幼児の様にか弱く心細げな泣き顔を瞬時に見せられてしまっては、その場を立つ足に呪縛の枷を付けられた様なものである。

「ちが…ぁうぅっ…おっぱ…おっぱい。お乳、お乳が…ぐすっ。止まらっ、止まらなくて…いつ…いつもはマネージャーさん…さんがぁ…ひっく、ぅぅわぁーん!!」

己の果実の様にたわわに実った胸元もそのままに、瞳を涙で潰し、口を不安で歪め、体を恐怖で震わせるユリカちゃん。一生懸命に今の自分の状況を俺に説明しようとするのだが。その止まらない嗚咽と回らない呂律で言葉には表せず、ついには大声を出して泣きじゃくり始めてしまう。
「…っと」

その時の俺は部屋の状況とユリカちゃんの反応を見て珍しく目敏かった。
ユリカちゃんの泣き声が外に漏れない様に直ぐにドアを閉めて、ユリカちゃんにそっと近付き、その可愛らしい小粒な頭を優しく撫でる。大丈夫、大丈夫だからと理由も説明も聞かず、ただただユリカちゃんが安心して落ち着ける様に計らったのだ。
もはや、周りさえ見えていない彼女に赤ん坊をあやす様にして接する。そして、父か母の如くユリカちゃんの頭を自分の胸元に引き寄せて抱き締めた。

「ごめん、なさい。っ…ひっ…ひっく、ありがと…ござ、ます…」

ミルクの様な薫り立つユリカちゃんの甘い髪の匂い。柔く張り艶のある肌。か細く幼さの残る泣き声。必死に俺の衣服にすがり付く小さな手。すべてが愛らしく、すべてがいとおしく、すべてが内秘めた欲望を掻き立てる物だ。俺の体に寄り掛かる小柄な妖精。幼くてか弱くて守ってあげたくなる可愛い存在。

「大丈夫だよ」

つづき「Jr.s(5)」へ


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