牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜 ——日野草城
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15-06-14 05:09
重々しい空気だった。 なんでこんな事になったのか、由香ちゃんと2人でデート 途中までは兄妹のように仲良くいけてたのに
「タクヤ久しぶり・・・」 「ひさしぶり・・・」
ヨウコ・・・なんでよりにもよって今ここでお前に会うなんて・・・・
「その子妹さん?タクヤって妹いたっけ?」 「この子は・・」
家庭教師先の生徒さんだよと言うよりも早く
「私タッ君の彼女だよ!貴方だれ?」 と由香ちゃんが俺の腕を掴んで言う
「えっ!」俺とヨウコが同時に声を上げる。
2人あちこちお店を見て回った後、公園で順子さんのお弁当を食べて、お昼から市内の小さい目の遊園地に行くために地下鉄のホームで電車を待っている時だった。
「タクヤ?」
凄く懐かしい声がして振り返るとヨウコだった。 ヨウコは俺の彼女・・だった・・別れてからずっと連絡をとっていなかったから彼女を見るのは久しぶりだった。 ヨウコは少しやつれたみたいで昔のような明るい面影がなくなっていた。
「ちょ、違うだろこの子は家庭教師先の娘さんで俺の生徒、今日は親御さんの了解をもらって遊びに連れてきたんだ!」 慌てて訂正する。
「えータッ君酷いよ!ーデートだっていったじゃん!!」 不満顔の由香ちゃん
「そっか・・ビックリしたw」 ヨウコはあっさり解ってくれた。
「そうだよね、流石に歳が違いすぎるもんね・・」
「なんかそれ失礼じゃない?」 由香ちゃんが厳しい目つきでヨウコに食って掛かる。
「大体あんた誰よ、人の事とやかく言う前に名乗ったら?」 由香ちゃんは、子供扱いされたのがよほど気に入らなかったのか なんだかヤンキーみたいな口の聞き方だ。
「ゆ、由香ちゃん?!」 なだめようとする俺の手を振りほどく
「タッ君は黙ってて!」
「ごめんなさい、私は松崎ヨウコ・・あの・・タクヤと付き合ってたのよ」 年下の態度に落ち着いた態度で答えるヨウコ
「付き合ってたって昔の事でしょ、馴れ馴れしく話しかけてこないでよね」 「べ、別に良いじゃない・・話しかけるくらいw」
あーどうやらこの2人は相性最悪みたいだ。 ○○線に電車が~丁度良いタイミングで乗る予定の電車来る。
「ま、まあとにかく俺達は今から行く所あるから、ねっ由香ちゃんも早く電車きたし!」 「・・・・・・・・」 2人にらみ合っている・・
「ふん!タッ君の元カノだから私のお母さんみたいに素敵な人かと思ったら大した事無いのね」
「えっ?」 ヨウコが俺を見る
「由香ちゃん!?」 とにかく、余計な事を言う前に強引に手を引いて電車に乗り込む。
「あっ、タクヤ!」 「ん?」
「私まだ貴方の事諦めてないから!」 「・・・・・・・・・・」
プシューッと音をたてて電車の扉が閉まる。 ヨウコは扉越しに俺を見つめいたと思う。 でも俺は顔をあげて真っ直ぐ彼女を見ることができなかった。
「ベーーーだ!」 走り出すと隣で由香ちゃんが舌を出してヨウコに丁重なお別れの挨拶をしていた。 ホームを過ぎてヨウコが見えなくなる。
「由香ちゃん!君は本当に連れて歩くとろくな事しないな!」 「なにさ!元カノだからってあの態度、失礼しちゃうわ!」 聞いてない・・
「大体何?タッ君に捨てられた癖に未練タラタラでダッさい!」 「・・・・・・・・・」
「タッ君もああいう態度は良くないよ!もっとはっきりしないと!タッ君には私とお母さんがいるでしょ!」 「ちょっ由香ちゃん声でかい!!」 車内の視線が痛い・・・・
「ね、あの女の何処が良かったの?」 遊園地でも遊具そっちのけでヨウコの話題に
「何処がって・・言われてもな・・」 黒いロングの髪落ち着いた感じ・・とか・・
「別れたんでしょ?」 「別れたよ・・」
「何で別れたの?」 真剣な顔で聞いてくる由香ちゃん
「何でって・・ってなんて俺がそんなことまで由香ちゃんに教えないといけないわけ?」
「だってタッ君はお母さんの彼氏だし、一応気になるじゃん娘としてはね」 そんな風に言ってはいるけど目がランランと輝いててうそ臭い
「・・・・・・嘘だ、絶対興味本位だろ」 「まあ、それもない訳じゃないけどw」
