牝獣(ひんじゅう)となりて女史哭(な)く牡丹の夜 ——日野草城
-
ホームページ
戻る
15-06-14 08:37
学校帰りに、何気に公園を見ると、幼馴染の香織がいた。 片隅のベンチに腰掛け、俯いていた。 香織とは、幼稚園から中学まで一緒。 幼稚園時はほぼ毎日、小学生になっても時々だが、遊んだりする仲だった。 中学になると香織は陸上部に入り、また可愛い顔の香織はアイドル的存在となり、俺と接する事がなくなった。 俺、まぁ不細工な方だから・・・ 高校生になると、学校が別々だった事もあって、顔すら合わす事がなくなった。 家、2軒挟んだ隣なのにね。 正直思うのは、生きる世界が違うのだろう。 俺も香織の存在を忘れてたし、きっと香織も、俺なんかの事は忘れてたろう。 公園で見かけるまではね。
泣いてるように見えた。 いや・・・間違いなく泣いてたろう。 声をかけようかと思ったが、ほぼ3年近いブランクがある。 相談しあう仲でもないし、笑いあう仲でもない。 俺は歩を進め、通り過ぎようとしたが・・・ でも、やはり気になってしまった。 俺は自販機でコーラを買い、香織の側に足を進め、黙ってそれを差し出した。
「俊ちゃん・・・」 声は出さなかったが、香織の口がそう動いた。 3年もまともに喋ってないのに、俺、通り過ぎようとしてたのに、あの頃と同じような呼び方をされて、何だか嬉しかった。 でも、手放しに再会を喜べる雰囲気ではなかった。 香織の目が案の定、真っ赤だったから。
暫く黙ったまま、目だけを合わせていた。 「ほらっ」 俺はやっと口を開き、香織に尚もコーラを差し出した。 ところが香織はそれを受け取らず、突然立ち上がると、いきなり俺に抱きついてきた。 可愛い子に抱きつかれ、悪い気なんてしない。 でも俺にしてみたら、女の子に抱きつかれるなんて、生まれて初めての事だった。 香織は俺に抱きつくと、声を上げて泣き出した。 周囲の視線が突き刺さるが、俺、どうしていいか分からなくて。 どうしていいか分からず、ただ立ち尽くした俺の足元に、コーラの缶が転がった。 香織は尚も泣き続けていた。
「ごめん・・・それから・・・ありがと・・・」 泣き止んだ香織は俯いたまま、俺を見る事無くそう言った。 「折角だから・・・これ・・・貰っとくね」 俺の足元のコーラを拾うと、俺に背を向け、 「少し・・・スッキリしたよ」 そう言うと、一人で公園を後にした。 俺は黙って、香織の後姿見送った。
翌朝、学校に行こうと玄関を開けると、門の所に人影が見えた。 向こうも俺に気付いて、手を振った。 「俊ちゃ?ん!」 香織だった。 「駅まで、一緒に行かない?」 「別に・・・いいけど・・・」 俺はツレなく答えたが、内心はドキドキだった。 俺がそんなんだから、当然会話なんて弾まない。 俺自身は、「あぁ」とか、「いや・・・」とか返すだけで、色々と話しかけてくるのは香織。 でも俺、何を聞かれたとか、まるで覚えてなくて・・・ ただ、あっと言う間に駅に着いた気がする。 「じゃあね!」 笑って手を振り、反対側のホームに行く香織の事を、昨日と同じように見送った。
学校が終わり、いつものように電車に乗った俺。 いつもの駅で降り、改札を抜けると、そこに香織がいた。 俺を認めた香織は、手を振って微笑むと、俺に近付いて来た。 「一緒に帰ろう!」 そう言うと香織は、ポケットに突っ込んだ俺の右手に、自分の腕を絡めて来た。 俺はまたドキドキしながら、朝来た道を歩いた。 朝のように、「あぁ」とか「いや・・・」しか口にしてない。
「俊ちゃんって共学だったよね?」 「あぁ」 「俊ちゃんは優しいから、もてるでしょ?」 「いや・・・」 「うそ?っ!絶対もてるって!」 「そんな事ねぇよ!」 俺は初めて、「あぁ」「いや・・・」以外を口にした。 「ごめん・・・怒った?」 「いや・・・」 「怒ってるでしょ?」 「いや・・・」 「あたし・・・迷惑かな?」 「いや・・・」 「静かにしてた方がいいなら・・・黙ってようか?」 「いや・・・俺こそ・・・大きな声出してゴメン。」 謝ったけど、何か重苦しい空気が流れてしまった。
