牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜 ——日野草城
どんなに後悔しても遅いことがあります。懺悔になってしまいますが、誰もいないので書きながら私(圭子 仮)は28歳のOLです。つい2年ほど前までは付き合った人数は4人ぐらい。 26歳の夏ごろ友人真理の紹介で信一に出会いました。信一は顔はそれほど格好よくないのですが、話していて楽しく、聞き上手であり、また仕事でも頑張っているようで、なんといいますか、人間的に尊敬でき優しい人でした。私からの告白で信一と付き合うことになり、私は充実した毎日を送っていました。信一は褒め上手で付き合った当初、少し地味だった私に服を買ってくれたりして、なんとなく自分に自身が出来てきました。「圭子はもとはいいんだから自信もっていいと思うよ」と事あるごとに私を褒めてくれました。事実私は会社でも「最近綺麗になったね」とか、友達に誘われた人数合わせのコンパでも、以前に比べてもてるようになっていました。信一と付き合い始めて1年ちょっと経った去年の秋ごろ、真理の彼氏とその友達と一緒に飲みに行く機会がありました。真理の彼氏はイケメンで、友達もどこかのホスト?と思うほど女性の扱いに慣れていて、しかも格好よかった。信一は真面目でいい人ですが、身長もそれほど高くなく、体もがっちりしているのでよく「美女と野獣」だねと、自分の事を笑いながら話していました。確かに信一は女性を扱うスマートさはなかったのですが、それは彼の誠実さだと思います。真理の彼氏や友達は、そういう意味では非常にスマートに女性を扱ってくれる人たちでした。当然下心もあるんだと思います。 飲み会は非常に楽しく、彼らと一緒に飲んでるのを、うらやましそうに見ている女性もいて、私は優越感を抱いていたのだと思います。おしゃれなクラブをでて解散しようということになった時、その中の一人の隆夫が私を送って行ってくれることになりました。私も隆夫が気に入っていて隆夫が「少し遠回りしてドライブしようか?」といった時、拒みませんでした。むしろこの後のことに期待すらしていたのかも知れません。深夜1時を回って私の自宅から、かなり離れたところまできてしまい、隆夫も「つい楽しくてこんなところまで来ちゃったね、もう帰る?」と聞いてきました。「だいぶ遠くまで来ちゃったね、疲れてない?」と私が聞くと「実はちょっと疲れてる」と少し笑いながら言いました。後はお決まりのコースですよね。彼とホテルに行き朝まで一緒にいました。彼はやはり女の扱いが上手かった・・・・私はその時夢のような一夜だと勘違いしていました。それから私は信一に嘘をつきながら何回も隆夫と会いました。でも愛していたのは信一だと自分勝手ながら思っていました。信一は夜でも私に安心感を与えてくれ、別に私は不満はなかった。なら何故隆夫と会っていたのか?私は過去それほどもてなかったので、有頂天になっていたのだと思います。正直信一の方が私は感じることが出来た。でも、隆夫は乗せるのが上手いのです。何回か隆夫と会うために信一に嘘をつくと、罪悪感から信一に会ってもなんとなく心から楽しめない自分がいました。もう12月ぐらいになると隆夫に会う日のほうが多いくらいです。それでも信一は私に優しく「忙しいみたいだけど頑張ってと」私に気を使ってくれました。メールもまめにきてましたが、段々返すのが億劫になってきて、この頃になるともう私自身誰が好きなのか分からなくなってきていた。12月も末になると頻繁に飲み会があり、隆夫の友人とも関係を持ってしまいました。私はもてる優越感に浸っていて、段々信一にこだわらなくても、と思い始めていた。1月に入ると隆夫とも少しずつ疎遠になり、むしろセフレ感覚でした。隆夫の友人拓也とも同じような感覚で付き合っていて、その頃になると、信一に1週間に1回も会っていなかった。それでも私を気遣う信一を「うざい」とすら感じ始めていたのかもしれません。2月末ごろ、真理は彼氏と別れたと私に話してきました。理由は彼の浮気です。実は真理の彼氏とも私は一回浮気していました。泣いている真理を見ても、私は浮気されるほうに問題があるんじゃない、と思っていました。3月に入ると私は同時平行で3人ぐらいと付き合っていて、信一とはもう別れようと思っていた。今考えても恥ずかしい。