牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜 ——日野草城
3年前、アンコールワットを見たくて一人でカンボジアに旅行に行った。シアンコールワットとンコールトムを一日かけて歩き回り、その日の夜は繁華街に繰り出した。白人の観光客や、現地人で繁華街はあふれかえっていた。 一人でバーの道路に面した側で、カエルの唐揚げをつまみながら飲んでいると、ポン引きらしきおっさんに声をかけられた。「ドゥ ユー ウォント レディー?」こんな感じだったと思う。俺はすぐさま「イエス オフコース」と答えていた。ポンひきは最高にいい笑顔をこちらに向けると、ケータイでどこかに電話し始めた。ポン引きに連れられてついたところは「ナイトクラブ」と呼ばれるところで、港なんかにあるコンクリートの建物みたいな、殺風景な感じだった。中は薄暗くて、ぼったくりのキャバクラみたいだった。店の奥をよーく見てみると、数十人の女がこちらを見ていた。ここでちょっとテンションが上がったが、がっついていることを悟られたくなかった俺は、何事もなかったかのような表情をして待っていた。しばらくするとカラオケボックスみたいな個室に連れて行かれて、待つように言われた。ソープの待合室にいるような、そんな感じだ。5分ほど待つと、やり手ババアみたいなやつが若い子を十人ぐらい連れて部屋にやってきた。カンボジアのひとは、やっぱり日本人に比べると色黒で顔立ちが濃い。どっちかというとあまり好みな子がいなかったので、チャンジを要求した。そろと、その子たちはすごすご帰っていき、すぐに別の子たち十人が部屋に入ってきて、満面の笑みを浮かべてアピールしてきた。その中の一人の子がけっこうタイプ。(比較的)色白で、あっさり目な顔立ち。ギャル系の服装で、ちょっと細め。まあ向こうにはもともと、そんなに太った人はいないんだけどね。その子を指名すると、やり手ババアとポン引き、おれとその子だけが部屋に残った。もし一晩だけなら50米ドル、1日チャーターなら100米ドルと言われた。確か当時のレートでは、1ドル100円を切っていたので、迷わず1日チャーターコースを選んだ。そこから自分の泊まったホテルまでは、ナイトクラブ専属運転手の後ろに女の子、ポン引きの後ろに俺というように分乗して移動した。ホテルのフロントでは、「もしそのレディーとトラブルがあっても、当方では一切責任を負いませんよ」みたいな確認をされた。女の子の方は、自分のIDかーどみたいなやつをフロントに提示していた。どうやらこういうのは日常茶飯事みたいだ。ホテルの部屋に入ると、まず女の子からシャワーを浴びたいと言ってきた。基本的に英語での会話なんだけど、英会話に自信がないおれよりも、彼女は英語ができなかった。ただ、ニュアンスはだいたい伝わってたので、意思の疎通に意外と問題は生じなかった。一緒にシャワー浴びる?とふざけて聞いてみたら、怖い顔して「ノー!」って言われた。事務的に事を済ませようとしてるんだなと感じた。彼女がシャワーから帰ってきて、化粧も落ちたスッピンの顔を見たけど、濃い顔に塗りつけられた化粧より、素のままの方が美人だと思った。あくまで日本人の好みなんだと思うけど。入れ替わりで俺もシャワーを浴び、特に会話もなく二人でベッドに入った。ベッドではおっ○いをなめたりもんだりしつつ、ま○こをひたすらいじったりした。技術が未熟なせいか、あまり気持ちよさそうには見えなかった。(これはハズレをひいたかな・・・)なんて思いながらも、行為に没頭しようとした。で、挿入前にフ○ラを要求したんだけど、それも「ノー!」キスも「ノー!」仕方ないんで、自分でゴムをつけて挿入。やっぱりマグロ。事務的に腰を振って、1回戦終了。シャワーをあびて、その日はそのまま就寝。次の日起きると、もう彼女は窓際のテーブルのところに座っていて、テレビを見ていた。寝起きなのでうまく頭が働かなかったが、「ハロー」とかなんとか話しかけたと思う。ニコリともせずに「ハロー」と挨拶してくれた。昨夜の契約で、24時間は一緒にいることができるので、彼女と二人でマーケットに買い物に行くことにした。カンボジアではタクシーがクソ安いので、ずっとタクシーで移動してた。マーケットといっても、スーパーマーケットみたいのじゃなくて、雨が降れば雨漏りするような屋根がついたマーケットだ。でも地元の人の生活の中心的な場所みたいで、観光客より地元の人が多かったように記憶している。