中立コロニーであるサイド17。
地球連邦軍の宇宙機動戦艦ホワイトバースは、敵ギオン軍の宇宙戦艦ザンジブルと並んで、パースに接舷していた。
ホワイトバースに所属する十八歳の戦闘機パイロット、ワムロ・ライ准尉は、少し心配になっていた。
ともに休暇上陸したスラウ・ビー曹長が、夜九時を過ぎてもまだ帰艦していなかったのだ。
彼女とは四時ころに別れて別行動となったが、そのときスラウは、遅くとも六時には戻ると言っていた。
ワムロは艦長のブライトン少佐の許可を得て、スラウを探しに再び街へ出た。
中心街のショッピングモールに、十六歳のスラウが好きそうな可愛い小物を扱うショップがあった。
ワムロは、そこの店員にスラウの写真を見せながら尋ねた。
店員は覚えていた。
「その子なら、確か五時くらいにウチで買物していきましたよ」
その後どこへ行ったのだろう。店員も、それは無論知らなかった。ただ不気味な言葉を残した。
「最近じゃ、ギオン軍の奴等の素行が悪くて…」
ワムロは、とりあえずそこから港までの経路を辿ろうと考えた。
大通りを歩くうちに、その道がいかにも迂回して遠回りであることにワムロは気がついた。
脇の小道をうまく進めば近道ができそうだ。スラウもそう考えて迷ったのか?
ワムロは小道に出てみた。
大通りから一歩外れただけで、人気の無い非常に寂しいうらびれた街区だった。
ワムロがしばらくその狭い裏路地を進むと、前方からギオン軍の制服を着た兵士数人が近づいてきた。
ワムロは緊張した。
いかに中立地帯とはいえ、敵兵士との遭遇である。歩きながら心で身構えた。
しかしギオン兵達は、多少酔っ払っており、ご機嫌であった。
「いよう、連邦軍の坊や、連邦軍には若くてピチピチしたギャルがいて、いいねえ!」
「アハハハ、ほんとだぜ、下も上も、締りが最高でさあ」
「坊やは、まだ童貞かい?、お互いいつ死ぬかわからん身だからな、まあ仲良くしようや」
ワムロは彼らの囃す言葉にハッとした。
「あ、あんたたち…、まさか…、スラウを…」
「おお、あの子、スラウっていうのかい。あそこの廃墟の中で、潮吹いて身もだえしてるぜ、いまも。ハハハ…」
ギロン兵達は悪びれることも無く応えて、大通りへ去っていった。
ワムロは廃墟へ向かって駆け出した。
そして、その廃墟の壊れかかったドア押しのけ、中に進んだ。
大広間。入った瞬間、ワムロは息を呑んだ。
乱雑に敷かれたマットの上。
「うああ…、あわわ…、くうう…」
スラウが仰向けになって泣きじゃくっていた。
隊員服がびりびりに引き裂かれていた。
脱がされたショーツが、スラウの右足先にかろうじて引っかかっていた。
剥ぎ取られたブラジャーや靴下が、頭の先に散乱していた。
スラウの全身は汗にまみれ、そして、大切な秘部からは汚濁した白い液体が流れ出していた。
処女だった証の赤い血と混ざり合って…。
スラウが何をされたのかは明らかだった。大好きなスラウ・ビーが…。
「ス、スラウ…」
呆然としながら、ようやくワムロが声を掛けた。
「ワ、ワムロ…、うはははあああーーーん!、…み、見ないでー!、…」
スラウはワムロに気がつくと、顔を両手で覆って泣き叫んだ。
ワムロはゆっくりスラウに近づき、腰を落とすと、号泣するスラウを抱きしめた。
しっかりと。
ワムロの緊急電により出動したホワイトバースの救急車によって、スラウは艦に収容された。
医療班がスラウに必要な処置を施した。
ギオン許すまじ。艦の幹部によって緊急会議が開かれた。
被害届をサイド17警察に提出し、犯行に加わったギオン兵を告訴することとなった。
それには調書が必要となる。
艦長のブライトンは気を利かせて、同性の航海長ミラエ中尉を聴取官とした。
しかし医務室のスラウは、ミラエには固く口を閉ざすのみだった。
ミラエは告白の無理強いをしなかった。
「ねえスラウ、誰になら話せそう?」
スラウは目に涙を浮かべながら、しばらく考えていた。そして搾り出すような声で言った。
「ワ、ワムロに…、会いたい…」
医務室の前でワムロは緊張していた。
大好きなスラウがギオン兵にマワされた。その事情聴取する任務を命ぜられたのだ。
辛かった。拒否したい任務だった。しかしスラウはもっと辛いはずだ…。
ワムロは意を決して医務室に入った。
スラウはベッドに腰をかけていた。
隊員服とは違う、黄色のタンクトップにデニムのミニスカートという私服姿だった。まだ新しい隊員服が出来上がっていないのかもしれない。
「いいかいスラウ、ちょっとだけだから…」
頷くスラウを確認したワムロは、遠慮がちにスラウの斜め前にあった椅子に腰掛けた。
「スラウ、すまない…。僕が最後までスラウに付き合っていたら、こんなことには…」
スラウは俯いたまま首を横に振った。
「スラウ…、辛いだろうけど、話してくれないか。スラウをこんな目に遭わせた奴等を放置することはできない…」
スラウは両手を手を太ももの上に置き、もじもじと逡巡していた。
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