「上田さん(香織)、陸上は?」 初めて俺から、香織に話し掛けた。 しばらく香織は黙ってたが、「やめちゃった」と言うと、なんだか寂しそうに笑った。 俺はそれ以上は、聞いてはいけない気がして、「そう・・・」とだけ返した。 香織は中学時代、100mで県大会3位の実力者だった。 高校は勿論特待生。 そう言えば・・・高校は寮だって聞いた記憶が・・・ やめたから、今は家から通ってるんだ。 「かなり・・・いじめられちゃってね・・・」 香織はそう付け加えると、昨日の様に下を向いた。 また、重苦しい空気が流れた。
俺の家の前で香織は、絡めた腕を解いた。 そして俺に微笑みかけながら、「明日も、一緒に行っていい?」と聞いてきた。 俺は「あぁ」と答えた。 「あのさー・・・」 俺が香織に目をやると、「『上田さん』は寂しかったぞ!」と言った。 「昔はさ?・・・『香織ちゃん』って呼んでくれてたよね?」 「あぁ」 「『香織ちゃん』って呼んでよ」 「あぁ」 「『香織』でもいいぞ!」 「いや・・・」 笑う香織。 「それからさ?」 「本当にもてないの??」 「あぁ」 「ふ~ん・・・」 その後に、香織が何か言った気がした。 でも、聞き返さなかった俺。 「じゃ、明日ね?」 香織はそう言って手を振ると、自分の家に入って行った。
翌朝も、香織は門の側に立っていた。 そして夕方には、駅の改札口にいた。 その翌日も、そしてその次の日も。 俺らは毎朝一緒に駅に行き、夕方には並んで帰った。 ある時、中学時代の同級生と鉢合わせた。 「えっ?」と一瞬驚いたそいつ。 「お前ら・・・付き合ってんの?」 その問い掛けに、「へへっ」と笑った香織。 そして俺は、「そんな訳ないだろ!」と強く否定。 「だよな!」 同級生は安心したような顔をした。 その日は途中まで、3人で並んで帰った。 香織はずっと、そいつと喋ってる。 俺は一言も口を利かなかった。 同級生と別れ、また二人きりになる。 いつもはずっと喋ってる香織が、珍しく一言も喋らない。 気になりながらも俺は、訳を聞く事が出来なかった。 そして香織との別れ際、「あんなに強く否定しなくてもさ・・・」 そう言うと香織は手も振らず、家に入って行った。
翌朝、門の前に香織は来なかった。 夕方も、駅の改札口にはいなかった。 気になった俺は、香織の家に行ってみようかと思った。 でもいざとなると、呼び鈴を押す勇気がなかった。 小学生の頃は躊躇なく、押すことが出来たのに。 下からただ、灯りのついた香織の部屋を見上げるだけだった。
翌朝俺は早起きをして、いつもよりも随分早くに家を出た。 家を出て行く先は、3軒隣の香織の家。 でも30分たっても40分たっても、香織は出て来なかった。 諦めて、学校に行こうかと思った時、香織の家の玄関が開いた。 出て来たのは、香織の母親。 「あら?俊ちゃん・・・久しぶりねぇ」 俺は挨拶をすると、「香織ちゃんは?」とおばさんに聞いた。 「香織ねぇ・・・昨日から具合が悪いんだって・・・」 そう言うと2階の、香織の部屋の窓に目をやった。 「困った子よね?・・・」 そう言うと俺の方を見た。 「そうですか・・・」 俺はそう言って頭を下げると、駅に向って歩いた。 香織がいない道は、とても寂しかった。
