某女子大のテニス部、練習の後、シャワーを浴びて私は親友のサチに眼差しを向ける。
豊満な胸はバスタオルの上からでも充分に存在感があり、視線は自然とそこに向く。
スタイルは我がテニス部の中でも断トツだろう。
智くんがいつもこの体を自由にしていると思うとメラメラと嫉妬心が湧いてくる。
そう、私はサチに恋している。
私は飯田美佐子、21才大学3年生、テニス部に所属している。
同じくテニス部で3年の山下幸子とは高校の時からの付き合いだ。ダブルスのパ-トナ-でもある。サチには高校の同級生で私もよく知っている、智くんという彼氏がいる。
もう付き合って3年になる。この3年間ずっと苦しんでいた。
私はレズビアンである。そして、親友を好きになってしまった。
ノンケのサチにこの想いをどうしても伝えることができなかった。
サチは私がレズビアンだということすら知らない。
もし私が同性愛者で自分のことを愛していると知ったら、サチはどう反応するだろうか。
毛嫌いされて友達の縁を切られてしまうだろうか。
そんなことを考えると恐ろしくて告白なんて出来なかった。
確かに智くんはいい奴だ。誰が見てもベストカップルと思うだろう。
そこに私が割り込む隙間なんて見当たらなかった。そんな2人を見て、自暴自棄になり、行きずりの女とメイクラブするのも1度や2度ではなかった。
そんな女を抱きながら、思わずサチの名を呟いて怒らせてしまったこともある。どうしてもサチへの想いを断ち切ることが出来ないでいた。
「ミサ、ミサ、聞いてる?本当あったまくるよねえ。今年の1年。そう思うでしょ」
「えっ、な、何が?」
「もうっ、やっぱり聞いてない。1年のことよ。練習はサボるわ、後片付けほったらかしてサッサとシャワー浴びるわ、ここは先輩としてビシッと言ってやらなきゃ、だわ」
「あ、ああそうね。でも、皆が皆そうとは言い切れないわよ。中には殊勝な子もいるわよ」
「そうそう、特に中島結花、あの子は見込みあるわね。テニスの腕前もまずまずだし、先輩に対する態度も礼儀正しくて非常に良い」
「えっ、そうかなあ?確かにテニスは案外出来るみたいだけど、そんなに態度いいかなあ。むしろ、悪い部類に入るように私には見受けられるけど」
「そうお、おかしいなあ。いつもハキハキしてて、気持ち良いぐらいの笑顔で挨拶してくるけど」
「私が嫌われてるだけだったりして、あははは」
自分の印象とサチの印象が正反対なことに何か引っかかった。(中島結花かあ。今度よく話してみよう)
今日は試合形式で1年を上級生が相手する日だった。私はいつもの通りサチと組んでダブルスの試合で1年を相手した。1年にはこの間話題に上った中島結花が入っていた。
「1年、相手は我が大学の最強ペアだ。胸を借りるつもりで必死に食らいついていけ。飯田、山下、手加減するんじゃないぞ」
コーチの檄が飛ぶ。当然負けるつもりはない。試合は案の定一方的に私達のペースで進んでいく。が、事故が起こった。2セット目の1ゲーム目、結花のスマッシュがサチの
顔面を直撃したのだ。
「サチっ」
1年の女子の力とはいえ、かなりの近距離でまともにスマッシュを受けたのだ。サチはその場で倒れこんでしまった。
「すみません。すみません、先輩。私すぐ医務室に連れて行きます。すみません。すみません」
泣きそうな顔になっている結花を見て、私は怒るのをやめた。
「中島、そっと山下を医務室に連れて行って休ませてやれ」
コーチがサチに中島結花を付き添わせた。私は心配だったが、コーチの言葉に従い結花に任せることにした。
それから二人は1時間以上戻ってこなかった。
私は流石に心配になり、コーチに言って様子を見に行くことにした。
(サチ、どうしたんだろう。そんなに当たり所が悪かったんだろうか。やっぱり私もついて行けばよかった)
すごく不安になり医務室に足早に向かった。医務室の前に着くと微かだが何か声が聞こえた。私は異様な雰囲気を感じ取り扉を開けず、聞き耳を立てた。
「はあ、はあ、ダメェ、はああ、はあ~」
妖しげな息遣いが聞こえる。それは喘ぎ声ともとれるような声色だった。(誰?中には誰がいるの?何をしているの?)
先程までの不安とは違った意味の不安が頭をよぎった。(医務室にはサチと中島結花が向かったはず。コ-トに二人はまだ戻ってきてない。寄り道をするはずもない。じゃあ、
二人は中にいるはず。この艶かしい声とも息遣いともとれるのは二人の声?)思い切って扉を開けてみた。
ガラッ。その瞬間、先程までの息遣いがピタッと止まった。衝立の向こうのベッドで何やらガサゴソしているのがわかる。ここまでくれば、もうはっきりと中で何が行われていたのか
バカでもわかる。私は信じられない状況の中で、それでもサチじゃなく人違いであってほしいと願って声をかけた。
「サチ、大丈夫?もう良くなった?皆もコ-チも心配してるよ」
衝立のこちら側で隠れるように話しかけると、しょっこりと満面の笑顔で中島結花が顔を出して現れた。
「山下先輩、すっかり良くなったみたいです。さっきまで何かうなされてるようでしたけど、今、目覚めました」
「そっ、そう。なら良かった。サチ、無理しないでね」
私は精一杯平静を装った。
ドン!サチがいきなり衝立から出てきた。狭い扉付近で立っている結花に体当たりするように慌てて医務室を出ていこうとした。
「あっサチ、待って。何かあったの?」
「大丈夫。本当に大丈夫だから。ごめん、先に行ってる」
サチは一刻も早く私から逃げたいかのように慌しく医務室を出て行った。サチの顔は赤く染まっており、一瞬だがチラッと目が合った瞳は泣き出しそうに真っ赤になっていた。
「あ~ん、先輩ひど~い。待ってぇ。ユカを置いてかないでぇ」
結花がサチの後を追って出て行った。二人の様子から先程まで繰り広げられていただろうサキと結花の行為が決定的になり、私は愕然と立ち尽くした。
つづく「トライアングルラブ2」へ
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