この話はつづきです。はじめから読まれる方は「狂女」へ
加奈さんを失った心の空白を友里恵さんで補う事は出来ないが、幾らかは紛らわせるだろう。
弱気になっていたせいもあり、以前のように友里恵さんの気持ちを取り戻したかった僕は、花好きな彼女を喜ばせようと、一緒に花を見に行く事を考えた。
桜はもう散ってしまっており、近場で見ごろの花は他にどんなのがあるか、パソコンで色々調べた。
結局、バラはまだ少し早いので藤に決めた。
江南とかいろいろあるが、あの日の思い出を引きずっているせいか、また岡崎公園に決めた。
そして、その事を電話で友里恵さんに伝えた。ところが彼女は逆に、あの花見での嫌な記憶があって、あそこへは行きたくないと反対するのだった。
僕が色々言っても聞かず、〈もしかして、あの時公園にいた女の人たちの誰かに気があるんじゃないの?〉と語気鋭く言って一方的に電話を切ってしまった。
「・・・」
力無く携帯を机に置き、ため息をついた。
『又やっちまった・・・』
僕は椅子の背もたれにぐっともたれ、両手を頭の後ろに組んで大きくため息をついた。
『何でこうなるのかなあ・・・』
友里恵さんの気の強さにうんざりした。
自然、加奈さんの優しさが愛おしく思われ、『今頃どうしとるんだろう・・・?』と懐かしんだ。
『会いたいな・・・』
せめて、おばあさんの家に電話したかったが、その為に彼女との関係がばれてしまいそうで怖い。
深く考えている内に胸が熱くなってきた。
『ああ・・・・・』
こんなに思っていても、あの人はまともな頭じゃないから僕と離れていても平気なんだろう・・・。
それが悔しくもあった。
今の状態から抜け出せないまま僕は心に張りを失って学校生活を送った。
授業中も、よく頬杖をついてぼんやりしていて教師に注意された。
二年になってからは同級生に友達が出来ず、昼休みでも校庭に出て一人ぼんやりしているせいか、誰も声を掛けてこなかった。
初めの内は、友里恵さんの姿を目で探しもしたが、食堂にも校庭にもいない。
もっとも、彼女が僕を心底嫌っているわけじゃない事はわかっていたので、深刻にはならなかったが・・・。
満たされないまま日が過ぎていくうちに、加奈さんへの思いはやるせないながらも諦めの方へ傾いていった。
よく考えてみれば異常な事なので、これを機に忘れた方がいい。
どうせおおっぴらに付き合える相手じゃない・・。
芳美さんや智子さんからも連絡はなく、結局あの人たちも解決策なんて思い浮かばないんだ、と思った。
両親は時々加奈さんについて話をするものの、当然ながら僕の前では、勝叔父さんとのおぞましい関係を口にする事はなかった。
その、まだ子供だと思っている息子の僕までが実は肉体関係を持っていたと知ったら愕然とするだろう。
さすがにそれを知られるのが怖い為、僕は、勝叔父さんがこの先どう出るのかやはり不安だった。弱みを握られている・・・。
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