「・・・・・・・・」 「別に、それこそ由香ちゃんが言ったとおり、ダサい話だよ」 「彼女が浮気して、許してくれって言われたけど俺が我慢できなくて終わっただけだよ・・」
「それで、あの女さっきあんなこと言ってたわけ?」 「まあ、そういう事だね・・」
「まだ好きなの?」 「え?」
「あの女のこと」 「まさかwもう俺は終わったと思ってたよ・・あんな所で久しぶりに会ってちょっと昔の事思い出したりはしたけどね、辛いだけだったし」
「ならいいけど・・・でも気になるなあの女・・」 「ほら、ヨウコの事はもう良いからせっかく来たんだから遊んで帰ろうぜ!」
「そうだね!いこっ!」
ヨウコとは、大学で知り合った。 同じサークルで活動してるうちに自然と付き合うようになった。 はっきりどっちかが告白したわけじゃなくて気がついたら一緒に居るようになって、デートしてキスしたりエッチしたり・・ちゃんと付き合おうって言おうとしてた矢先だった。 ヨウコに別の男が居るって知った。
俺と知り合う前からの関係だったらしい。 ただ、ヨウコの気持ちは離れ初めていたけどズルズルと続いていたそうだ。 そんな時に俺と出会って好きになった・・ 別れようとしてる時だった・・そういう風に言われた。
好きなのは貴方だけなの・・ヨウコは泣いていた・・・・ 今思うと、その言葉に嘘はなかったのかもしれない。 でも、俺は結局我慢できなかった。 一方的に別れを告げてサークルもやめた。
大学でも遠くで見かけると回れ右をして回避した。 番号もアドレスも変更した。 空いた時間は家庭教師のバイトを入れた。
「ねえ、聞いてる?!」 由香ちゃんの声にハッとなる。 2人の乗る観覧車は丁度頂上に来た所だった。
「あっ、ごめん・・なんだっけ?」 「もー!ちゃんと話聞いてよ!」
「ごめん!で、なんだっけ?」 「・・・・・・・・もういい・・」
これはいかん・・明らかに怒ってる・・・
「本当ごめん!色々考えちゃって、ごめん由香ちゃん!!」 拝み倒すようにして謝る
「じゃあチューして!」 「えっ?」
「前みたいにまたチューしてくれたら許す・・」 「そ、それは・・」
「いいから!!しなさい!」
由香ちゃんの眼から涙がポロリとこぼれおちた。
「由香ちゃん・・」
しまった!という感じで必死に涙をぬぐおうとする由香ちゃんだが、 必死に手で涙を押さえようとすればするほど両目からポロポロと止め処なくあふれてくる・・・
「もういやだぁ・・・・馬鹿みたいじゃん・・グスッ・・ずっと楽しみにしてたのに・・グスッ・・ううっ」
とうとう本格的にボロボロ涙が溢れ出す。
「由香ちゃんごめん!本当ごめん!!」 「馬鹿!タッ君の馬鹿!!うえぇぇええ」
大変だマジ泣きだ・・
「私だってタッ君大好きなのに!!」 「ごめん・・」
小さいからだで力いっぱい俺に抱きついてくる。
「ごめん・・・」 馬鹿の一つ覚えみたいに同じ台詞しか出てこない俺
「ごめんばっか!」 「ごめん・・」
そういい続けるしかなくて・・由香ちゃんを抱きしめたままただ子供をあやすように背中をさするしかない俺・・
「・・・・・・・・・・」
由香ちゃんが涙目のまま俺を見上げる、その表情が順子さんにそっくりだった。 そのまま顔を近づけてくる由香ちゃん・・・唇が触れ合う
何度も短いキスをもどかしそうに繰り返す由香ちゃん
「違う・・」 「違う?」 「違う・・」 由香ちゃんがキスしながら何度も言う
「何が?」 「こんな風じゃない・・もっと違うキスがいい・・」
「それは・・・」 「じゃないと許さない・・」
「でも・・」 「いい・・もう勝手にする・・タッ君は動かないで・・」
そういうと由香ちゃんは強引に舌を入れてくる。 なんだか我武者羅なキスだ・・・ 由香ちゃんが乗り出してくるように俺の口に吸い付いてくるから 徐々にのけ反って2人観覧車のシートにのびるようにころがる・・ 「んっ・・ふっ・・」 2人の吐息だけが響く。
由香ちゃんからなんだか順子さんと同じ匂いがする・・・そうか・・シャンプーの匂いか・・ そんな事を考えてしまう。
「ふう・・はぁ・・はぁ・・」 夢中でキスを繰り返す由香ちゃん
「お母さんとタッ君ばっかり仲良くしてズルイよ・・」 「・・・・・・・・」
「私もタッ君の事好きだから・・」 「同じじゃなきゃヤダ・・」
「・・・・・・・・・・」