円高なので、ただでさえ安い物価が、さらに安く感じることができた。しかしアジアの旅行の醍醐味は、交渉だ。値札のついていない商品の価格を尋ねて、そこから値引き交渉していく。交渉が決裂することもあるのだが、余談ながら自分の経験上、一番しつこく食い下がってきたのがインド人、その次はタイ人だ。カンボジア人はその辺は、比較的あっさりしていた。ここで、同行している彼女に交渉をお願いしようとした。そうすると、現地の言葉でダーっと話したと思ったら、瞬く間に半額ぐらいにしてくれた。そこで彼女が「このぐらいしか安くならなかったけどいい?」みたいに、ちょっと申し訳なさそうに聞いてきた。俺が「イエス!グレート!サンキュー!」みたいに大げさに喜んで見せたら、彼女は初めてちょっと微笑みかけてくれた。お昼も夜も、あまり現地の人はいかないような、というか値段の都合で行けないような店で食事をした。最初はおどおどしていた様子だったが、だんだん打ち解けてきたからか、夜には笑って会話できるぐらいに中は深まっていた。そこで色々なことを聞いた。出稼ぎでカンオジア北部から、シェムリアップに来たこと。毎月家に仕送りしていて、兄弟たちを援助していること。かつて日本に在住していた男と付き合っていたが、帰国してしまった事。将来はカンボジアを出て、日本で働いてみたいということ。当たり前だが、体を売っている彼女たちにも、それぞれに夢や希望があるのだ。夕食を食べながらそんな話をしていると、もう店出勤しなければいけない時間が近づいていた。俺は正直、もうちょっと彼女といたいと思った。彼女がどう思っていたのかはわからない。彼女がタクシーを捕まえようとしたときに「可能ならもう一日一緒にいてほしい」と告げた。一瞬困ったような顔になったが、「やり手ババアに電話してみる」と、ケータイで連絡をとりはじめた。結果はOK。おれと彼女はもう一日、一緒にいられることになった。その場で100ドルを払って、宿に帰った。おれはこの時、両親ともに死去、嫁も子供もいない状態だったので、ひと肌が恋しかったのだと思う。恥ずかしい話、彼女をちょっと好きになり始めてたのかもしれないし、同情していただけかもしれない。細かいことは忘れてしまったが、まだしばらく彼女といたいと思ったことは確かだ。食事が終わって宿に帰ると、昨日のデジャブかとおもうぐらい同じパターンで、シャワーを浴び、ベッドイン。でもこの日は、前日の内容とはちょっと違った。まず彼女の方から、超濃厚なディープキスをされた。なんならおれが引くぐらい。八重歯が唇に刺さってとっと痛かったwそのあと、おもむろに布団の下に潜り込んでいったと思ったら、昨日冷たく拒否されたフ○ラをしてくれた。慣れていないのか、歯がカリのところに当たって痛かったが、彼女を傷つけると思ってガマンしてたwでもうあっぱりうれしかったね、その時は。少しずつ心を開いてくれてるっていう、そんな感じがした。ゴムをつけて挿入したときの反応も、きのうより心なしか良かった。こうなんていうか、入れていくと彼女の腰が浮いてくる、みたいな。一応感じてくれてるのかな、とか思った。声も昨日は「ア。ア。」みたいにぶっきらぼうな感じだったんだけど、この日は「アッ・・・!」みたいな感じ?発音するのは簡単だけど、文字に起こすのは難しいねw早漏なんでゴムのなかで発射。そのままベッドでゴロゴロしてた。昨日は、お互い背中を向けて寝たが、この日は妙におれに甘えてきた。腕枕を要求してきたりね。お父さんが恋しいのか、もしくはお父さんに虐待されてたのか、勝手な妄想をしているうちに寝てしまった。見られるかな?顏はさすがにまずいので。次の日も観光とお買いもの。と言っても、銀座でブランド物を買うとかとは縁の遠い、雑貨あさりだけど。おれは絵画とかが好きなので、油絵とかを見ていたが、絵一枚になんでそんなにお金をかけるのか、不思議がられた。で、彼女にも、なにか好きなものを買っていいよと行ったら、えらい剣幕で遠慮された。でもしつこく、洋服とかを彼女に当てがって「オー!ベリーグッド!」みたいなことを言ってたら、苦笑いしながら何着かワンピースを受け取ってくれた。といっても1着800円とかだけどwなんだか、愛人になったみたいなかんじで、不思議だった。街をぶらついていると、彼女が「自分の家に来てほしい」と急に言い出した。(これが美人局か・・・!)とか、そんなことは全く考えずに、ホイホイついていった。