自分の愚かさに何故気が付かなかったのか。3月末ごろ真理から呼び出しがありました。私と真理の元彼の浮気を知ったようです。真理は私に「あんたそんな奴だと思わなかったよ!なんで?信一いるじゃん!あんた隆夫とも付き合ってたみたいね。でも隆夫はもう2年も付き合ってる彼女がいるのよ。あんたなんか所詮遊びよ」と私に罵声を浴びせていました。私も負けじと「所詮浮気された身で何を偉そうに!あんたに魅力がなかったんでしょ!」とかそれは酷いこと言ったと思います。真理は悲しそうに、それでも私に信一にばれないうちにこんなこと止めたほうがいい。あんたが今付き合ってる奴らはただの遊びだよ。あんたに飽きたらすぐに他に行くような奴らだよ。信一には話さないから目を覚まして、と必死に私を説得していました。どう考えても私馬鹿なんですよね・・・・真理は信一には本当に話さなかったようですが、いくら鈍い信一でも私の異変には気が付きました。4月の中旬ごろ信一から話をしたから会えないかと連絡がありました。2週間ぐらい会っていなかったと思います。でも私はその日に初めて会う約束をしていた弘樹のほうを優先してしまった。弘樹は隆夫とも知り合いのようでした。ことが終わってお酒を飲み談笑していると「いや。圭子ちゃん本当にやらしてくれるんだね。俺も彼女と別れたばっかりで溜まってたんだよ。隆夫がさ、圭子ちゃんなら相手してくれるよって言ったから期待せずに来たけどかわいい子でよかったよ」なんて事を言うのです。私は「どういうこと?」とちょっと不安になって弘樹に聞きました。つまりは私は隆夫や真理の彼氏たちの性欲処理係だったってこと、私もそれは分かっててギブアンドテイクの関係だと隆夫たちは言っていたのです。はっきりと男からそういう言葉を聞いたのは初めてでした。もてることに有頂天になって自分の魅力で男をひきつけていたのではなく、簡単にやらせてくれるから男は優しかったことに、初めて気が付いたのでした。私は気分が悪くなって直ぐにホテルを出ました。 いままで男たちが送ってくれていましたが、そんな気分になれなかった。久しぶりに一人で帰り、電車に乗っていると、段々自分の勘違いに気が付いてきました。後悔と自分の馬鹿さ加減に悔し涙が出てきました。そんな時頭に浮かんだのは図々しくも信一でした。それから、家に帰りしばらくぼーっとして、段々自分の現実が分かってきた時、昨日の信一の話ってのはなんなんだろうと考え始めました。当然別れ話が一番可能性が高いのですが、どん底の私はなんとか明るい材料を探そうと必死でした。いくら考えてもそんなものないんですけどね。結局困ったときに話できるのは真理しかいないのです。でも、真理には酷いことを言ってしまった。私は一日中考えて、それでもいい方法なんてなくて、結局お酒の力を借りて真理に電話をしたのです。「真理・・・・ごめん私が馬鹿だった、お願い助けて。私信一と別れたくない・・・もう死にたい」半分取り乱しながら私はそんなことを言ったようです。お酒を飲んでいたのでこれは後から真理に聞きました。真理は「あんた今頃気が付いても遅いよ・・・・今信一君と一緒にいるんだけど、もう気が付いてるよあんたのしたこと・・・今から私一人でそっちいくから早まったことしたら駄目だよ」と真理が言った後、絶望を感じながら本当に死のうかと思いました。喉でも掻っ切ればよかったのに、そんなときでも私は楽に死ぬ方法を考えて、睡眠薬がないか探してました。今考えても最低です。結局真理が家に来たとき、私は飲みすぎて寝ていました。チャイムが鳴って飛び起きたとき、時計を見るとあれから3時間は経っていました。私は水を一杯飲んでから玄関に行き、扉を開けると真理が立っていました。「ごめん・・・結局信一君も一緒に来ちゃった」と真理が言いました。扉の影から信一が出てくると私はその場にへたり込んで、泣きながらごめんなさいしか言えなかった。信一はそれでも優しく「こんなところでなんだから部屋に入ろうな」と私を立たせてくれて、肩を抱きながら部屋へと連れて行ってくれました。もう夜も12時を回ってるのに私が落ち着くまで2人は黙っていました。頭の中はぐちゃぐちゃで別れるしかないのか?どうしたら許してもらえるのか?真理はなんで信一を連れてきたのか?とお門違いのことまで考えていました。落ち着いてきた私にようやく真理が話し始めました。