その日の夕方、俺は香織の家の前にいた。 ケーキ屋で買った、ショートケーキが入った包みを持って。 相変わらず、呼び鈴を押すのは躊躇した。 躊躇はしたが、でも思い切って呼び鈴を押す。 出て来たのは、おばさんだった。 「香織ちゃん・・・いますか?」 おばさんに尋ねると、「いるけど・・・お部屋から出て来ないのよね・・・」と、困った顔をした。 「そうですか・・・そしたらこれ、香織ちゃんに。僕が来たって、伝えて下さい。」 そう言って頭を下げ、立ち去ろうとした俺を、おばさんが呼び止めた。 「俊ちゃんの顔を見たら・・・元気になるかもね・・・」
俺はおばさんに続いて、狭い階段を上った。 5年生の時に上って以来。 でも、懐かしさに浸る余裕なんてなかった。 おばさんがノックしても、中からは何も反応がない。 「俊ちゃんが来てるわよ。開けるわよ!」 そう言っておばさんがドアを開けたのと同時に、「えっ?」と驚いた声が聞こえた。 完全にドアが開き、布団から顔だけだした香織と目が合う。 「ちょっと待ってよ?!」 香織はそう言って布団にもぐるが、おばさんはお構いなし。 「さぁ、入って、入って。」 そう言って俺の背中を押すと、「ごゆっくり?」と言ってドアを閉めた。
ただ立ち尽くす俺。 香織も布団を被ったまま、顔を出そうとしない。 そしてドアをノックする音。 おばさんがジュースとグラスをトレーに乗せて、部屋に入ってきた。 「あら俊ちゃん、立たされてるの?」と笑ってる。 「はい・・・そんなとこです・・・」 「香織に遠慮しないで、座っていいのよ。」 そう言うとおばさんは、クッションに目をやった。 「はい・・・」 俺は返事をすると、クッションの側に腰を下ろした。 「香織ちゃん!いい加減にしなさいよ!」 おばさんは布団の中の香織に、厳しい口調で言った。 「俊ちゃん、香織が出てこなかったらそのケーキ、おばさんに頂戴ね。」 そう言うとおばさんは、部屋から出て行った。
「ケーキとか・・・買って来てくれたの?」 おばさんが出て行くと布団の中から、香織が聞いてきた。 「あぁ」俺はそれだけ返した。 「ケーキ、食べたいけど・・・恥ずかしいよ?」 布団から顔だけ出して、香織がそう言った。 「じゃ俺・・・帰るから。ケーキ食べて元気出して。」 俺が立ち上がろうとすると香織は、「待って!」と言って布団から出て来た。 でも次の瞬間、「キャッ」と言うと、ピンクのパジャマの胸元を隠し、前かがみにになった。 「帰るよ」 俺は立ち上がり、ドアノブに手をかけた所で、香織に腕を掴まれた。 「待って!一緒に・・・ケーキ食べよ・・・」
「ノーブラだから・・・あまり見ないでね。」 俺の正面に座った香織は、襟元を左手で抑えながら、俺にそう言った。 「上に・・・何か着たら」 そう言われて照れた俺は、そう言うのがやっとだった。 「そだね・・・」 香織は立ち上がると、薄いピンクのカーデガンを出し、それを上にまとった。 でもそれで無防備になった香織。 ケーキが入った箱を覗き込んだり、食べようと前屈みになった時に、チラリと胸元が覗く。 その都度俺は、目のやり場に困って、香織から視線を逸らした。 人の気も知らずに香織は、「おいしい」と嬉しそうな顔をした。
「昨日ね?子供の頃の写真を見てたんだ?」 ケーキを食べ終えると、香織はそう話した。 「ふ?ん・・・」 「そしたらね?俊ちゃんが水溜りで転んで、ベソかいてる写真が出てきたの?」 「そんな事、あったっけ?」 「覚えてな?い?3年生の時だったかな・・・ウチの庭で転んでさ?」 「そうだっけ・・・」 「お母さんに服脱がされて、素っ裸なの!」 「嘘だ?!」 「嘘じゃないよ!写真あるもん!」 そう言うと香織は、押し入れから古いアルバムを取り出し、俺の横に座った。 「ほら!っ!これだよ!」 確かに俺、素っ裸になってベソかいてる。 「ほらね。」 勝ち誇ったような香織の顔。 「こんな写真、いつまでも持ってんなよ」 「だって俊ちゃん、ベソかいて可愛いんだもん」 香織はそう言うと、その写真をまじまじと見た。
