この話はつづきです。はじめから読まれる方は「トライアングルラブ」へ
私が結花とサチが別れたことを知ったのは、二人が別れて随分後、一人ビアンバーで飲んでいた時だった。
「美佐子ちゃんは結花ちゃんの先輩でしょ。最近のあの子、気をつけてた方がいいわ」
「えっ?結花が何かしでかしたんですか?」
最近は結花もテニスに打ち込んでメキメキ上達し、私達のペアは確実に強くなってきていると実感していた矢先だった。恋愛の話は気まずくなるのでしていなかった。
「何って最近結花ちゃん見境無しよ。うちの新しい客に次々と手を出しては食い散らかしてるわよ。常連さんは流石にわかってるけど、そのうち刺されるわよ」
「えっえっ結花が?ナンパしてるんですか?」
「まあ、正確にはナンパされるほうだけど。あの子見た目お人形さんみたいに可愛いから」
「でも、だって、サチは一緒じゃないんですか?」
「私も詳しいことは分かんないんだけど、あの二人、もしかしたら別れたんじゃないかしら。だってここ最近、二人一緒に来たことなんてないわよ」
「ちょっちょっと待って、結花に電話で訊いてみる。そんなはずは・・・」
プルルルル、プルルルル
「あ、結花?今バーにいるんだけど、貴女がサチと別れたって聞いたけど、嘘よね?そんなことないよね?」
「ああ、先輩。ええ、別れました。別れましたとも。それが何か?」
「それが何かって。アンタどういうつもりよ。私が言ったこと理解できなかったの?」
つい声を張上げてしまう。
「・・・ああ~ん、携帯になんかでないで、はやくぅ~、お願い~・・・はいはい、もうちょっと待ってて。・・・ごめんなさい。先輩、ちょっと今たて込んでて、また後から電話します」
明らかにサチと違う女とSEXの最中だった。怒りで我を忘れそうになった。
「バカ結花!」ピッ
(どういうことよ。あれだけ人が辛い想いで決意したってのに、何やってんのよ)
自分でも何に対して怒っているのか分からなかったが、無性に腹が立った。
翌日、サチに何があったのか訊いてみた。どうやら別れたのは事実らしい。
例のバーで飲みながらサチは全てを話してくれた。
「ヒドイ。そのアキラって人許せない。京子さんもグルだとしか思えない。文句言ってやるわ」
「いいの。もうその事はいいのよ。元はといえば周りに流された私が悪いんだから。
それより結花はどうしてるのかしら。新しい恋人でもできたのかしら」
扉が開いてお客が入ってきた。
「あら、珍しい組み合わせね」
結花だった。
「結花、貴女いい加減にしなさいよ。私がどんな気持ちで」
「別にいいですよ。先輩、幸子のこと好きなんでしょ。付き合っちゃえば?」
そう言って結花は私達から少し離れたカウンターの席に座った。
「ママ、水割り」
「はいはい。でも貴女達、痴話喧嘩なら家でしてよね」
ぼんやりとしている結花を横に見ていた幸子が声をかけようとした。
「ゆ・・・」
「横いいかなあ」
30くらいだろうか、大人の雰囲気を漂わす女性が結花に声をかけた。
長い髪を茶色に染め黒のフォーマルな衣服が似合った女性だった。
結花は前をじっと見たまま無視している。女は横に座りさらに話しかける。
(結花が口説かれてる。ママが言ってたように。サチは?)
辛そうな目で結花を見ている幸子がいた。
「さっき向こうの方で貴女達の様子を見ていたんだけど、彼女達のどっちか貴女の恋人?」
「・・・」
「って訳じゃなさそうね。もし今一人なら今夜は私と付き合わない?貴女すごく可愛いいわ。ひと目で気に入ったの。ねえ、私この近くで素敵なホテル知ってるの。そこで二人っきりになって熱い夜を過ごしましょう。」
そしてメンソールの煙草に火をつけ、艶めかしい雰囲気を醸しだしている。
こういうことに慣れているのか、恥ずかしげもなくボディータッチをしながら、結花の耳元で自信ありげに何か口説いている。
私の心は不安でたまらなくなった。どうしてこんな気持ちになるのか?
女はカウンター下の結花の手にいつの間にか指を絡めていた。
それが一瞬私の視界に入った。
(お願いよ、結花。そんな指振り払って。もう耐えられない)
私の願いは裏切られる。結花は女の手を積極的に握り返し、店を一緒に出ようとしたのだ。
ガタッ。サチがその場で立ち上がり何か言いたげに体を震わせている。
「あら、意外と積極的なのね。おねえさんうれしいわ。待って。今お勘定済ませるから。ママ、ということで、この子の分も一緒にして」
「・・・」
ママは何も言わず金額のかかれた紙を女に差し出した。結花は私達の方を振り向きながら、勘定を終えた女の腕に手を回し寄り添うようにした。
バシッ
私は我を忘れ結花のほほを思いっきりビンタしていた。サチは
立ち尽くしたまま、今にも泣き出しそうになった目で結花を見ていた。
「アンタいい加減にしなさいよ。私達の気持ちがわからないの?」
私は親友のサチのために怒っているのか?それとも自分の為?
結花はキッ私を睨みつけるが、黙ったままだった。
その代わり茶髪の女が出しゃばってきた。
「ちょっと。私の彼女に何するのよ。失礼じゃない。こんなところ早く出ましょ。女の嫉妬は本当怖いわ」
そう言って二人は出て行った。
私の耳に店内で二人の女性が何やらひそひそ話をしているのが聞こえてくる。
「あらら、あんな可愛い子が30くらいのおばさんに連いてっちゃったよ。しかも簡単に。あ~ん、こんな事なら先に声かければよかったあ。そしたらあんな年増じゃなくこのピチピチのおねえさんが手取り足取り教えてあげたのに~。あの子タイプだったからチラっチラっと眺めてたんだけどなあ」
「アンタ知らないの?最近ここらで噂になってる事。あの4人の中で
地獄行きのきっぷを握ってしまったのは誰でしょう。ズバリ茶髪の女よ」
「えっ、どういうこと?」
「今夜も一人の美女があの結花って子によって堕とされていくってことよ」
「何それ、あはははは。ばっかみたい。都市伝説じゃあるまいし」
その伝説は冗談でも何でもない。茶髪の女の今夜を思い、私は明確な嫉妬で震えた。
サチの目からは涙がこぼれていた。
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