そういうと由香ちゃんが俺の手をとって自分の胸に置く。
「お母さんみたいに大きくないけど・・直ぐに大きくなるよ・・」 「由香ちゃん・・・」
「タッ君だって男の人なんだから私の事好きじゃなくてもドキドキするでしょ?」
確かにドキドキする・・それに今の由香ちゃんは順子さんの若い頃みたいでなおさらだ・・
「・・・・・」 「私、タッ君が言うほどわがままじゃないよ・・私とお母さんどっちか選べとか言ったりしないよ・・」 「だから、私を仲間はずれにしないで・・」
泣きそうな目で俺を見つめる由香ちゃんは いつものような強気で大人っぽい小悪魔な雰囲気はなく・・ どこか孤独に震えているようなそんな儚げな幼い少女にみえた。。
丁度観覧車が一回りして扉が開く。 2人無言で観覧車を降りて歩く。 由香ちゃんは本当は寂しいのだろうか・・・ お父さんに裏切られ自分を置いて出て行き・・母親は違う男を好きに成った。 たった一人孤立して、誰も側に居ないような気がしてるのかもしれない・・・ 俺との関係に拘るのもお母さんと同じ男を好きで居ようとしているのも、 本当はお母さんと離れたくない・・そういう気持ちからなのかも知れない・・
「由香ちゃん・・」 「・・・・」
俺の声に隣を歩く由香ちゃんはビクッと震える
「お母さんの事好き?」 「・・・・・前は嫌いだった・・お父さんもお母さんも嘘ばっかりだったし・・・・・でも今のお母さんは好き・・」
「・・・・・」 「でも、私は本当にタッ君も好きなの・・そういうこと関係なくタッ君が好き・・」
必死に手を握って訴える由香ちゃん
「わかった・・」 「今すぐじゃなくて良い・・今はお母さんの次でも良い・・でも、いつかは私だけを見て欲しい・・」
順子さんは許してくれるだろうか・・ 多分許してくれる気がする・・もし俺が「由香ちゃんと付き合います・・・」 と言えば、あの人は笑ってそれを許してくれるだろう・・ なら、順子さんにとって俺はなんなんだろうか・・ 歳が違いすぎる事がそんなに大きな事なのだろうか・・ 俺には想像が付かない・・
帰り道2人はずっと無言だった。
「タッ君・・私今日は帰りたくない・・・」
電車の席で2人座っていると由香ちゃんが言い出す。
「なに言い出すんだ・・それは無理だよ・・・」 「今日はタッ君の隣で寝たい・・」
「無理に決まってるだろ・・第一お母さんになんて言うんだよ」
それこそ顔向けできない・・恋人としても先生としても・・
「お母さんには許可貰ったよ・・・」 「なっ・・そんな嘘・・」
「嘘じゃないよ」
由香ちゃんの眼はまっすぐ俺をみていた。
「昨日、離婚が正式に決まった後ね、お母さんと2人で話したの」 「はっきり言ったよ・・お母さんに、私はタッ君が好きだからお母さんにも渡したくないって」
「それで、順子さんは何て?」 「何も・・ただタクヤさんが決める事だからって・・それでお母さんは良いの?って聞いたら」 「世界で一番タクヤさんの事が好きだけど、私と一緒になる事はあの人の幸せじゃないって」
「そんな!俺は・・・」
俺にとっての幸せが何か・・俺にだったまだ解らない・・でも少なくとも今の俺には順子さんと一緒に居る時間は何よりも大事なものだ。
「本当は年齢の近い人と一緒に歳を重ねて行くのがいいの、私のわがままであの人を私の人生に巻き込んだけど私はそれ以上は求めちゃいけないって」
「本音を言えばしばらくの間、あの人の温もりを分けてくれるなら、あの人が最終的に誰を選んでも私は構わないって・・もし貴方とタクヤさんがそういう風になってくれるならむしろずっと側で見守っていきたいって・・」
「そんな・・そんなこと・・順子さん・・・」
順子さんは最初から俺の気持ちが冷めてしまうような先の未来まで見越して別れが来る事も覚悟で関係を結んでいた。 だからそういう風に思うのだろうか・・
「私その話を聞いてやっぱり親子だって思った、私もそんな風だったら素敵だって思ってたから・・」
「でも、幾らなんでも可笑しいだろ君はまだ中学生で・・」
「うん、だから私が大人になるまではタッ君はお母さんのものでいいの」 「その間に私はタッ君に大好きに成ってもらえるように努力するから」 「私勉強も頑張るしお料理もお母さんに教えて貰うことにしたの」
<続く>
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