牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜 ——日野草城
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15-06-14 12:19
ある夜の当直のひとコマ……。
突然鳴り響く恐怖の内線。受話器の先からは鬼姫様の怒鳴り声。 「遅い!! カルテの用意くらいさっさとしろ!!!」 「はい、すいません!!」 カルテ用意のため全力疾走する我ら事務員一同。
救急診察室裏の関係者室で研修医たちを前に立ちはだかる鬼姫様。 「お前らそれでも医者か! そんなことならさっさと辞めちまえ!!」 しょんぼりする研修医たち。そしてあげく泣き出す若い女性研修医。
救急搬送依頼の電話を事務から鬼姫様にした際、 主訴について一瞬のもたつきがあった直後。 「主訴をしっかり聞け!!」 「はい、すいません!!」 頭を下げて改めて説明を繰り返す俺……。
「瞬間湯沸かし器」 「スイッチ入ったら終わり」 「院内最強のドS」
病院関係者の間で様々な評判を立てられて恐れられている鬼姫様。
患者にはともかく、我々には常に男言葉でしか喋らず、 ほんの些細のミスも許さず完璧かつスピーディに仕事が進むことを要求する容赦のない性格。 少しでもミスがあろうものなら速攻で大爆発。
その御威光は医長先生すら圧倒するという噂もあるほどで、 「鬼姫様には最大限の注意を払って対応するように」 というのが我々関係者の合言葉。
それゆえ、病院関係者の誰からも嫌われていた鬼姫様でした。
その鬼姫様が今、俺の横で全裸で横たわっていました。
湯上りで少しのぼせていたせいか、色白の肌をほんのりと桃色に染めて、 職場で見せるあの冷徹な表情とは別人のような優しい笑みを浮かべながら……。
「だいちゅき♪」 鬼姫様は甘くとろけるように言葉を漏らすと、何度目になるでしょう。またも瞳をそっと伏せて唇をとがらせると、俺の唇をまるで小鳥がくちばしで何かをついばむように細かくキスしてきました。
鬼姫様は30を超えていたとは言え、童顔の美人さんでした。 大きな瞳を潤ませながら、一途にこちらを見つめるその表情はまるで子供そのもので、病院で見せる表情とは明らかに違いすぎました。
病院ではまさしく鬼でしたが、今の彼女は35とはとても思えない、ものすごく幼くて恋人にベタベタ、いやべっとりと甘えてくる、「女の子」そのものでした。
しかもそれが気持ち悪いとかいうのは全くなく、すごく自然で可愛らしくて魅力的でなによりとても愛しく見えるのだから不思議でした。
気がつくと俺は彼女の小さな背中を抱きしめて、 彼女の中に舌を差し入れていました。 「ううん……」 鬼姫様は嬉しそうに声を漏らすと、優しくそんな俺に応えるように舌を動かし、 まるで包み込むようにして俺と交わり続けるのでした。
あの露天風呂でのセックスの後はずっとこんな状態でした。
のぼせて床でお互い裸のまま横たわりながら、何度も何度もキスを繰り返していました。
キスをしようとするたびに鬼姫様は、 「だいちゅき」 「ねえ、ちゅうしよう……」 とかいった感じで子供のような言葉遣いで俺に甘えてきました。
ちなみにこの子供言葉、演技か何かかとこの時は思っていましたが、彼女はどうやら恋人に甘える際、特にセックスの時は、このように「子供がえり」をするところがあるようで、ものすごく甘えたさんになってしまうのでした。
実際この後も彼女はずっと子のように「子供がえり」をしたままでした。
何度キスを繰り返したか。
ようやくのぼせたお互いの身体も冷めてきて、少し肌寒さを感じそうになった頃、俺たちはお互い抱き合って肌のぬくもりをじかに伝えあいながら、べっとりと唇を重ね合って、貪り合うように舌を絡め合い、唾液をすすり合う濃厚なキスを繰り広げていました。
俺の舌が何度も彼女の動き回る舌に絡みつきながら、彼女は彼女で俺の舌に絡みながら、気まぐれに俺の舌の裏や歯を何度も舌でなぞり、そして唾液を注ぎ込んできました。
湯上りの熱は冷めましたが、違う熱がまたもお互いの中でぼうと燃えあがってきていて、抑えきれなくなっていました。
「もう我慢できないよ……」 鬼姫様は俺の耳元で甘く囁くと、再び唇を重ねてそのままねっとりと舌を絡ませてきました。 俺が静かにうなずくと、彼女は再び唇を離し、 「やろ……ね、いいでしょ……?」 そう囁いて、俺の右の耳の輪郭を器用にゆったりと舌で舐めまわしてきました。 熱く濡れた彼女の舌がざらりとぬめりと俺の耳を滑っていきます。
そして舐めまわしながら鬼姫様のこぼす熱く湿った吐息も俺の耳にまともに吹きかかり、まるでノイズのように生々しく彼女の吐息が響き渡りました。
耳を舐められ、同時に吐息が吹きかけられることに、くすぐったいようなゾクゾクしたものを感じながら、俺自身興奮を抑えることができませんでした。
俺は無意識のうちに彼女の小さな背中を思い切りぎゅうと抱きしめると、彼女も俺の耳を舐めまわしながら俺を思い切り抱きしめてきました。
興奮とそして彼女へのたまらぬ愛しさに胸が張り裂けそうになっていました。
<続く>
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