外人の観光客が滞在するあたりはある程度整備されているけど、ちょっと路地裏に入ると、道の舗装もされていない、ちょっと汚い地域に入る。彼女の家はそんな場所にあった。バカ面した日本人を連れて帰宅する彼女に、近所の住人たちの奇異な目が注がれた。家に入ると、まず仏壇が目に入った。本当にアジアの人は信心深い。でも貧困から抜け出せないのは、なんでなんだろうね。彼女が仏壇に水(?)かなんかをあげているのを待っているとき、一冊の本が目に留まった。彼女に聞いてみてみたら、日本語を勉強するためのテキストだった。なんでも、前の日本人の彼氏にもらったんだとか。いくつか書き込みがしてあった。もしかしたら彼女は本当に日本で働くことを夢見ているのかもしれないと思った。彼女の使っていたテキストを二人で見ながら、おれは日本語を教えた。幼稚園児に教えるレベルだけどね。一生懸命不慣れな日本語の文字を書く彼女。つたない発音で、東北なまりみたいな発音をする彼女。なんだか急にいとおしくなり、彼女をベッドに押し倒し抱いた。その日は本当に暑い日で、ホテルのエアコンの効いた部屋だったらよかったのかもしれないけど、二人で汗をかきながらセッ○スした。無我夢中でわからなかったが、ゴムをつけずにやってた。日本に帰っても楽しい日常が待っているわけでもなく、エイズで死ぬならそれでいいやぐらいに思ってたかもしれない。とにかく、その時は彼女の部屋ですぐに抱きたかったんだ。終わった後、もう一日いっしょにいようと提案。彼女は快諾してくれた。人目もはばからず腕を組みながら、リア充ばりにラブラブでホテルに帰った。ホテルのプールで休んだり、食事したりした。その日の夜、ホテルでテレビを見ていると、彼女の方から誘ってきた。俺はただ彼女の下で、ガウンを脱がされ、なすがままになっていた。へたくそなフ○ラを健気にやってくれているのを、見ていると、痛かったけどいとおしいという感情が湧いてきた。正常位になって腰を動かしていると、彼女がなにかつぶやいた。最初は小さくてなにを言っているか聞こえなかったけど、良く聞いたら「カム インサイド」って言ってた。英語が苦手なおれの頭はフル回転した。(たしか日本ではイクだけど、英語だとカム、だったよな・・・?)(インサイドは・・・中か。)(え・・・?)ということで、おれは「中で出して」と翻訳した。俺は「ノー!ユー メイ ビー プレグナント!」みたいなことを言ったと思う。それでも彼女は、すごく強い力でおれの腰に足をまきつけてきて、少し涙ぐみながら要求してきた。やってはいけないと思うほど、人は興奮するだろ?俺は人生初の中田氏をした。明日は帰国の日ということ、俺がただ観光でこっちにきたことは、彼女にはすべて話してある。セッ○スが終わったあと、彼女は抱きついてきながら「サンキュー」と何度も俺にキスをした。ちょっと酒も入っていたし、なにがなんだかわからなかったが、無駄な充実感だけはあった。イチャイチャしながら、その日はいつのまにか寝ていた。帰国の日。やっぱり彼女はおれより早く起きて、窓辺に座っていた。すごくいい天気で、彼女はまるで、神様の後ろから後光が差しているようだった。部屋で彼女が向いてくれたリンゴなんかを食べながら、なんとなく二人で黙って座っていた。おれはこれが最後になるのは、いやだと思った。もてない男は、惚れっぽいから困る。紙に自分のケータイとアドレスを書いて、彼女に渡そうとした。彼女はそれを拒否した。「いつか勉強して、自分の力で日本にいって働きたい。」「その時は、あなたを必ず見つけるから待っていてほしい」おれは母親の葬式の時以来泣いた。ホテルのロビーで彼女は笑顔で送り出してくれた。一緒に日本に帰って、俺の仕事が終わったらふたりで日本語の勉強をして、彼女に俺の死後も一生困らないぐらいの財産を残して、彼女に看取ってほしい。くだらないけど、そんな妄想もした。でも、おそらくタクシーにのったらすべて終わる。わかってはいるが、それを包み隠して、俺たちは笑顔で手を振って別れた。帰りの飛行機では、ずーっとまどの外を見て彼女のことを考えていた。この3日間は、おれがずっと独占していたけど、今頃また別の男に抱かれているかもしれないと思うと、ひどく苛立たしい気持ちになった。数日間は腑抜けのようになっていたが、仕事が始まるとそうも言っていられない。日常の雑務を淡々とこなすうちに、毎日考えていた彼女のことも、だんだんと思い出さなくなってきた。 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