ブライダル(8)
床に転がった万年筆を来家は拾い取り 「こんな物の中にニトログリセリンが入ってる訳ないだろうが」 床に伏せていた植嶋一恵と新垣敬三が立ち上がり 「よお来家、悪い冗談が過ぎるぜ」 新垣敬三が禿げ上がり掛けた額の汗を掌で拭った 「悪かったな、只このデブ男の根性を確かめたかったもんでな」 「そう言う事か、なる程な、じゃあ此奴は失格って訳だな」 来家と新垣はお互い顔を見合わせ言った 「この取引は無しって事だな」 「ちょっと待って」 植嶋一恵が止めた 「なんだい?此奴は俺達を試す為のダミーとでも言いたいのか?」 来家の言葉に植嶋一恵が申し訳なさそうに 「ご免なさい、その通りよ」 植嶋一恵は俯ていた 「へぇー随分と手の込んだ事をするもんだな」 新垣敬三は呆れた顔で植嶋一恵を見た 「なら本物は彼処で視てるって訳かよ!」 来家はそう言った瞬間テーブルに於かれた硝子の灰皿か手に取り壁に付けられた縦長の鏡に灰皿をぶつけた、鏡は粉々に割れその奥に椅子に座った背広姿の初老の男が居た 「下手な小細工しやがって!」 来家は吐き捨てる様に言った 「何故判った?」 初老の男が椅子から立ち上がり床に転げた灰皿を跨ぎ粉々に崩れた鏡を革靴に踏みながら壁から出て来た 「合格だな」 初老の男が不敵に笑いそして 「お前は不合格だ!」 椅子に座る太った男を睨み付け言った 「ちょ、ちょっと待って呉れ!俺を娑婆に出して呉れる約束だろ?」 男は狼狽え 「なぁあんた言ったじゃねえか!!此処で偉そうにしてるだけで良いって!だから言われた通りにしただけじゃねえか!!」 男は椅子から立ち上がり初老の男に掴み掛かろうとした時、一発の銃声が響き渡り男が床に崩れ落ちた、銃を撃ったのは初老の男であった 「私は汚い物に触られるのが嫌いなものでね」 軽く笑う初老の男はその銃を来家忠信に向けた 「君もそして君達も私の言う通りにして貰うよ!」 その言葉に来家忠信は笑った 「爺さんよ!下手な芝居擦るんじゃねえよ!!」 「なに!」 眉間に皺を寄せいぶ咬む初老の男は引き金に掛かった指に力を入れた 「馬鹿らしい!爺さん舐めてんの!!」 来家はそう言った瞬間、初老の男の拳銃を持つ手をねじ曲げ銃を容易く奪い背後に周り込み奪い採った銃を顎の下に付けた 「年寄りがヒーロー面擦るんじゃねえよ!!」 「なる程、流石だな」 余裕で笑う初老の男は軽く両手を挙げ笑った 「すまなかったな、儂の負けだ!」 その言葉に来家は銃のカートリッジを外した 「タマが入ってないし、このデブ男を撃ったタマも実弾じゃねえんだろ」 来家の言葉に初老の男は頷いた 「それじゃ本格的にギャラの話をさせて貰うぜ」 来家の言葉に初老の男が頷き笑みを零し 「植嶋君、何時もの所で7時に良いかね?」 初老の男は優しく言った、植嶋一恵は敬礼し一礼した 「さぁ此処から出ましょう、場所を変えて貴方達に本当の話をするわ就いて来て下さい」 植嶋一恵はそう言うと来家忠信と新垣敬三を連れ部屋を出たそしてエレベーターに乗り3階下に降り別の部屋へと2人を案内した、其処は広々とした空間に真ん中に楕円形の机と椅子が5脚程置かれていた、その椅子に来家と新垣は適当に座り植嶋一恵が書類を机に広げ見せた 「貴方達に仕留めて欲しいのはさっき見せた男2人よ」 「本当にあの2人を遣るのか?」 新垣敬三が頭を捻った 「層です!」 植嶋一恵は2人を強い眼差しで見た、そして淡々と説明を始めたのであった |
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