始まりの日_ハッピーライフ-官能小説(happylives-novel)

牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜 ——日野草城

ホームページ 戻る 

始まりの日

15-06-14 11:00

スカシタ顔で隣を歩く男に、すれ違う女の視線がぶつかる。
なんとなく音ゲーみたいだと思った私は、great, good, badと判定することを楽しみ始めた。

「ったく、混み過ぎだろ」
唸るような声、赤信号、ゲーム中断。
「土曜だからね」
吐き捨てるように返事をすると、画面いっぱいに顔が近づいて、そのまま口を塞がれた。
「行くぞ」
大きくて熱い手が、私を掴む。

スカシタ顔をしているが、この男は妹を溺愛するただのシスコンだ。
「誰かに見られちゃうよ?お兄ちゃん」
手を引かれながら、私はまじまじと兄の顔を見上げて、次なる遊びに興じ始めた。
兄はこちらを一瞥すると、嫌な顔をした。
多分、この男はどんな表情をしても美しいんだろうと思う。
だけど私が兄を美しい、愛しいと思うのは、その困った表情においてのみである。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん」
ショーウインドウに映る無音の兄妹は、まるで恋人同士のよう。
現実サイドじゃ妹はニタニタと「お兄ちゃん」を連呼し、兄はそれをあしらいながら汗を滲ませていく。
「お兄ちゃん、お兄ちゃんってば、お兄ちゃん・・・」

・・・飽きた。

突然静かになってみると、兄はすっかり発熱していたようで。
目的の地(映画館)に足を踏み入れる頃には、獣の匂いを漂わせていた。

「チケットまだ売ってるかなー」
「誰も公開初日に見ねーよ、こんなマイナー映画」
「ドリンク買っとく?」
「どうせ見始めたら飲まねぇだろ、おまえ」

こんなに立派に平常心を保っているフリができるとは。
クールな口ぶりと、微熱を帯びた性欲の温度を混ぜてみたくなるではないか。

シートに座ると、すぐに照明が消えた。
大音量の予告がスクリーンに映し出されているのを横目に、私たちはキスをした。
兄の熱い息にまみれながら、舌を這わせてみる。
このまま観客が少ないままだったら、兄は止まらないんじゃないかと不安がよぎった。
本編はちゃんと見たいから、それは困るのだ。
大きな手の平が喉元に添えられた時、予告が終わったのを感じた。

私は全ての温度を一瞬で元に戻して、スクリーンに向き直った。
兄は、それを妨害しない範囲で私に欲情したままでいた。
きっと、最後の一線を越えないままでいるから、兄はこんなにも狂気を募らせてしまうのだろう。
脳直で大胆なのに、私なんかのことを大事にしようとするから、好きなのだ。

「貴弘、」
小声で囁くと、じゃれついていた兄の動きがぴたりと止まった。
「つまんないからホテル行こ?」

一番安い部屋を選んで、ボタンを押した兄は、慣れたように鍵を取ると、エレベーターへまっすぐ進んだ。
そんな様子が少し気に食わなくて、私は一番高い部屋のボタンを押した。

「おまえ何してんだよ!」
血相を変えた理由がやっぱり気に食わないけど、とりあえず私は満足した。
「何って、私を他の女と同等に扱うつもり?」

私の挑発で、兄は簡単に興奮した。見ればわかってしまうから、男は不利だと思う。
もう兄の目は一色に染まっていた。
「いい度胸だな」

部屋に入るなり、兄は私をベッドへ押し倒し、そのまま貪りつき始めた。
服越しでも熱さが分かるくらいに勃起していて、私は足に触れるその感覚に興奮した。
涎と吐息でぐちゃぐちゃになりながら、愛を確かめ合う。
兄の呼吸はハァハァと音になってウルサイくらいだ。
「美耶、愛してる・・・」
熔けるように兄は私を愛していく。
ワンピースを脱がせ、Tシャツを脱ぎ、ブラを外し、胸に顔を埋めながらジーンズを脱ぎ・・・
お互いに裸になってみると、いよいよ温もりは生々しく伝わってきた。
兄は本当に美しい躰をしていた。
余裕のない兄の必死な表情を見ながら、私も熱く濡れていく。
全身を撫でまわしていた大きな手が、そこを挿した。ずぶっと快感が広がる。
「アッ」
漏れ出てしまった声に満足そうに微笑んだ兄は、そのまま指だけで私をイかせた。
私の反応を見るだけでどんどん興奮しているようだった。
まだどこかに冷静さを残していた私は、指の代わりに入ってきた、太くて熱い兄のペニスで一気に正気を失った。
「ハァッハッハァ、ハッ・・・」
音が混ざる。呼吸の温度と、最高の快楽。
熱い、ドロドロと、混ざる、ヤバイ、
「ハァハァハァハァ・・・ッハァ、ハァ、」
「ヤバイ、締め付けないで、イキそうっ・・」
「ハァッ、ハッ、ッ無理イク・・・ッッアアァン」
「ッッッア、俺もっ・・・」
生で入っていたペニスを急いで引き抜き、兄は私のおなかに射精した。
「ヤバイ、すげぇ気持ちイイ・・・ハァ、ハァ」
肩で息をしながら、兄は顔じゅうにキスをくれた。

「ティッシュとって」
私のお腹をキレイに拭きながら、兄は再び欲情した。

「今度は時間をかけながら愛してもいい?」

夜になって家へ帰ると、カレーの匂いがした。
結局ホテルでは3回セックスをした。
この日を境に、私たち兄妹は人目を盗んで愛し合うようになった。


コメント
お名前:
気持ち:

コード:

お知らせ

なし

小説を検索