この話はつづきです。はじめから読まれる方は「トライアングルラブ」へ
結花は今日もミサのお見舞いに行ってしまった。結花と最近まともに話してない。
初めての喧嘩、結花を裏切ってしまったこと、麻紀さんのこと、意地や後ろめたさや疑惑が私を臆病者にしていた。
(いろいろ話し合いたかったのに、このところミサの所ばっかし)
一人さびしくなり、つい京子さんの携帯に電話してみた。
「あら、どうしたの。私の所なんかに電話してきて。結花にでもバレた?」
「いいえ、それは。ただなんとなく、話し相手がほしくて。そう京子さんならもう少し
麻紀さんのこと知ってるかなと思って」
「ふ~ん、何か悩んでるみたいね。そうだ、麻紀のことなら、写真ぐらいは事務所に
まだ残ってるかもしれないわよ。見てみたい?」
「はい、ぜひ見せてください。今からそっち行ってもいいですか?」
「そうね、私事務所によってから駅前のほうに用事があるからAホテルのロビ-で
待ち合わせしましょう。7時半頃には行けると思うわ」
ホテルに着くと京子さんはまだ来てなかった。正直麻紀さんの写真を見るのは怖かった。
でも、避けては通れない道のようにも感じていた。
「お待たせ。待った?食事まだなんでしょ。奢るわよ。ここのホテルのレストラン
美味しいんだから。」
誘われるまま、一緒に食事をし、いろんな話をした。お仕事の事、ファッションの事、
テニスの事なんかも話がはずんで、最近沈んでいた気持ちが一気に晴れやかになった。
「あのう、例の写真」
「あ、そうそう、忘れるところだったわ。あまりに会話が楽しかったから。でも本当に
いいの?貴女にとっては過去のことよ」
(私にとっては。だけど結花にとっては?・・・)
実際差し出された写真を見て唖然とした。瓜二つとまではいかないが、私と
雰囲気から顔立ちから確かに似ている。(ここまでとは・・・今まで結花は誰を
見ていたのだろう)言葉が出ない私を見て京子さんが追い討ちをかける。
「あの子は一生麻紀の影を追っているのよ。今までだっていい子はいっぱいいたのよ。
だけど少しでも麻紀と違うところがあればすぐ捨てちゃうの。最近結花とはどうなの?」
「それが、喧嘩した後なかなか話せてなくて、今日もミサの見舞いに」
「そう、そう言えば美佐子ちゃんの容態はどうなの?あの子人気者でお店としても
困ってるの」
「・・・」
「ねえ、お店といえば私から提案があるんだけど。今夜幸子ちゃん大丈夫なんでしょ?」
「えっ!」
「そんな驚くことないじゃない。幸子ちゃんもそのつもりで電話してきたんでしょ」
「そんな、私、決してそんなつもりじゃ」
嘘だった。いや嘘とまでは言わないが、心のどこかで京子さんとまたそういうことに
なるかもしれないと思わないわけではなかった。
「でも残念。今夜は私が駄目なの。ごめんね。で、提案というのは本当は今夜
このホテルでうちの店の子がお客様を迎えるはずだったの。私はその子をここに
送ってきただけ。でも突然キャンセルが入ちゃって。どう、幸子ちゃん、
うち利用してみない?もちろん今回はお金払えなんて言わないわ。私のおごり。
断然お得よ~。なんせうち、お泊りは6万するからね。その子もすっぽかし食らって
暇してるし。私の時と同様、幸子ちゃんが黙っていれば、絶対結花にはばれないって」
「いえ、私はそういうのは」
「あっ、そうか、そりゃあ結花の恋人だもんね。心配するよねえ。でも大丈夫。
今日の子も結花に負けず劣らず、当店ナンバ-1のテクニシャンだから。
必ず満足するわよ。私なんかよりずっと上手いんだから」
「いえ、そういうことじゃなくって。私知らない人とは」
「あら、風俗ってそういうものよ。結花なんていつも違う子を」
(えっ、結花?いつも?)
「あっやばい。いっ今のは聞かなかったことに・・・ならないわよねえ」
「どういうことですか?」
「勘弁して。そういうことは店のオ-ナ-として言えないのよ。それに
幸子ちゃんだって私と一度浮気してるんだし。ね、こんなこと一度も二度も同じよ。
軽く憂さ晴らしに気持ち良くなればいいのよ。結花に義理立てすることないから。
ばれなければいいだけなんだから」
(麻紀さんのことならいざ知らず、こんな風俗で浮気してたなんてどういうつもりよ。
そっちがその気なら私も遊んでやる。どうなったって知らないからね)
私は頭に血が上り半分自棄になった。京子さんに誘われるまま、そのデリヘル嬢が
いる部屋の前まできた。
ピンポ-ン。ガチャ。
扉が開かれる。中から現れた人物を見てびっくりした。私より少し背の高い
短髪の男だった。(えっ男?)
「アキラ、お連れしたわよ。こちら幸子ちゃん。私の知り合いだから丁重にね。
幸子ちゃん、こちらが今夜貴女のお相手のアキラ。ちょっと不躾なところがあるけど
そこがいいってお客様も多いのよ。最初は戸惑うかもしれないけどプレイは最高よ」
話がどんどん進んでいるのについていけず腰が引ける。もともとノ-マルだが、
やはり初対面の男といきなりSEXするのは怖かった。
「ああ、安心して、うちのお店は全員女性よ」
「えっ、じゃあ」
「そうよ、アキラも体は女性よ。いわゆるFTMって言ってもわからないか。
平たく言えばおなべよ」
「京子さん、その言い方はあまり好きじゃない」
「まあ平たく言えばよ」
(本当だ。声は太いが女性の声だ)
「それじゃあ、頼んだわよ。大事なお客様だから、Aコ-スでね」
「了解。さあ幸子ちゃん、怖がらないで中へどうぞ」
アキラという人に導かれて、これから結花以外の人に抱かれるために自ら部屋に入った。
バタン。
小さく無力な蟻が一匹、決して抜け出せない蟻地獄に一歩足を踏み入れたことに
この時点ではまだ気付いていなかった。
つづく「トライアングルラブ 29」へ
コメント