「香織ちゃんだって、面白い写真、隠してんじゃないの?」 「見たい?」 香織はそう言うと、尚も俺に近付き、肩を並べるようにして、アルバムのページをめくった。 「俊ちゃんって小さい頃、ホント小さかったのに、今は背が高くなったよね?」 時々写ってる俺の写真を見ながら、香織はそう言った。 「今も・・・男にしては高くはないよ・・・」 「でもこの頃って、あたしより頭一個分小さいんだよ」 「だね・・・」 いつしか香織と俺の肩は、ぴったりとくっついていた。 でも俺は、あえて気付かない振りをした。 気にしてしまうと、恥ずかしさに耐えれそうになかったから。 香織は気付いてたんだろうか? 肩がくっついてる事に。俺のそんな思いに。
「こっから先は、見せてあげない」 そう言って香織は、アルバムを閉じた。 「乙女の秘密があるもんね?」 「あっ!ズルイ!」 そう言って香織の方を見た時、すぐ側に香織の顔があって驚いた。 慌てて目を伏せた俺。 「ねぇ俊ちゃん・・・」 香織の呼び掛けに、再び顔を上げた俺。 目の前に香織の顔。 「あたしの事・・・キライかな?」 「キライな訳・・・ないじゃん・・・」 「ホントに?」 「あぁ・・・」 「じゃ何であの時、あんなに大声出して否定したかなぁ?」 「だって・・・俺なんかと・・・香織ちゃんが嫌かと・・・」 目を伏せて呟いた俺の唇に、温かくて柔らかい感触が急に。
「あたしの・・・ファーストキスだかんね」 目の前の香織が笑った。 勿論俺もそうだったけど。 「ケーキの・・・味がしたよ」 そう言って笑う香織。 「俊ちゃん・・・ケーキの味、分かった?」 「いや・・・」 「え?っ!?マジで?」 「うん・・・」 「じゃ俊ちゃん・・・今度は俊ちゃんが・・・ねっ?」 目を閉じた香織の唇に、俺はそっと唇を重ねた。 確かに香織の言うように、イチゴのケーキの味がした。 でもイチゴのケーキよりも、今この瞬間、香織と唇を重ねあってる事のほうが、俺にとっては嬉しい事だった。
「2回もしちゃったね」 そう言って笑う香織。 「あぁ・・・」 「俊ちゃん、何であたしの顔見ないの?」 「だって・・・」 「何よ?」 「恥ずかしいのと・・・」 「何?」 「胸が・・・見えてる・・・」 前屈みになった香織の襟元から、しっかりと谷間が見えていた為、俺は香織の方を見れないでいた。 「えっちぃ~」香織はそう言い、一瞬だけ体勢を変えたが、また前屈みに戻った。 「ホントは見たいくせに」 きっと香織、俺を見て笑ってる。 だから尚更、俺は香織を見れないでいた。
左手をふいに、香織に取られた。 香織は両手で俺の手を掴むと、それを自分の胸に持っていった。 初めて触れる、柔らかい感触。 「あたしも・・・恥ずかしいよ・・・」 その言葉に香織を見ると、香織も赤い顔をしていた。 「直接・・・触っていいかな?」 コクリと頷く香織。 だが襟元からは手が入らず、俺はパジャマのボタンに手をかけた。 「全部は・・・ダメ。恥ずかしいから・・・」 上2つだけボタンを外し、俺はそこから手を入れた。 もっともっと柔らかい感触。 香織は時々、「アッ・・・」とか「ウッ・・・」とか声を洩らした。 俺は香織に、3度目のキスをした。 香織は俺の頭を抱いてきた。 俺も胸から手を外すと、香織の腰を抱いた。 この日、一番長いキスだった。
「Bまでしちゃったね」 香織の部屋出る俺の耳元で、香織がそう囁いた。 「あぁ」 俺は短く答えた。 玄関まで見送ってくれた香織が、「明日・・・一緒に行こうね」と言った。 「それから・・・」 「なに?」 「香織ちゃんよりも・・・香織がいいな」 香織はそう言うと、赤い顔をして舌を出した。
<続く>
[体験告白][ファーストキス][幼馴染][柔らかいおっぱい]
|
Copyright © ハッピーライフ-官能小説(happylives-novel)All rights reserved.
コメント