この話はつづきです。はじめから読まれる方は「トライアングルラブ」へ
私やサチの目の前で堂々と結花は女と店を出ていった。
「ねえ・・・これからうちで飲まない?」
「えっ、ミサの家で?今から?」
結花に対しての怒りが収まらず、勢いついでにサチを自宅に誘ってみた。
既に日は変わっていた。今から家で飲みなおすということは、必然と泊まることになる。
昔はよくお互いの家に泊まって夜更かししたものだが、サチが結花と付き合いだしてからは、泊まるどころかお互いの家に行き来すらしていなかった。
「うん。いいよ」
返事を聞いた途端、今更ながらドキドキしてきた。親友であれば何ともない事なのに、サチの「いいよ」という返事だけが頭の中を駆け巡って、勝手に期待で胸躍らせた。
帰りにチューハイやワイン、それにおつまみをたんまり買って、準備万端で家に着いた。
「上がって」
「わあ、久しぶりだけど、変わってないね」
「それは悪うございました。無精者ですから。でも本当、いつ以来だろう。
サチが私の家に来るのって」
「・・・」
「あっ!そっ、そうか。そうだったね。結花と付き合いだして全く無かったね。
ははは・・・ええとまず何で乾杯する?」
「じゃあ、ワイン。そんなに気にしないでよ。結花のことはもう大丈夫だから」
「うん、そう。じゃ、飲もう。今日はとことん付き合ってあげる」
私達はいろいろな話をした。それこそ泣いたり笑ったり怒ったり、こんなにサチと心打ち解け合って話したのも久しぶりだった。
テーブルの上には空いたビンや缶がズラリと並ぶ。いつの間にか話題は尽き、一瞬部屋に沈黙が訪れる。見つめ合う二人。それまでの空気はガラリと変わり、
異様な緊張感が奔る。どこか遠くで走っている暴走族のバイクの音が、静けさの中で一段と際立って聴こえてくる。耐えられない緊張感の中、私はこの一時、
まるでスパコンで計算するかのように頭をフル回転させ、必死に答えを出そうとしていた。
今ある状況、サチへの想い、結花とのこと、サチ自身の気持ち、これらを方程式に当てはめて。
(お願い。サチ、まだ何も言わないで。私、必死に答えを出すから。それまで待って)
私の願いをよそに沈黙が耐え切れなくなったのか、サチが私の方を見て何か言葉を発しようとした。
(時間切れ?)
答えが出ぬままの私は、それでもこのチャンスを逃したくないという一心だけで咄嗟に体が動いた。
「キャッ!」
サチに突進するように抱きつき押し倒したのだ。二人は重なり合い暫く見つめあった。
私は目を閉じキスをしようとサチの唇に近づく。だがそこは柔らかい唇ではなく硬いサチの頬骨だった。
「サチ・・・嫌?」
「・・・」
サチは私の体を振り払うでもなく、無言のまま身動き一つせず、ただ顔を背けている。
私のスパコンはさっきから停止したまんま、壊れてしまった。サチの今の心境が全く解らない。ただサチへの愛おしさが私を突き動かしていた。
「好き。私やっぱり貴女が好き。私じゃダメ?私じゃ貴女の心の支えにならない?」
そう言って露わになっている首筋にキスをする。右手は豊満な胸を服の上からなぞる。
優しく優しく、まるで凍ったシャボン玉を扱うように。
「いいよ」
「!・・・」
その一瞬、手が止まった。
「こんな私でよければ、ミサの好きにしていいよ」
「本当?本当にこのままいいの?今更私が言うのも変だけど、サチ後悔しない?」
サチは横を向いたままコクリと頷いた。
「ああ、サチ、愛しいサチ。何もかも忘れて。愛してる。誰よりも愛してる」
私は呪文を唱えるように何度も何度も愛を呟きながら、サチの体を愛撫した。
「ああああ~」
どこか切なげな声が耳にこだました。
「トライアングルラブ40(結花)」
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