「圭子・・・・信一君はもう全部知ってるよ。昨日話をしたいと信一君が言っても圭子は断ったのよね?信一君は限界だったの私に連絡してきて、全部教えてくれと言われたわ。私も迷ったけど信一君の顔見てると嘘はつけなかったよ・・・・だから今日信一君に私の知ってること全部話した。薄々感じていたとはいえ、ショックを感じていた信一君を放っては置けなかった。圭子と話をしたいと言ってる信一君を連れてこないわけには行かなかったの」取り乱した私は「言わないって言ったじゃない!なんで話すのよ!真理の馬鹿!なんで・・・なんでよ・・・」と泣きながら真理に言ってしまった。自業自得なんですけどね。あの時の私にはそう言うことしか出来なかった。取り乱す私にようやく信一が話し始めました。(私はお酒飲んでいて記憶が曖昧なので後から真理に聞いたところもあります)「圭ちゃん落ち着いて…真理ちゃんが悪いわけじゃない。俺が無理やり聞いたんだから…」「なんで真理をかばうのよ!まさか…真理と付き合ってるんじゃないよね…ね?」と信一に言った後すぐに信一が「俺と真理ちゃんは何にもないよ。でも圭ちゃん真理ちゃんに謝らないといけないんじゃないのか?圭ちゃんがやったことは、真理ちゃん凄くショック受けてるんだよ…もちろん俺も…」私も悪かったことは分かっていましたが、そのときは信一を失うのが怖くてとにかく真理に出て行って欲しかった。女の勘でしょうか、真理に信一を取られると感じてしまったのです。私はとにかく信一と2人で話がしたかった。自分で真理を呼んだことなんかすっかり忘れて…どこまで馬鹿なんでしょう。私は真理に「真理…ごめんなさい私はとんでもないことしてしまった…いくら謝っても許してもらえないかもしれない…でも信一だけは取らないで…お願い」と真理に見当違いなお願いをしてしまいました。「圭ちゃん、真理ちゃんに失礼なこと言うなよ。俺とは何にもないって言ってるじゃないか」真理も「私と信一君は何にもないよ、圭子しっかりしなよ…」私は自分のした事も忘れ、今目の前にいる真理が私から信一を奪う人間にしか見えなかった。冷静な判断が出来ないほどの飲酒と罪悪感で、自分で自分の気持ちを制御できなかったのです。真理はこのときの私は今までと同じ人間だとは思えなかったと言います。ここから先は私の記憶もかなり曖昧なのですが、逆上した私は真理に「もういいから!お願い真理帰って…お願い」最後は泣きながら叫んでいたように思います。「圭ちゃん!いい加減にしろ!自分のやったこと分かってんの?真理ちゃんの彼氏と浮気したのは圭ちゃんだろ!俺だって…」と私を睨みながら信一は言いました。私はそのときの顔だけは今でもはっきり憶えてます。悔しそうな悲しそうななんともいえない顔です。この一ヶ月何回も思い出しましたから。信一は立ち上がると真理に向かって「真理ちゃん、もう圭ちゃんと話し合うことは何もないよ。帰ろう送っていくよ」「え…でも…」と言いながら真理は私のほうを向きました。私はもう泣き崩れていました。自業自得なんですけどね。立ち上がり真理の肩に手を置き「帰ろう」という信一に、私は思わずしがみ付きました。「お願い…信一私を捨ていで、ごめんなさい」と繰り替えし、とにかく信一の足を離すまいと必死でした。そんな私を見る信一と真理の顔は哀れみと悲しみに満ちていたような気がします。信一は少しかがんで私の肩に手を置きました。「圭ちゃん…圭ちゃん変わったね。俺は圭ちゃんが好きだったよ。でもね…圭ちゃんもう遅いと思うんだ。俺はこんなことがあっても、昨日までは目を覚ましてくれるんじゃないかと思ってたんだ。でも、もう遅いよ…さよなら圭ちゃん」その言葉にもう取り付く島もないと感じさせられました。後悔と自責の念でいっぱいでした。私の足をつかむ力が弱まると信一は立ち上がり真理と一緒に出て行きました。私はそのまま何もする気が起きず、朝会社に体調不良でしばらく休むと告げ、しばらくあの晩のことを思い出しては一人泣いていました。休んで三日目の夜、チャイムが鳴った。私はひょっとして信一かも?と思いましたが、そんな訳ないかと思いしばらく出ませんでした。しかし扉を叩く音が聞こえ声が聞こえてきます。「圭子いるんでしょ?」真理の声でした。私は扉を開けました。心配そうにこちらを見る真理がそこにいます。私はこのとき初めて真理に心のそこから「ごめんなさい」と言えたと思います。しばらく私が黙っていると、真理が「お腹すいてない?」とコンビニで買ってきたお弁当やおにぎりを出してくれました。私は食欲がなかったのですが真理に悪いと思い食べました。真理はしばらく黙っていましたが、意を決したように話し始めました。「圭子…もう信一君のことは諦めた方がいいよ。圭子も悪い事したことは分かってると思う。これ以上信一君を苦しめることは止めたほうが良いよ…私のことは気にしないで、どうせあの男(元彼)は浮気性で圭子以外にも浮気相手いたから、遅かれ早かれ別れていたと思うし」「…真理本当にごめん、私馬鹿だった…分かったときには遅かったんだね」「そうだね…遅かったと思う。今は辛いと思うけど、明日からちゃんと会社来なよ、他の人も心配してる」(真理とは同じ会社です)「…うん、ごめん」自然と涙が出てきました。それから私は取り合えず信一に謝りたくて、真理に信一に会って話したいと伝えてとお願いしました。数日後信一から私に連絡がありました。仕事終わり次第信一の会社の近くの喫茶店であうことになりました。そのとき私は今信一に会っても絶対に泣かないでおこうと決めていました。でも喫茶店に入ってくる信一をみると自然と涙があふれ、信一が席に着く頃には俯いて涙をこらえるのが精一杯でした。声が出ない。苦しい。あわす顔がない。信一が目の前にいるだけで私は感情を抑えられませんでした。必死に泣くのをこらえてる私に向かって、ようやく信一が私に話し始めました。信一は去年末位から気が付いていたそうです。何回も私に気が付いて欲しくて、色々考えていたそうです。そういえばと思うことが沢山ありました。それでも私は気がつけなかったのです。彼の優しさに甘えていたのです。いえむしろその優しさを「うざい」とすら感じていました。「それで圭ちゃんはどうしたいの?俺に何か話があったんじゃないの?」とそれでも優しく彼は聞いてくれました。私は搾り出すように「ごめんね信一…ただ…ただ謝りたくて」最後のほうは言葉になっていなかったと思います。「圭ちゃん…今の圭ちゃん見てたら昔に戻ったみたいに感じたよ」私は一瞬「え?」と思いましたが「でも俺は消し去りたくても記憶は消せない、許したいけど自分に自信がないよ。やっぱり辛いけど別れよう」私は無我夢中でした。「お願い…もう一回だけもう一回だけ私を信じて…絶対にもう裏切らないから。お願いします…」必死に懇願しました。真一も悩んでいたようです。でも「圭ちゃん一度こうなったからにはやっぱり元には戻れないよ。今の圭ちゃんならまた誰か好きになってくれるよ」私は真一に好きになってもらいたい、許してやり直して欲しい、という言葉を必死に飲み込みました。「最後まで優しいんだね…余計忘れられないよ…」「…圭ちゃん今までありがとう。辛いけどさよならしないとな」「うん、ごめんね」「もういいって」喫茶店を出て真一を見送りながらまた涙が出てきました。こうして私の修羅場は終わりました。家に帰ってから真一のことを考えてました。舞い上がってる私に真一は色んなサインを出してくれてた。私を引き戻すために時には優しく時には厳しく。ようやく最近落ち着いてきました。真理のおかげもあります。そして真理が信一を説得してくれたらしく連絡がありました。一ヶ月ぶりですやり直せるのか分かりません。ただ私は自分が変わった事を彼に見せるだけです。もし振り向いてくれなくてもそれは仕方のないことです。今は人の信頼を裏切ることがどれだけ自分と相手を傷つけるのか、それが分かりました。でも、こんなことを経験しないと分からない自分が恥ずかしい。真理や信一は分かっていたのに。今はただ自分の未熟さがただただ腹立たしい。これで私の話は終わりです。ありがとうございました。どういう非難を受けても仕方ないと思います。反省してますと私が言ったところで信用なんて出来ないでしょう。私はこのまま真理と信一が付き合っても祝福できる人間になりたい。真理と信一がどう考えてるのか分からないけれど。私は自分の行動によって真理や信一を傷つけた。私の出来ることは自分を変える事だけだと思っています。 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なし
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